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フィッシュアイレンズ特集

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フィッシュアイレンズ特集
公開日:2017/03/16

魚眼レンズまとめ〜対角線魚眼レンズから円周魚眼レンズまで〜 その1

photo & text 中村文夫



魚眼(フィッシュアイ)レンズの定義は「対角線画角が180度以上の画角を有すること」。本来はレンズのイメージサークルをフルに利用して円形画面を撮影するもので、カメラを真上に向ければ1ショットで全天が撮影できることから、最初は気象観測の雲量測定に使用された。やがて一般の写真撮影に転用されると、円形画面だと画面構成がしづらいうえ画面外にできる未露光部分が無駄になる問題が発生。そこでイメージサークルの直径を画面の対角線長に合わせ、画面からはみ出た上下、左右の画像をカット、長方形画面をフルに利用する方法が考案される。これが「対角線魚眼レンズ」で、これ以降、画面が円形に写る本来の魚眼レンズは「円周魚眼レンズ」と呼ばれ区別されることになる。

魚眼レンズは射影方式によって4タイプに分類される。一般に写真撮影に使われるのは「等距離射影」で、光線の入射する角度と画面の中心からの距離が比例するように像が写る。このほか「正射影」は「等距離射影」に比べ画面周辺部の被写体がより小さく写る性質があり、これとは反対に「立体射影」は周辺の像が中心に比べ大きく写る。また「等立体角射影」は被写体の立体角と画面上の面積が比例関係となり、シグマ4.5ミリ F2.8 EX DCがこれに当たる。なお「等距離射影」と「正射影」の違いについて詳しく知りたければ、NIKKOR公式サイト(http://www.nikkor.com/ja/story/0006/)を見ると良いだろう。



ヒルズ クラウドカメラ(円周・カメラ固定)
1924年にイギリスのカメラメーカーが雲量観測のために製造した魚眼レンズ付カメラ。画角は180度で直径65ミリの円形画面が撮影できる。(日本カメラ博物館蔵)


魚眼ニッコール付きカメラ(円周・カメラ固定)
1957年にニコンが開発した製品で、フィッシュアイニッコール16.3ミリF8を120フィルムを使うボディに固定。ヒルズと同様、主に雲量観測に使用された。(日本カメラ博物館蔵)


フィッシュアイニッコールオート6ミリF2.8(円周・ニコンFマウント)
220度の画角を持つ学術/工業用魚眼レンズ。トンネル工事などで、カメラの後ろ側も同時に撮影したいう要望から生まれたものであるという。なおこのレンズは、中古市場で数百万円という値段が付くコレクターズアイテムとして有名だ。(ニコンミュージアム蔵)

【作例 円周魚眼レンズ】


シグマ4.5ミリ F2.8 EX DC
ペンタックス K-3 F8 1/200秒 ISO400

【作例 対角線魚眼レンズ】


SMC ペンタックス DA フィッシュアイズーム 10ミリ F3.5-17ミリ F4.5ED(IF)
ペンタックスK-3 F8 1/400秒 ISO400

魚眼レンズのもうひとつの特徴は、ディストーション(歪曲収差)によるデフォルメ効果だ。画面中心を通る直線は歪まないが、画面中心から離れれば離れるほど外側に向かって線が膨らみ、いわゆる樽型の歪曲が盛大に現れる。さらに焦点距離が短いので遠近感が極端に誇張されるなど、通常のレンズでは決して得られない不思議な世界が体験できる。なお最初に「対角線画角が180度以上の画角を有すること」を魚眼レンズの定義として上げたが、最近では、画角が180度に満たなくても魚眼レンズに匹敵する樽型歪曲が発生するレンズのことを「魚眼レンズ」と呼ぶケースが増えている。

【作例】


本来、歪んではならない直線が歪んで写ることと極体な遠近感の誇張が魚眼レンズの二大特徴だ。
SMC ペンタックス DA フィッシュアイズーム 10ミリ F3.5-17ミリ F4.5ED(IF)
ペンタックス K-3 F5.6 1/100秒 ISO200

