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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2012/07/17
ニコンNikkor-S Auto 50mm F1.4
photo & text 上田晃司

GF2に装着するとレンズが大きく見え、やや不格好に。カメラをホールドするというより、レンズをホールドする感じだ。
Lens data
●生産国:日本
●発売期間:1972年〜不明
●販売価格:1,800円〜10,000円程度
●シリアル:1193872
●製造年:1972〜73年頃
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は、1972年から1年間程。72年は当時の日中首相である田中角栄氏と周恩来氏が日中共同声明が調印し、日中国交正常化が実現。グアム島で元日本兵、横井庄一氏が発見され、ポツダム宣言から約28年経って帰国。同氏の「恥ずかしながら帰って参りました」という発言が流行語となった。






ニコンD300sには“カニ爪”のついた絞りリングの上層部が干渉するため、そのままでは装着できない(削る必要がある)。仕方なく、ニコンボディは諦める。  「ニコンF→マイクロ4/3」用のマウントアダプターを使用し、GF2に装着。アダプターはノーブランド(香港にて1,800円で購入)だが、珍しくガタツキがない。  フィルター径は52mm。純正のメタルフード「HS-1」も装着可能だが、香港で購入したスリットの入ったフードでスタイリングした。いい感じだ。

クモリもカビも味方につけるジャンクならではの愉しみだ

今回ご紹介するのは「Nikkor-S Auto 50mm F1.4」。ちょうど、ニコンF時代の標準レンズだ。たまたま立ち寄った某カメラ屋のジャンク棚に置いてあった一本で、カビ痕に加えクモリ、ヘリコイドがスカスカ、外観に無数の傷があるということで“ジャンク”ということになっていた。

手に持ってみると、レンズの鏡胴は金属製でずしりと重く、絞りリングの感触も現代レンズとは一味違う重厚さを醸し出している。「やっぱ、いいなニコン」なのである。よくよく見れば光学系は意外と綺麗で、アメリカのオークションであれば「Goodコンディション」で売っていてもおかしくない感じ。レンズをライトに向けて覗いてみると、確かに薄くくもっているが、逆に柔らかい描写を期待して即決した。税込みで1,800円だ。

しかし自宅に戻ってD300sに装着しようと思ったが、つかない…。衝動的に購入したため、カメラへ装着を確認せずに購入したのが悪かった。ニコンが露出計の連動方式をAi方式(開放 F 値自動補正方式)にする以前のものは“非Aiレンズ”と呼ばれ、ボディによっては絞りリングが干渉し、そのままでは装着できないのだ。専門業者に頼めば改造してもらえるらしいが、どうやらこのレンズの10倍近い料金がかかりそうなので、今回は諦めることにした。

そこで、カメラをパナソニックLUMIX GF2に変えて、「ニコンF→マイクロフォーサーズ」アダプターで装着。ボディに比べレンズが大きすぎるため、少し不格好になるが、レンズとボディの重心をホールドすることでそれなりに安定した撮影ができる。焦点距離は35mm判換算で100mm相当の望遠レンズになり、街の人々の自然な表情を狙うのに向いている。

描写は読みどおり! レンズ開放時のソフトな描写に加え、カビ痕と薄いクモリの効果により、ふんわりとした柔らかいイメージを撮影することができる。それでいて、開放からピントの芯をきっちりと感じさせる。やっぱり「オールドレンズはジャンクだぜ」と再認識させられた一本だった。

お寺に吊してある線香を撮影した。このレンズの最短撮影距離は60cmのため、GF2に装着すると近接撮影にも強い。ボケはなめらかで綺麗だが、少し線が太く写る印象。(パナソニックLUMIX GF2  f1.4  1/100秒  ISO200  WB:曇り)

道路でくつろいでいる犬を撮影。開放F値F1.4のレンズなので、少々暗い場所でも楽々撮影できる。点光源によるハレーションは起こりやすいが、開放時のコントラストが低いためほとんど目立たない。(パナソニックLUMIX GF2  f1.4  1/80秒 ISO500  WB:曇り)

香港の市場を撮影。100mm相当になったフレームで、少し離れた距離から自然な表情をスナップ。絞り開放でも芯はしっかりと、全体は柔らかいトーンに仕上がる。(パナソニックLUMIX GF2 f1.4  1/200秒  ISO200  WB:曇り)


上田晃司のここがたまりませんっ!

絞り開放から一段絞るだけで絞り開放時に比べ、コントラストが上がりこってりとした「ニコン」らしい描写を堪能できる。シャープネスも高く現代レンズにも負けない描写力だ。とてもカビ痕+クモリありレンズとは思えない。
 

「オールドレンズの奇跡」は、フォトテクニックデジタル誌にて連載中です。



上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記