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初心者のためのフィルムカメラの使い方

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初心者のためのフィルムカメラの使い方
これからフィルムカメラを始めたい人に向けて、フィルムカメラとフィルムの基本的な知識と操作方法を解説していきます
公開日:2017/09/11

フィルムの種類とフォーマットについて

Photo & text 大浦タケシ

新たに始まった本コーナー。これからフィルムカメラを始めたい写真愛好家や、使い方にイマイチ確信が持てないフィルムカメラ初心者などに向け、その基本的な知識や作法などを分かりやすく解説していきたいと思う。第1回目となる今回は、フィルムの種類およびそのフォーマットなどを紹介していくことにする。

 

───フィルムの構造

カラーネガフィルムの構造図 富士フイルム株式会社 提供



まずは写真撮影用フィルムの構造を簡単に説明しよう。

フィルムは、主に透明のアセテートという合成樹脂のフィルムベース(支持体)の上に、光によって変化する感光剤というものが塗布されている。感光剤の主薬はハロゲン化銀と言われるもので、化学的な構造の違いでいくつかの種類が存在する。

ハロゲン化銀の一つに塩化銀(AgCl)というものがある。ちなみに、「銀塩写真」や「銀塩カメラ」などの銀塩とは、化学用語で化合物を表す「塩(えん)」からきており、銀の化合物を用いた写真システムということである。また、感光剤は乳剤とも言われ、こちらの呼び名も一般的によく使われる。


その感光剤に光を当てるとハロゲン化銀が化学的に変化し、絵が記録される。ただし、この時点ではまだ絵を見ることはできない。絵を見られるようにするには、まず光の当たったハロゲン化銀を銀粒子に変化させるために現像を行い、さらに化学的に安定させるために定着を行う。具体的な現像プロセスや使用する薬品等については、またの機会にご紹介する。

ちなみに、感光剤はその特性上製造から時間を経過するとわずかな化学変化によりその特性をフルに発揮できなくなってしまう。そのためフィルムには使用期限というものがあり、パッケージなどにその日付が記されている。フィルムを購入する際は使用期限に注意するようにしたい。


 

───フィルムの種類

【カラー/モノクロネガフィルム】


フィルムの種類は大きく3つ。カラーのネガフィルム、モノクロのネガフィルム、そしてカラーのポジフィルムである。カラーおよびモノクロのネガフィルムは、その名のとおりフィルム上に色や明暗の反転した画像(陰画)をつくり、基本的にプリントして楽しむ。一般によく使われているのがカラーネガフィルムで、多くのカメラショップや、プリントショップ、または量販店などで現像とプリントが可能である。撮影時に多少の露出の失敗があっても、その特性でカバーするため使いやすい。流通量も多く、値段も比較的手頃である。

 

【カラーポジフィルム】


model:Ruriko Mishima

カラーポジフィルムは別名リバーサルフィルムあるいはスライドフィルムなどとも呼ばれ、明暗や色の反転しない画像(陽画)をつくる。ライトボックスやスライドビュアーを使って閲覧したり、スライドプロジェクターで壁などに投影して楽しむ。また、ネガフィルム同様プリントを行うことも可能だ。そのほかのフィルムとしては、撮影してすぐに画の現れるインスタントフィルムもある。

なお、ポジフィルムにはデーライトタイプとタングステンタイプがある。デーライトタイプは昼間の太陽光と同じ色温度(5500K前後)のときに使うとニュートラルな発色をし、タングステンタイプは写真用白熱電球(3200K前後)を使用したときにニュートラルな発色をするように設計されている。一般的なのは言うまでもなくデーライトタイプ。タングステンタイプはプロのスタジオ撮影などで用いられるが、どちらかと言えば特殊な部類に入り、さらに近年見かけることが少なくなってきている。また、カラーネガフィルムにもタングステンタイプが少数派ながら存在していた。


 

───フィルムのフォーマット

 

【35mmフィルム】

もっとも代表的なフィルム規格といえば、この35mmフィルム。手ごろな大きさの金属製パトローネに入り、扱いもカンタン。現在でもカラーネガフィルム、カラーポジフィルム、モノクロフィルムの各フィルムを入手することができる。


35mmフィルムは、幅35mmで両端にパーフォレーションと呼ばれる一定間隔で開けられた穴を持つ。これは35mm映画用フィルムを流用した名残りといってよいもので、写真用ではパトローネと呼ばれる円筒形の容器に入れ取り扱いを容易にしている。35mmフィルムは別名135フィルムとも呼ばれ、フォーマットで最も一般的なのが24×36mm。ライカ判とも言われ、その名のとおりライカが採用したことで一般的になったフォーマットである。デジタルカメラでフルサイズあるいはフルフレームと呼ばれるフォーマットもこのサイズである。

