TOP > コンテンツ一覧 >

ポートレート・テクニック

36
ポートレート・テクニック
公開日:2017/02/20

イルコ流・屋外オフカメラライティングで日中の光をコントロール

photo & text_ イルコ 光の魔術師 model_ 小林かれん
キヤノンEOS-1D X WB: マニュアル RAW アドビ システムズAdobe Photoshop CC(以下、共通)
EF200mm F2.8L II USM f2.8 1/800 秒 ISO320
Cactus RF60X + コマンダー V6II

屋外昼間の撮影では、青空をくっきり描きながら人物を浮かび上がらせる「日中シンクロ」をやるのがせいぜいだ。ところがイルコ氏は日中においても驚くほどのストロボ技のバリエーションを持っている。今回はその一端を披露してもらった。

〜Introduction〜  モデルに当たる光をリセットすることがイルコ流のエッセンス


いつもより多めに持って来た機材を、撮影スポットで展開中のイルコ氏

イエーイ!イルコだよ。今回はちょっと固めの文体で行くからよろしくネ(笑)!私が屋外ライティングをやる時に考えているのは、とにかくストロボを当てる前の被写体に当たる光をフラットにしておくこと。そのためには大きく分けて、(1)モデルの体の向きを変えて影を作ってもらう、(2)モデルに影の中に入ってもらう、の2つがある。その状態で背景の露出を決めて、ストロボで人物をライティングしていく。自分好みの背景の露出を決めた時に、人物がアンダーめになるような場所を選んでおくと、ストロボ光が効きやすいし、ストロボアクセサリーの性質も素直に出る。とは言っても最初は背景のことまで考えるのは難しいだろうから、モデルに影を作って、アンダーめの露出にして、ストロボ発光、にトライしてみればOK!!順に見て行けば、なんとなくそのコツがわかるはず。

林の中のストロボワーク

影が作れるスポットが豊富にあり、木漏れ日や日だまり、木立のシルエットなど、背景が作りやすいものが豊富な雑木林は、オフカメラストロボライティングで遊んでみるのにぴったり。これだけ影の多い場所でも、太陽の順光・逆光を意識することで、ストロボのアプローチは異なってくる。

公園の中にある雑木林を最初のロケーションに選んだ。影を作りやすいという理由もあるが、初対面のモデルを撮る時は最初にスタンダードな背景を選んだ方が、どんな子かを観察しながら撮るのに集中できる。

case 1 モデルを日陰に入れてストロボ発光

キヤノンEF135mm F2L USM
f2 1/125 秒 ISO50

まずは私が太陽を背にして、順光の状態でファーストカットを撮ってみる。順光といっても、モデルに太陽光を当てるわけではなく、太陽がモデルに向かって作る木の影に入ってもらい、顔の影をフラットにする。露出をやや低めに設定しておいて、大型のアンブレラにストロボをバウンスさせたやわらかい光を当て、人物を背景から浮かび上がらせている。ストロボの光量は1/2〜1/4に設定した。


ストロボなし

case 2 逆光の太陽をアクセントライトに

キヤノンEF135mm F2L USM
f2 1/250 秒 ISO100


今度はモデルと私の位置を入れ替えて、モデルが太陽を背にしての撮影。雨の日にはモデルの背後にストロボを置いて、雨粒を光らせたりするが、ここでは太陽光をバックライトに見立てるようなイメージだ。硬い光が欲しかったので、アクセサリーはCactusのグリッド付きのソフトボックスを使用。太陽の光で、背景からモデルが浮かび上がっている。

ストロボなし

モデルには「自分の影ができる位置に立ってね」とお願いすると、必然的に逆光になる。

モデルの斜め45°前にストロボを設置。


ストロボにはCactusのソフトボックスCB60Wを装着した。光量は1/2。



case 3 きらめく枝葉を前ボケとして活用する


キヤノンEF135mm F2L USM
f2 1/250 秒 ISO50

さらに同じセッティングのまま、モデルと私の間に木の枝が入るようなポイントに移動する。135mmレンズの圧縮効果を利用し、光が当たっている木の葉っぱで大きな玉ボケを作るのが狙いだ。順光だと木の葉っぱが白飛びするかもしれないので、やるなら逆光がオススメ。次の項目で紹介するストロボの光量を上げた状態で背景を大胆に落としてもよい。

光量を上げて背景を落とした場合

前ボケを強調するように、モデルを少し上から見下ろすようなアングルで、画面の1/2ぐらいを前ボケが占めるような構図を狙って行った。

モデルの斜め前45°にストロボを設置。顔より20〜30°上のアングルから発光する。


使用したのはCactusの白色のアンブレラ。この大きめのサイズはまだ日本では未発売。独特のやわらかい光がお気に入り。



昼の野外のストロボテクニック4つ

今度は背景に日なたの割合が多めな場所で試したいストロボテクニックを紹介していく。定番に見える技でも、使っているアクセサリーや機材が、ちょいちょい新しくなって改良が加えられているので要チェック!

