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NEXT STAGE

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NEXT STAGE
撮影現場の第一線で活躍中の若手フォトグラファーの仕事と、彼らが愛用する機材を紹介します。
公開日:2015/12/14

フォトグラファー 中井菜央/Nakai Nao

CAMERA fan編集部 interview :笠井里香


一冊の写真集に衝撃を受け、目指した写真家への道



日本写真芸術専門学校 報道・写真芸術科 卒業
2008年、『こどものじかん』で名取洋之助写真賞奨励賞を受賞。
2014年、ニコンサロンにて個展『未明』を開催。
現在、新たなテーマでの作品制作に入っている写真家・中井菜央さんにお話を伺いました。

『1990年代にHIROMIXさんや長島有里枝さん、蜷川実花さんなど、当時“ガールズフォト”というのが流行していて、私自身もそんな風になんとなく身の周りのものを撮ったりしていました。でも、当時はまだ写真を仕事にするというような意識はなくて、いろんなことをしていましたね。』


写真家になろうと思った日

そんな中井さんが、写真家を目指すきっかけになった出来事は、ある一冊の写真集だったそうです。



『あるとき、荒木経惟さんの「センチメンタルな旅 冬の旅 」という写真集を見て衝撃を受けたんです。自分の身近に起きる出来事を撮ってそれが写真集になっていて、まったく自分と関係のない家族の写真でこんなに心が動かされるものなのかと。
私がそれまで知っていたのは、広告や雑誌など、自分の身の周りのこととまったく関係のない写真でしたから。
それが25歳くらいのときで、写真家になりたいと思ったんです。

私はパンクが大好きでライブハウスに入り浸り、当時はアルバイトをしながら生活をしていました。
“このままじゃマズイな……”という漠然とした不安を抱えながらも、何をどうしていいか分からなかった。
そんな中で一冊の写真集に出会い、カメラを買いました。カメラの知識など一切なかったので、京都のカメラ店で「写真家になりたいから、写真家が使っているカメラを売って下さい!」と言って、勧められたのがNikon F5、Canon EOS-1V。両方持ってみて、EOS-1Vを買いました。』

ある意味では満たされていた日々


カメラを買ってからの中井さん。変わらず自分のペースで撮影をしながら日々を過ごしていましたが、写真家になるという意志をもって、大きく動き出します。

『カメラを買って、家族の写真や身の周りの何でもない写真を撮っていましたが、これでは写真家にはなれないと思い、東京に出ればなんとかなるのではないかと考え、写真学校を探しました。入る前から一刻も早く卒業したくて2年制を選んだんです。
突然のことに両親も反対しましたが、私はこれ!と決めると誰の言うことも聞かないタイプなので、押し切って上京しました。日本写真芸術専門学校の報道・写真芸術科で2年間学んだあと、作家を目指すのか職業カメラマンを目指すのか考えましたが、スタジオワークにもあまり興味がわかず、アルバイトをしながら作品を発表していくことにしました。


<中井菜央 写真作品>


名取洋之助賞奨励賞受賞作品
『こどものじかん』








photo:中井菜央

作品を撮り続けるなかでフォトコンテストにもいくつか応募しました。名取洋之助賞奨励賞を頂いてからは、賞を獲ったことで人との繋がりができました。ひとつぼ展では若い写真家の方々と繋がり、仲間ができました。
賞を獲ったことで、名取賞の中井さんと言われることに窮屈さを感じたりもしました。仕事として写真を撮ると、私じゃなくてもいいのではないかと思うこともありました。それまでは撮りたい写真だけを撮っていればよかったわけですから。
周囲からは「(写真が)うまくなりすぎているから気をつけた方がいい」というアドバイスもよくもらうようになりましたね。“撮れてしまった”という計算外の部分がなくなって、自分でも驚きがなくなってしまうんです。
作家、カメラマンのバランスをどう取るかというよりも、私なりの見せ方を考えながら撮っています。


ひとりの写真家との出会い

『写真を発表していくなかで、さまざまな写真家さんとの出会いもありました。
カメラのキタムラの吉祥寺店で3年くらいアルバイトをしていたんですが、そこで出会ったのは写真家の赤城耕一さん。名取洋之助賞奨励賞をとったときには写真展にも来て下さって、アシスタントなどもさせて頂きましたね。』



『私自身はアルバイトをしながら写真を撮り、いくつかのコンテストに応募し、ある意味では満たされていたので、何も考えていなかったんですが、それでいいのかと心配して下さる方も多くて。

そんなとき、ある出版社の写真部で働いてみないかと紹介して頂き、迷った末に一度経験としてやってみようと入社を決めました。

そこでは、本の物撮りをかなりたくさんやりました。学校で勉強したはずなのに、先輩が撮った本(装丁)の写真と私の写真とではまるで違う。商業写真というのは、技術がないとできないんだということを痛感しました。
女性誌や、アクセサリーなどの撮影も多く、とても勉強になりましたね。
撮ったものが誌面に出るという責任の重さも感じましたし、作品が広がっていく範囲も私の経験してきた以上に広く、あっという間に世の中に繋がっていくことに驚きました。
そんな日々のなかであらためて、必要とされている写真とは何かということを考えましたね。』