魚眼レンズで撮影した写真は見る者に強烈なインパクトを与えるが、インパクトの強さゆえ作風がワンパターンに陥りやすい。また魚眼レンズ向きの被写体は意外と少なく、せっかく手に入れても防湿庫の肥やしになりがちだ。古くから魚眼レンズは「特殊レンズ」に分類されてきたが、この当たりの事情が「特殊扱いから脱皮できない理由」と言えるだろう。いずれにしても決して安いレンズではないので、購入の際はそれなりの覚悟が必要だ。

とは言え、魚眼レンズ特有の「曲率が大きい巨大な前玉」は、ゲテモノ好きにとって大きな魅力。かく言う私も、この魔力に取り憑かれた一人で、気付いたら10本を越えるレンズが手元に揃っていた。「魚眼レンズコレクター」を名乗るにはまだまだ修行が足りないが、魚眼レンズをまとめて取り上げた記事は意外と少ないので、経過報告の意味を兼ねて思い切って紹介することにしたい。




ペンタックス フィッシュアイタクマー 18ミリ F11(対角線・M42マウント)
ペンタックスが1963年に発売した魚眼レンズで日本初の35ミリ一眼レフ用対角線魚眼と言われている。鏡筒長はわずか11ミリ。パンケーキレンズの元祖でもある。ピント固定のパンフォーカス式で、絞り開放で0.86メートルから∞までピントが合う。ただしピントにシビアなデジタルカメラだと、条件によってはピンぼけが目立つので注意が必要。絞りは口径の異なる穴を開けた円盤を回転させるターレット式だ。

【作例】


ペンタックス フィッシュアイ タクマー 18ミリ F11(対角線・M42マウント)
ソニーα7R F11 1/60秒 ISO800




SMC ペンタックス フィッシュアイ 17ミリ F4(対角線・Kマウント)
1967年にM42マウントのタクマーレンズとして登場した製品をKマウントに変更して1972年に発売されたもの。ピント合わせはヘリコイドによる全体繰り出し式で絞りも虹彩絞り。初代の18ミリに比べると操作性が向上したほか画質も格段に良くなりスーパーマルチコーティングの効果でゴーストも少なくなった。後にペンタックスは絞りリングにA位置を備えた16ミリF2.8を発売しているが、これに比べても遜色はない画質だ。

【作例】


SMC ペンタックス フィッシュアイ 17ミリ F4(対角線・Kマウント)
ペンタックスK-1 F8 1/10秒 ISO400




SMC ペンタックスF フィッシュアイ フィッシュアイズーム 17ミリF3.5-28ミリ F4.5(対角線・Kマウント)
フィルムカメラ時代に登場した世界初のフィッシュアイズーム。ただし180度の画角が得られるのは、最短焦点距離の17ミリ時のみ。焦点距離が最も長い28ミリ側では90度になる。またすべての焦点域で魚眼レンズ特有のディストーションが現れるので、画角が180度以下でも魚眼レンズのテーストが楽しめる。

【作例】


ペンタックス K-1 F9 1/80秒 ISO200




SMC ペンタックス DA フィッシュアイズーム 10ミリ F3.5-17ミリ F4.5ED(IF)(対角線・Kマウント)
APS-Cサイズのデジカメ用に設計された現行商品。最短撮影距離が非常に短く、レンズ面から1センチまでピントが合う。トキナーと技術提携していた時代の製品なので、トキナーブランドのニコンF、キヤノンEFマウント製品が存在する。

【作例】


ペンタックス K-7 F11 1/400秒 ISO400




スピラトーン フィッシュアイ 12ミリ F8(対角線・Tマウント)
1967年頃にシグマが製造した魚眼レンズ。当時シグマは海外商社へのOEMがメインだったので、さまざなブランドの商品が存在する。なお、この頃のシグマ製品はシリアルナンバーがΣから始まっているので、シグマ製であることがすぐに分かる。

