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単焦点レンズで世界を変える!

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単焦点レンズで世界を変える!
公開日:2015/08/15

キヤノン EF-S 24mmF2.8 STM

photo & text 赤城耕一
EOS M3に装着したEF-S24mmF2.8 STM。レンズ部がかなり大きくなるが、そのぶん写りにこだわる人のアイテムみたいに見えません?見えないか。撮影時はレンズ部をつかむ感じになるのでホールディングバランスはなかなかいい。

家訓を破り購入したAPS-C専用レンズ


今回紹介するキヤノンEF-S 24mmF2.8 STMは拙著「ズームレンズは捨てなさい!」(玄光社)にも登場するのだが、ここであらためて取り上げてみることにした。

拙著や各カメラ雑誌などでも繰り返し公言しているのだが、私はフィルム時代からの35mmシステムの流れをくむデジタル一眼レフの交換レンズではAPS-C用の専用交換レンズを購入することはないと発言している。

ところが、このたび私はこの自分に賭した家訓ともいえる戒めをついに破ってしまったのである。これから購入に至った理由というか、言い訳をすることにする。
APS-C専用レンズを購入しなかった理由はいくつかあるけど、もともとAPS-Cセンサー搭載のカメラはフルサイズが登場してくる前の繋ぎというか、過渡的なものだと私自身は考えていたこともあり、現在のようにAPS-Cとフルサイズ、双方が補完しあうような関係にはならないのではと想像していたのである。つまりデジタル一眼レフ黎明期には、将来的にはエントリー機からハイエンド機までセンサーはフルサイズになると信じていたようなところがあるのだ。だから、APS-Cセンサーサイズに合わせて設計された専用交換レンズにはどうしても違和感というか距離を置いていたわけだ。
キヤノンの場合はEF-Sレンズはフルサイズカメラに装着できない。この互換性のなさが逆に潔いともいえる。そこには明確なキヤノンの思想があるのかもしれないけれど、仮にAPS-C機からフルサイズ機にステップアップするような場合はEF-Sレンズは使用できないから困ることになる。ニコンやソニーなどはクロップすることでAPS-Cレンズもフルサイズ機に問題なく使うことができるが、これもカメラのポテンシャルを出し切れていないというか、フルサイズセンサーに申し訳ないというか、少しケチくさい感じもしなくはない。



街を歩いていた時に遭遇したビル解体現場。建機の黄色いアームに反応してシャッターを押したらしい。
Canon EOS M3 EF-S24mmF2.8 STM F8 1/1000 ISO200

35mm判換算画角38.4mm相当の準標準レンズ

もっとも単純な理屈でいえば、レンズはセンサーサイズに合わせて設計されたものを使用するのが理想であるから、フルサイズ機にはフルサイズの、APS-C機にはAPS-Cのフォーマットに合わせて設計された専用のレンズを使うほうが筋が通ることは確かなのである。
まわりくどいことを言っているけど、本レンズを購入した理由は、EOS M3を戦力に加えたことが大きい。
EOS MシリーズにはEF-M 22mmF2 STMという高性能の単焦点レンズがあるわけだし、35mm判換算画角は私の好きな35.2mm相当になる。本来は理想なものだし、とくに不満はないので、本レンズを購入するのは無駄になりそうなものだけれど、本レンズの場合は35mm判換算画角は38.4mm相当になり、古いコンパクトカメラの準標準レンズ的な感覚に近いようなところがあって、これもまた気に入っているのである。



至近距離での撮影である。最短撮影距離は0.16mと短い。絞りを開いてみたが、性能は保持されている。階調の微妙な再現もなかなかいい。
Canon EOS M3 EF-S24mmF2.8 STM F3.2 1/400 ISO100 -0.33EV


キヤノンEF-S 24mmF2.8 STM とレンズフード ES-52

本レンズはパンケーキタイプだし、一眼レフ用だからEOS Kiss X7などの軽量EOS一眼レフに使用するのがスジなんだろうけれど、EOS M3に使うと少し滑稽なデザインになり、重量もかさんで収納性も劣ることになる。マウントアダプターがかなり大きいからだが、そのブサイクさというか、ムリヤリな装着感に惚れたわけなのだ(笑)。
EOS Mシリーズは現時点ではAPS-Cセンサー搭載専用機のみだから本レンズと使う意義というか意味は出てくるように思うのである。これも言い訳としては苦しいか。
フードはEF40mmF2.8 STMと共通のリングとかフジツボとか呼ばれるES-52タイプで、効果のほどは疑問だが、まあ問題はないだろう。しかし、このデザインならばフード内にフィルターを落とし込めるシリーズフィルターを使えるようにしておいてもらえればよいのにとも思うのだけれどね。



古道具屋さんの前。明暗差は大きいがシャドーの描写も自然である。目についたものを片っ端から撮りたくなるのがEOS M3であろう。
Canon EOS M3 EF-S24mmF2.8 STM F4 1/250 ISO200 -0.67EV

不満なのは距離指標がないこと

STMだからAFが速いのかといわれればEOS M3に使用する場合はそうでもない。でも私の撮影スタイルでは実用上は不満はない。ただ不満なのは距離指標が省略されていることで、当然被写界深度表示もなく、MFでの置きピンや目測でのスナップワークには辛い。実焦点距離24mmの被写界深度を思い切り生かせないのである。購入にはこの不満もあって悩んだのだが、特に許すことにした。

写りに関しては、ムリにパンケーキの大きさにしたから少し性能を落としちゃいました、という感じは一切なく、開放では少し軟らかい描写をするかなと思う程度で、実用上は十分あるのはうれしい。特別な大口径ではないからボケ味はあまり求めないが、まずまずである。至近距離での性能もなかなか秀逸。APS-C専用設計レンズのたまものなのであろう。実売価格が非常に廉価だということも惹かれる点である。このため手ぶれ補正がないとか不満も出てこない。大きさからすれば当たり前だけど。

ついに禁じられたAPS-C専用レンズ購入に踏み切ってしまったわけだが、こうして書いてみても、それぞれの言い訳にまったく説得力ないのはなぜか。

ようするにEOS M3にEF-S24mmF2.8がついたところが、ただひたすら見てみたかったというのが最大の購入理由である。正直でしょ(笑)。




橋から船を眺める老人がいた。なぜかその手が気になって、瞬間的にシャッターを切った。ボケ味が素直でいい。
Canon EOS M3 EF-S24mmF2.8 STM F5.6 1/640 ISO200


歪曲収差の補正もよく、自然に描写される。画質の均質性もいい。都市でのスナップには使いやすい画角である。
Canon EOS M3 EF-S24mmF2.8 STM F9 1/640 ISO400 -0.67EV


古い建物の向こうに夏の雲がみえた。雰囲気が良かったので両者を組み合わせてスナップをしてみた。
Canon EOS M3 EF-S24mmF2.8 STM F13 1/1000 ISO400


<メーカーサイト>
キヤノン EF-S 24mmF2.8 STM
http://cweb.canon.jp/ef/lineup/ef-s/ef-s24-f28-stm/index.html
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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