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SHUTTER GIRL WORLD

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SHUTTER GIRL WORLD
シャッターガールこと大村祐里子が、光と闇を描いていきます。
公開日:2016/06/01

Creatures

photo & text 大村祐里子

Canon EOS 5D Mark III Zeiss Otus 1.4/55 ZE
F8 1/160 ISO800

写真を始めたばかりの頃は、淡い光に包まれた草花や、希望あふれる雄大な景色、可憐で美しい女性ばかりを撮影していました。なぜなら、わたしに写真を教えてくれた人の好きな被写体が、そういうものだったからです。その人の背中を見ながら写真を覚えている最中だったわたしに、それ以外のものを撮る選択肢はありませんでした。

だけど、そういった被写体に対して、次第に違和感を覚えていきました。華やかなパーティ会場で、ひとりだけ居心地が悪いような、そんな感じでした。目の前にある白くてまぶしい光は、明らかにわたしのことを拒絶しているように見えました。きっと、自分の居場所はここじゃないんだ……と思いました。

そのとき、「死」という言葉が頭をよぎりました。

そうだ。

何かに取り憑かれたように築地市場へ向かいました。いたるところにうち捨てられている白目をむいた魚の頭、ポリバケツ一杯の内臓、魚の血がベットリとこびりついた包丁やまな板を一心不乱に撮影しました。ファインダーを埋め尽くす、真っ赤でヌメヌメした、グロテスクなものたち。心の中で荒立っていた波が、スーッと穏やかになってゆくのを感じました。



Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F4 1/80 ISO1000


Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F5.6 1/50 ISO1000

その日以来、ときどき思い出したように築地へ通うようになりました。さらに、魚のアラだけではなく、博物館にある虫の標本やホルマリン漬けも撮ってみたいという気持ちが強くなり、そういったものも撮影するようになりました。

どうして「死」が足りないと思ったのか。本当は血も虫も大嫌いなのに、それらを撮影すると、急激に精神が穏やかになるのはなぜだろうか。答えを探るべく、自分の心をもう一段深く掘ってみることにしました。




Canon EOS 5D Mark III Zeiss Otus 1.4/55 ZE
F2 1/30 ISO1600


Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F2 1/125 ISO800


Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F2 1/100 ISO800


Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F2 1/100 ISO800


そこでわかったのは、わたしは「死」が鼻の先くらいまで近くにやってきたときに初めて「生」を感じられる人間だということです。こうなった原因はハッキリしているのですが、それはまたいつかお話します。

髪の毛をつかまれて痛かったり、怪我をして血が出たり、殺されるかもしれないと思って恐怖におののいたり……肉体的にも精神的にも極限まで追いつめられたときに、不謹慎かもしれませんが「わたし、生きてる!うれしい!」と実感できるのです。

一気にすべての点と点が繋がって、線になったように思いました。わたしは、写真の世界でも「生」を感じたいがために「死」に触れたいと願っていたのです。ゆえに“死を感じさせる生き物”ばかり撮影してしまっていたのです。




Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F2.8 1/500 ISO200



Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F4 1/1600 ISO400



Canon EOS 5D Mark III Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
F2.8 1/250 ISO640



FUJIFILM X100T F2.8 1/80 ISO1600 -1.67EV





ある編集者の方から「大村さんの写真からは、光と闇を感じます」と言われたことがあります。

今回セレクトしたものは、他者にとって「闇」の写真かもしれません。しかし、わたしにとってこれらの写真を撮る行為は「闇」ではないと考えています。光と闇は、表裏一体。わたしは「生」という光を感じたいがために「死」という闇を撮っているだけなのです。ただ、邪悪でグロテスクなものが多く登場するので、「闇」という一言で括られても仕方がないかなとは思います。

この記事のタイトル「Creatures」を訳すると、”生物”。または”怪物”……。

もしかして「Creature」はわたし自身……。



【撮影機材】


CANON EOS 5D Mark III
Zeiss Otus 1.4/55 ZE
Zeiss Makro-Planar T* 2/50 ZE
 著者プロフィール  
大村 祐里子(おおむら ゆりこ)

1983年東京都生まれ
ハーベストタイム所属。雑誌、書籍、俳優、タレント、アーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動中。
著書「フィルムカメラ・スタートブック」、「身近なものの撮り方辞典100

ウェブサイト:http://omurayuriko.jp/
ブログ:http://shutter-girl.jp/
Instagram:@yurichayuricha
 
 

大村祐里子・著書


身近なものの撮り方辞典100


フィルムカメラ・スタートブック