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単焦点レンズで世界を変える!

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単焦点レンズで世界を変える!
公開日:2015/12/21

フォクトレンダー ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical

photo & text 赤城耕一


コシナから新しく登場したのMマウント互換レンズ、ウルトロン35mmF1.7 アスフェリカルは既発売のノクトン50mmF1.5アスフェリカルと同様にコシナのヴィンテージラインに属する兄弟レンズである。そのデザインは酷似しており、1951年に登場した初代ノクトン50mmF1.5のオマージュとも受け取れる製品となっている。

現代レンズの中でも、これだけデザインや作り込みにこだわったものは他に例がなく、“モノ”としての品格の高さを感じさせる逸品である。このあたりは他社には真似のできないコシナのお家芸であり、頑なともいえる製品思想を堅持し、個性を打ち出すことに成功している。



 


シルバーの外装素材は真鍮製で、クロームメッキ仕上げ、エングレーブされた数値は細身で状況によっては、鏡胴のメッキの反射でやや見づらい時もあるものの、まずはデザイン優先ということで、納得させられてしまうのである。まずはカタチから入ろうという考え方だが、この思想は間違ってはいない。

ブラックの外装はアルミニウム製で精悍なイメージでこれもまた魅力的。この素材の違いから、重量はシルバーが330g、ブラックが238gと、100g近い差がある。使用カメラとの相性や好みによって選択したいが、趣味性追求のシルバー、実用性追求のブラックと言ったところだろうか。



別売のレンズフードはねじ込み式。通常、スリットのあるフードは定位置に固定する必要があるのでバヨネット方式を採用しているものが多いが、このフードはスリット部分の位置調整が可能になっており、ファインダーに合わせて最良の位置で固定できるようになっている。

なお専用フードが同梱されているが、別売でスリット入りのこれまた趣味性の高いものが用意されている。これも真鍮製の重量級フードだが、重さよりも見かけにこだわりのある人はこちらを使ったほうが満足度が高くなることは間違いない。

筆者はライカLマウント互換の旧ウルトロン35mmF1.7からの愛用者なので今回のフルモデルチェンジには性能面から見ても非常に興味があったが、旧レンズは今見てもまったく侮れない性能を有しており、デジタルでも問題を感じないし、 特にフィルム撮影した時の厚みのある描写力にいつも感心させられていた。

今回のモデルチェンジでは、光学設計も完全に見直されており、デジタル化に完全対応、周辺部の色かぶりや、色収差の補正にも配慮され、画面全体が均質性の高くなる画質が得られるようになっていることが最大の設計の特徴である。レンズ構成は7群9枚。凹先行のこだわりの構成で、非球面レンズは最後部に使われている。


陽光が画面のすぐ外にある条件だが、まったく性能低下はない。合焦点のシャープネスは見事すぎるほど。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F8 1/500 ISO200


35mmの視角はパースペクティブが自然で最も好きな広角レンズである。緻密な描写性を要求される条件だが、均質性の高い画質に感激する。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F8 1/500 ISO200

描写性は同スペックレンズの中でもずば抜けた性能を持っており、開放からハロやフレアを感じさせない見事なもので、コントラストが高く、いささか繊細すぎるのではないかと思わせるほど描写力の優れたレンズである。このため絞りによる性能変化はほとんど感じない。周辺光量低下は大きくはないが、均質性を求めるなら多少絞り込んだほうがいいだろう。


公園にある遊具を0.5mの最短撮影距離で。EVFでロープにピントを合わせてみた。絞り開放。前後ボケは自然だし、合焦点の描写も見事。開放で撮影すると見慣れたものが「何か」に変身する。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F1.7 1/3000 ISO200 -1.33EV


曇天下、絞り開放で。カメラ内蔵のレンジファインダー距離計を使用して、最短撮影距離0.7mの条件。合焦精度は問題ない。周辺光量低下も軽微で品がある。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F1.7 1/2000 ISO400 -0.66EV

興味深いのは最短撮影距離が0.5mと短くなっていることだ。もちろんライカMでは、最短撮影距離は距離計連動範囲外となるけれど、ライブビューを使うことでフォーカシングが可能になり、新しい世界を広げることができるようになった。

またソニーα7系カメラとの相性がいいことも本レンズの特筆すべき点である。同社のVM-Eアダプターを使用すれば、アダプター側のフォーカスリングを操作することで、より近接撮影を行うことができる。

Mマウント互換レンズは一眼レフ用レンズなどと異なり、絞りなどの連動ピンがないためにシンプルな構造で、マウントアダプターを使用してもたいへん使いやすく、ボディとのデザインバランスにも優れた相性の良いものになっている。まさにデジタル化によってライカの呪縛からも解き放たれ、表現の可能性が大きく広がったレンズシステムと言って良いだろう。


今回は正統な使用法として、ライカM[Typ240]を使用ボディに選んでみたが、条件によらず透明感のあるシャープな画像を得ることができた。35mmレンズの万能性を求めるならば欠かすことのできない一本となるだろう。


少し絞り込むとパンフォーカス効果を得ることができる。絞り込んでも性能は変わらない。むしろ過剰な絞り込みは避けたい。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F11 1/1000 ISO400 -0.66EV



日陰の光線状態が悪い条件。それでも見事なコントラストとシャープネスをみせている。歪曲収差もよく補正されている。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F4 1/500 ISO200 -0.66EV



ガラスに太陽光が反射する条件。肉眼ではかなり眩しい条件だったが、ゴーストやフレアは優れたコーティングでほぼ完全に封じ込められた。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F8 1/2000 ISO200


イルミネーションを0.7mの位置から絞り開放撮影。ハロはなく、光源にも滲みがない。このため仕掛けが全部バレてしまている。性能が高すぎることが逆にアダになったかもしれない。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F1.7 1/250 ISO400


フィルムの中判カメラで撮影したようなクリアさに驚く。素晴らしくヌケがよいからだろう。カメラの性能を十分に引き出してくれるレンズといえる。
ライカM[Typ240] ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical F8 1/750 ISO200


<メーカーサイト>
コシナ フォクトレンダー ウルトロン 35mm F1.7 Aspherical
http://www.cosina.co.jp/seihin/voigt/v-lens/vm/u-35/
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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