 
35mmフィルムを一眼レフカメラに装填した状態。上がニコンF3、下がキヤノンNew F-1。
 
35mmフィルムには、パトローネに巻かれるフィルムの長さから、12枚撮り、20枚撮り、24枚撮り、36枚撮りなどがあるが(いずれも24×36mmのフォーマットの場合)、現在では24枚撮りと36枚撮りが一般的。通常パッケージやパトローネにその表示がある。35mmフィルムの特徴のひとつとして、規定枚数を撮り終わったら、再びパトローネに収納する“巻き戻し”という行為を必要とする。巻き戻しをしていないカメラの裏蓋を開けたら、撮影済みのフィルムが感光してしまい泣くに泣けない状況となってしまうので注意が必要だ。巻き戻しは35mmフィルムを使用した撮影では大事な操作プロセスと言ってよいだろう。なお、そのようなことを防ぐため、フィルムを装填すると自動的に一旦最後まで巻き上げ、撮影のたびにパトローネのなかへ巻き戻すカメラも存在した。 
 
35mmフィルムの場合、撮影後パトローネのなかにフィルムを全部入れてしまえば、間違えて再度撮影に使用してしまうことはない。(フィルムの先端が出ていない状態)。ただし、テレンプ(フィルムの出入り口に貼られた黒い遮光布のこと)の状態によってはその隙間から光が入り、露光してしまうこともあるので注意が必要だ。
 

35mmフィルムカメラの様々な画面サイズ(フォーマット)

35mmフィルムを使用したその他のフォーマットとしては、オリンパスPenシリーズやリコーオートハーフなどでよく知られるハーフ判(24×18mm)、初期のニコンフィルムカメラで見られるニホン判(24×32mm)、マミヤスケッチやロボットなどの採用する24×24mmなどがある。

 
上がニコン F3(35mmフルサイズ)、下が、PEN-EE(ハーフサイズ)。
同じ35mmフィルムを使うカメラでも、カメラによって画面サイズが異なる。画面サイズが小さいカメラほど、撮影枚数が多くなる。


 

【ブローニーフィルム・中判フィルム】

こちらはブローニーフィルムこと120フィルム。35mmフィルム同様、カラーネガ、カラーポジ、モノクロの各フィルムを入手することができる。フォーマットサイズが35mmフィルムにくらべ格段に大きく、より高品質な描写が楽しめる。


ブローニーフィルムは120フィルム、または中判フィルムとも呼ばれ、フィルム幅は、61.5mm。中判カメラ用のフィルムである。35mmフィルムと異なりパーフォレーションはなく、遮光紙と重ね合わせてスプールと呼ばれる軸に巻かれている。

ちなみに、ブローニーとはコダックのカメラブランド銘で、ブローニーフィルムの呼び名は日本独自のものである。また、遮光紙がなく120フィルムの倍の長さの220フィルムも存在したが、現在は製造されていない。フォーマット(画面サイズ)としては6×4.5cm(有効画面サイズ56×41.5mm/通称名ロクヨンゴ、セミ判)、6×6cm(同56×56mm/ロクロク、スクエア)、6×7cm(同56×70mm/ロクナナ)、6×8cm(同56×77mm/ロクハチ)、6×9cm(同56×84mm/ロクキュウ)などがあるほか、6×17(56×168mm)というパノラマサイズも存在する。

撮影枚数は120フィルムの場合で、6×4.5cmが16枚、6×6cmが12枚、6×7cmが10枚。ブローニーフィルムは巻き戻しという操作はない。規定枚数まで撮影した後もそのまま遮光紙が終わるまで巻き上げていく。カメラに残されたスプールは、次の新しいフィルムを装填する際、巻き上げ用として使用する。

 
中判カメラの交換式フィルムマガジンでは、このような状態でフィルムをセットするものが多い。写真のマガジンはハッセルブラッド用。このマガジンに間違いなくフィルムが装填できるようになるのが、かつてアシスタントカメラマンの第一歩と言われていた。
 
ブローニーフィルムを中判カメラに装填した状態。カメラ側に記されている指標(カメラ内部中央の矢印)とフィルムの遮光紙のスタートマーク(矢印)を合わせるのが装填の肝だ(遮光紙の裏側に書かれたコマ番号を使い装填するカメラもある)。カメラは富士フイルムGS645S Professional。
 
120/220フィルムのスプール。フィルムを最後まで巻き上げると、それまでフィルムが巻かれていたスプールがカメラに残る。新たにフィルムを装填するときは、そのスプールを巻き上げ用として使用する。
 

【その他サイズ】

そのほか覚えておいて損のないフィルムの種類としては、シートフィルム(大判フィルム)、110(ワンテン)、127(ベスト判)、APS(アドバンストフォトシステム)、ミノックス判などがある。

