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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2013/04/02

ライカ Elmarit 28mm F2.8 (2nd Version)

photo & text 上田晃司

レンズ鏡胴部の洗練されたデザインが際立つ。特に“くびれ”部分が美しいフォルムとなっており、M9-Pにもよく似合う。
Lens data
●生産国:カナダ
●発売期間 1969〜1978年頃
●販売価格:$1,035(約80,000円)*購入当時のレート
●シリアル:2315031
●製造年 1969年頃
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1969年(昭和44年)頃。当時の有名な出来事は、アメリカNASAによるアポロ11号の月着陸船が7月に月面への着陸に成功、同年11月にはアポロ12号が続けて成功した。日本では日本銀行が500円札を発行し、住友銀行が日本で初めて現金自動支払機を設置した。当時の日本の物価は国鉄最低運賃30円、ビール大ビン1本130円。



このレンズは製造年により前期型と後期型が存在し、前期型では写真のように鏡胴がくびれている。これが後期型になると通常の円筒型となる。
レンズ面にはパープルのコーティングが施してあり、絞り羽根は8枚。フィルターはE48と特殊で、ライカ純正なら Series 7のフィルターを装着できる。
1st Versionに比べ、後玉の出っ張りはなく露出が正確に測れる。フォーカスリングには無限遠ストッパーを搭載し、パチンとロックできる感覚も癖になる。

コレクター心理を刺激するくびれ
嗚呼…何と美しいことか


今回は(久々に)衝動買いではなく、ちゃんと活躍するレンズに絞って、オールドレンズハンティングを行った。今回のお目当てはライカElmarit 28mm F2.8 2nd Versionだ。
このレンズは現在までに1st、2nd、3rd、4th、ASPHと時代とともに変化を重ね、5世代も続いてきたもの。本音を漏らせば外観の美しい1stが欲しいのだが、状態の良いものは30〜40万円近くと手が出ないし、在庫もほとんど見かけない。それでなぜ2ndなのかというと、まず価格が10万円程度でかなりの数があること。また、いろいろと調べている内に2ndには製造年により前期型と後期型があり、前期型は憧れの1stと同じ鏡胴を採用し、外観がほぼ同じということがわかったのだ。
この外観が同じという点が筆者にはたまらない。なぜなら鏡胴にくびれがあり、何とも美しいフォルムに仕上がっているためだ。もちろんレンズ構成は変わり、前玉と後玉を見ると全く別モノになるのだが、それはそれということで、2nd Versionの前期型にターゲットを決めたのだ。
しかし、探し始めたはいいものの、最近はライカレンズの高騰ぶりはすさまじい。そのうえ状態のいい物は減ってしまった印象を受ける。いくつかの中古店を回り、ようやく在庫を数本確認できたが、くびれのある前期型は後期型より、中古相場で5万円も高いことがわかった。5万円もあれば香港へ行きたいので、きっぱり諦めよう。確かにそう思った。…しかし、だがしかしだ、手が勝手に検索を続け、ついにはあるサイトで格安品を発見するに至った。写真はなく、どんなコンディションの物か確認はできなかったが、思い切って購入。3日後、到着したレンズの状態は良く、鏡胴は見事にくびれている。まさに夢にまで見た 2nd Versionの前期型を手に入れたのだった。



隅田川と夕日を撮影した。f4まで絞ってもシャープになりすぎずふんわりとした柔らかい描写を楽しめる。色の滲みなどもなくいい雰囲気だ。(ライカM9-P  f4  1/2000秒  ISO160  WB:5600K)


築地の裏路地で見つけた雰囲気のある路地と民家を撮影した。日は沈みかけており色かぶりがすごかったので、モノクロで表現してみた。また、街灯の周辺にハレーションがふんわりと出ていてオールドレンズならではの優しさを感じる。(ライカM9-P  f2.8  1/12秒  ISO800  WB:5500K)


銀座のお洒落な通りを広角スナップ。使いやすい画角のためイメージ通り撮影することができた。少し絞り、ややアンダーにすることでシャープなイメージになる。 (ライカM9-P  f4  1/2000秒  ISO400  WB:3600K)


フォトテクニックデジタルとCAMERA fanで人気の連載が1冊の本になりました。


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価格:1,575円(税込)
著者:上田晃司

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「手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。
時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる“奇跡”を見せる」本書では上田晃司氏が魅了された全26種のレンズを軸に、その入手方法やカメラとの組み合わせ、レンズが描いた描写を大きく取り上げ、オールドレンズの魅力を余すところなく紹介。
上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記