ピントは固定式のパンフォーカスで絞りはターレット式。この当たりの仕様は、同時期の製品である旭光学製タクマー18ミリにそっくりだ。またマウント交換式なので、さまざまなボディで使用できる。

このレンズは不思議なレンズで、35ミリフルサイズで撮影すると、写真のように画面の四隅に大きな未露光部分が残る。その原因は対中途半端なイメージサークル。対角線魚眼としては小さく円周魚眼としては大きすぎるのだ。恐らく対角線魚眼と円周魚眼の「いいとこ取り」を狙ったのだろうが、結果として「どっち付かず」になってしまった。またこのレンズには前玉径の異なる2バージョンが存在するが、口径の大きなバージョンには筒型のアタッチメントが付属。これを使うと画面が円形に切り取られ、「なんちゃって円周魚眼」になる。なおこのレンズをAPS-Cサイズのデジカメと組み合わせれば、ケラレのない対角線魚眼レンズとしてとして使用可能。まさか50年も前に、こんな使い方を予想していたとは考えられないが------。いずれにしても日本の一眼レフ黎明期における交換レンズ専門メーカーの意気込みが感じられる製品と言えるだろう。

【作例】


ソニーα7R F11 1/250秒 ISO100




ニコン ぎょぎょっと20 20ミリ F8(対角線・ニコンFマウント)
ニコンの関連会社であるニコン技術工房が1995年に発売した製品。魚眼のほか、マクロ、ソフトフォーカス、超望遠レンズとして使える3本のレンズをセットにして販売された。ぎょぎょっと20の画角は約153度で、ホンモノの魚眼レンズに匹敵する派手なディストーションが特徴。画角が180度に満たないのでカタログには「Fisheye Type」と表記されているが、この当たりにニコンの生真面目さが現れている。ピントは1.6メートルに固定したパンフォーカスで絞りは省略。特殊レンズのテーストを気軽に体験することがコンセプトなので機能はシンプルだが、写りはとても良い。

【作例】


ニコン Df F8 1/4000秒 ISO1600




シグマ 4.5ミリ F2.8(円周・ニコンF、キヤノンEF、シグマSAマウント)
※Kマウント用は製造中止

APS-C用としては非常に珍しい円周魚眼レンズ。AF、AEに対応した現行商品なので、手持ちのデジタル一眼レフで本格的な魚眼撮影を楽しむのに最適だ。このほかシグマは、フルサイズ用の8ミリF3.5もラインアップ。さらにAPS-C/フルサイズ用の対角線魚眼レンズを用意するなど、現在、魚眼レンズ関係が最も充実したメーカーだ。

【作例】


円周魚眼レンズ(等距離射影)
ペンタックス K-3 F3.5 1/4000秒 ISO400




MCペレング 8ミリ F3.5(円周・ニコンF、キヤノンEF、 M42マウント)
現在、円周魚眼レンズを発売するメーカーは少なくマウントの種類も限られている。ベラルーシのBeLOMOが製造するペレングはフィルム時代に登場した円周魚眼レンズで、現在でも新品の入手が可能。旧共産圏のレンズ特有の品質管理の緩さゆえ、仕上げは決して高級とは言えないが、写りはなかなかのもの。ただし逆光にはそれほど強くない。M42マウントも用意されているので、マウントアダプターを用意すれば、ペンタックスKやソニーAのほかミラーレス機に使用できる。このほか旧ソ連製の魚眼レンズには対角線魚眼のゼニターフィッシュアイ16ミリF2.8などがある。

【作例】


MC ペレング 8ミリ F3.5(円周・ニコンF、キヤノンEF、M42マウント)
ソニーα 7R F5.6 1/5秒 ISO400





フィッシュアイレンズ特集

魚眼レンズまとめ〜対角線魚眼レンズから円周魚眼レンズまで〜 その2
http://camerafan.jp/cc.php?i=555



中村 文夫(なかむら ふみお)

1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。日本カメラ博物館、日本の歴史的カメラ審査委員。