シートフィルムは4×5インチ(シノゴ)、5×7インチ(ゴーナナ)、8×10インチ(エイトバイテン)などがあり、緻密な描写が要求される風景撮影や物撮影、広告などの撮影で用いられることが多い。以前にくらべバリエーションは少なくなったが、現在でも入手は可能だ。110と127については、インターネットなどで探せば入手することが可能。カメラショップによっては扱っているところもある。APSに関しては、カメラ本体、フィルム共に、すでに製造されていない。ミノックス判については細々と一部のカメラショップで売られているようであるが、ユーザーの中には35mmフィルムから専用の器具を使い同フォーマットに切り出して使用している強者もいる。

 

【フィルム・フォーマット(画面サイズ)の比較】

       
フィルムフォーマット 画面サイズ
35mm 24×36mm
6×4.5 41.5×56mm
6×6 56×56mm
6×7 56×69mm
6×9 56×82.6mm
4×5 100×125mm
4×5インチ(シノゴ)フィルムと、35mmフィルムの比較
 

【販売終了したフィルム】

消えていったフィルムの種類も多数存在する。126フィルム(インスタマチック)やディスクフィルム、ラピッドフィルムなど市場から消えてすでに久しい。フィルムが無くなるとそのフィルムを使用するカメラは当然使えなくなってしまうわけで、実際中古市場では極めて廉価に取引されることが多い。

 

───まとめ

はじめてフィルムカメラを購入する人にオススメするのは、やはり35mmフィルムと120フィルムを使用するカメラだ。前述の110(ワンテン)、127(ベスト判)、APS(アドバンストフォトシステム)、ミノックス判などは、今でも一部のショップでフィルムの販売と、現像可能なラボがあるが、対応可能なお店が少ないため、初心者にはオススメしない。その点、35mmフィルムや120フィルムは、実に息が長い。デジタル全盛の現在でも撮影を充分、堪能できる。フィルムカメラは、新品の場合限られたものしかないが、中古であればタマ数も多く、さらに近年相場も安くなってきている。フィルムを経験したことのない写真愛好家など、手軽に始められる今こそぜひ挑戦してみてほしい。


【主なフィルム銘柄】
(2017年8月記事公開時点でメーカー販売中の製品です)
 
カラーポジフィルム(リバーサルフィルム)
FUJIFILM PROVIA100F
富士のスタンダード的位置付けのポジフィルム。彩度が高く、メリハリある発色が特徴。粒状性も極めて良好で、ネイチャーやポートレート、スナップなど被写体を選ばないフィルムだ。デーライトタイプで感度はISO100。(135(36枚撮り)、120、4×5、8×10)
FUJIFILM VELVIA100
超高彩度で人気のあるVelvia50よりもさらに彩度の高いポジフィルムで、メーカーでは別名“超極彩度フィルム”と呼ぶ。赤および緑色系を強調した色調は風景撮影向きで、特に桜の季節と紅葉の季節は大いに活躍してくれる。感度ISO100、デーライトタイプ。(135(36枚撮り)、120、4×5、8×10)
モノクロネガフィルム
FUJIFILM ACROS100
粒状性と階調再現性、シャープネスを徹底的に追及したモノクロフィルムである。特に粒状性に関しては、大伸ばしのプリントにも余裕で対応できるものだ。感度はISO100と低めである分、絞りを開いて撮影したいユーザーに最適。(135(36枚撮り)、120、4×5、8×10)
Kodak T-MAX400
ISO400と高感度でありながら、極超微粒子のモノクロフィルム。動きのある被写体をはじめあらゆる撮影に適している。同じISO400のモノクロフィルムTRI-X400と比較するとハイライトのコントラストが高いのも特徴である。(135(36枚撮り/24枚取り)、120、4×5)
BERGGER PANCRO
バライタ印画紙などで有名なフランスの感剤メーカーBERGGERがリリースするISO400のモノクロフィルムである。広いラチチュードと、豊かな階調再現性に重きが置かれ、日米のものとは些か趣の異なるモノクロプリントに仕上がる。(135(36枚撮り)、120、4×5、8×10)
JCH STREET PAN 400
JCH(Japan Camera Hunter)がリリースするモノクロフィルム。超微粒子であるうえにコントラストが高いのが特徴。このフィルムに対応する現像所は少ないが、基本的にはD76で現像できるので、腕に自信のあるユーザーは自家現像を行うとよいだろう。(135(36枚撮り)、120、4×5、5×7、8×10)
 著者プロフィール
  大浦タケシ(おおうら・たけし)

宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。紆余曲折した後、フリーカメラマンとなり、カメラ誌、Webマガジン等でカメラおよび写真に関する記事を執筆する。中古カメラ店巡りは大切な日課となっており、”一期一会”と称して衝動買いした中古カメラは数知れず。この企画を機に、さらに拍車がかかる模様。2006年よりカメラグランプリ選考委員。