自己表現と機材



現在では、作家活動と仕事としての撮影を並行して行っている中井さん。
使用機材について伺いました。

『フィルム、デジタル両方の機材を使いますが、結果がすぐに見られるデジタルよりも遊べる余地があるのはフィルムだと思います。フィルムカメラはPENTAX67 IIと、PENTAX67を1台ずつ持っています。

35mmの一眼レフは機動性が高く、とても使いやすいのですが、ポートレートを撮りたいと思ったとき、もっと大きいフォーマットを使いたいと思ったんですね。大判、中判といろいろなカメラを試しているうちに、私は一眼レフが好きなんだということに気付いたんです。
ファインダーを覗くことで被写体と向き合うというか、お互いが撮っている、撮られているというシチュエーション、緊張感みたいなものが好きなのかもしれません。PENTAX67ではsmc PENTAX 6×7 90mm F2.8を使っています。写りがいいのはもちろん、最短撮影距離が65cmと、寄れるのがいいですね。さらに寄りたいときには接写リングを使っています。

デジタルカメラはCanon EOS 5D Mark IIIを使っています。仕事の撮影だと、やはりスピード感や経費の面でもデジタルが有利ですね。
ライブ撮影ではストロボを使えないことも多いので、感度の上げられるデジタルカメラはとても重宝します。
また、デジタルカメラには、あえてオールドレンズをつけて撮ることもあります。現代のレンズとは違う表現ができます。
もちろん、フィルムでのオーダーがあった場合には、フィルムでの撮影もします。』


中井菜央作品


『未明』(銀座ニコンサロン個展)










photo:中井菜央


これまでとこれから




『12月から、新潟県津南町というところに長期滞在し、作品撮りをしています。
雪のあまり降らない場所で育ったせいか、雪には憧れにも似たものがあって、とても好きなんです。雪のなかでポートレートを撮ったりもしてきました。

あるとき山形の山中で吹雪で視界がないくらいになってしまったことがあって、真っ白な世界のなかで、怖いという気持ちと同時に美しいという感動が大きかったんですね。そして自分には何もないんだなと感じたんです。

いろいろな雪の降る土地に出かけるなかで新潟県津南町の存在を知りました。
豪雪地帯のなかでは、雪のなかに町があるような感じで、雪の間から見える景色が本来ある景色の一部分しか見えず、「景色が破れている」ように見えたんです。これを写真でどう伝えようかと考えたときに、デジタルカメラの方が表現しやすかったので、今回はデジタルカメラでの撮影がメインになると思います。
しかも、太陽が出ているときに撮影すると、影が出てしまうので、早朝や天候の悪いときを選んで撮影していて、大雪のなかでは、フィルム交換もままならない場合もあるんですよね。

雪を撮りたいという気持ちはあっても、鈴木理策さんなど、既に有名な写真家の方々が雪の写真を発表していますし、好きなものを撮りたいという思いだけではなく、発表することに対する責任も負わなければならないので適当なことはできません。
自分の思いだけでなく、長期で滞在する津南町の町の歴史や、この時代、この場所にあるものを伝えるというのも大きな仕事だと思っています。

20代のころは、自分の名前を売りたいという気持ちが強くて、作品を発表して反応があるのも東京だからこそだと感じていましたが、10年経って欲が薄れてきたというか、写真が残ればいいと純粋に撮りたいものに向かえるようになった気がします。

写真家としての役割を考えながら、これからも好きなものを撮っていけたらと思っています。


<ブログ紹介>


新潟県津南町に滞在して作品撮りを始めた中井さん。雪国に滞在し、撮影するためのさまざまな準備や心構え、町の様子などを伝えるブログを開設しています。ぜひご覧下さい。
中井菜央ブログ『雪国に住む』http://naonakai-snow.tumblr.com/


<学校紹介>


日本写真芸術専門学校
http://www.npi.ac.jp/

東京都渋谷区にある写真の専門学校。
ひとつぼ展やキヤノン写真新世紀グランプリ、コニカミノルタフォトプレミオ大賞、日本写真家協会新人賞など、数々の受賞者を輩出している。
中井菜央さんもそのなかのひとり。初代の校長は写真家の秋山庄太郎氏。現校長は竹内敏信氏。アジアのフィールドワークをカリキュラムに取り込んだフィールドワークコースを開講し、2003年より世界的なフォトジャーナリストのセバスチャン・サルガド氏が名誉顧問に就任。ワークショップや講演などを行っている。


日本写真芸術専門学校のモノクロ暗室


interview & text:笠井里香

photo:CAMERA fan編集部



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