case 1 パワーシンクで太陽光に打ち勝つ


キヤノンEF24mm F1.4L II USM
f1.4 1/250 秒 ISO50

露出を落として空を色濃く出した状態で人物にストロボを発光する、いわゆる「日中シンクロ」のシチュエーション。今回はCactusのコマンダーV6 IIの新機能である「パワーシンク」を使って、ストロボ同調速度以上のシャッター速度でストロボをフル発光させてみた。絞りを開放気味で撮るためにシャッタースピードを速くしたい時などに有効な機能だ。


<使用機材 Cactus RF60X & コマンダー V6II >



Cactus RF60X
Cactus V6II(コマンダー)


今回の撮影で、メインのストロボは、CactusのストロボRF60XとコマンダーV6IIを使った。Cactus RF60Xはチャージタイムやインターフェースが改善された最新モデル。この組み合わせだと、ストロボ側にV6IIを装着しなくてもオフカメラライティングができる。

ストロボはモデルの斜め前、顔よりやや上にセッティング。


case 2 キャッチライトの形にこだわる


キヤノンEF135mm F2L USM
f2 1/200 秒 ISO50


寄りのストロボ写真を撮る時にオススメしたいのが、Cactus CB60Wに装着可能なCM-60 ソフトボックスマスクセットだ。円形マスクと2種類の幅のストリップマスクがセットになっており、キャッチライトの形をコントロールできる。円形マスクはオクタを付けたような光質になる印象。ストリップマスクは背景への光の回り込みを制限したい時にも便利だ。

円形マスクの装着風景。マジックテープで簡単に貼り付けられる。


キャッチの大きさを見ながら発光距離を調整していく。顔に近いので、ストロボの光量は1/8。光もマスクの効果で多少まろやかになる。


目を拡大してみると、きちんと円形のキャッチが入っていることがわかる。

case 3 背景からの1灯で擬似太陽を演出


キヤノンEF200mm F2.8L II USM f2.8 1/200 秒 ISO50

夕暮れ時、太陽が傾き始める時間帯に、あえて日影に入って疑似太陽を作り、夕方の雰囲気を強めてみた。まずはストロボにオレンジ色のフィルターを貼り、モデルの背中にまんべんなく光りを当てるため、縦長RoundFlashストリップライトを装着。モデル正面からのソフトボックスの光、背後からのオレンジ色の縦長の光で挟み込むクロスライティングで撮影した。


ソフトボックスのみの場合


ストロボ光量はモデル正面側を1/4、背中側を1/2に設定。


ストリップライトは折りたたみ式のため、使用時にはスタンドにひっかけるか、誰かに持ってもらう必要がある。グリッドが付いているため、光が余計なところに漏れないのがメリット。


フィルターを貼ったクリップオンをアクセサリーに仕込む。


夕方、夜の野外のストロボテクニック

撮影に熱中しているうちに、夕方になってしまった(笑)。
イルコなら夕方このシチュエーションでこう撮ります!


「case 3 背景からの1灯で擬似太陽を演出」と同じ撮影場所の、夕日が沈む直前の様子。樹木が作っていた影は完全に消え、空間全体が日影になっている。空にはオレンジ〜青のグラデーションができ、木々のすき間からはかすかに夕日が見える。


case 1 背景を大胆に落として木のシルエットを浮かび上がらせる


キヤノンEF24mm F1.4L II USM
f1.4 1/250 秒 ISO50

この時間帯に特徴的な空のグラデーションをはっきり写したかったのと、細かな枝のシルエットを出したかったので、まずは全体の露出を低めに設定。そこからモデルの斜め前のストロボ1灯で人物だけを明るくしていく。アクセサリーは少し硬めの光が欲しかったので、ローグのフラッシュベンダーにグリッドを付けて使用した。空と枝を画面いっぱいに広げるために、24mmレンズでローアングル気味に撮影している。グリッドのおかげで光の照射範囲が制限されているので、広角レンズを使っていても背景にストロボ光が不自然にもれていない。


ローグのフラッシュベンダー。このようにグリッドを装着して方向性のある光を作れるほか、光をバウンスさせてやわらげたり、バウンスの方向を細かく変えられるという万能アクセサリー。小さく丸められるので、持ち運びにも便利。


モデルの正面斜め前、顔のやや上のアングルからストロボを発光。光量は1/4。



case 2 枝葉から漏れる夕日を利用して宇宙空間を演出


キヤノンEF200mm F2.8L II USM f2.8 1/800 秒 ISO320

最後に、木のすき間から見えていた夕日を背景にして撮ってみる。木漏れ日を圧縮効果で引き寄せて玉ボケにするために、レンズは200mmを使用。露出は暗闇の中に玉ボケが浮かび上がるぐらいまで落として、自然光の影響がほぼない状態からモデル側の光を作っていった。モデルの正面からはアンブレラを付けたストロボを光量1/2で発光して、顔のやや上から全体にやわらかな光を当てる。モデルの背後からは、背景の雰囲気となじませるために、オレンジフィルターを付けたストロボをほかのアクセサリーなしで1/8の光量で発光させた。


【NG】モデルの背後から打っているストロボのオレンジフィルターを外して撮ったもの。背景のオレンジ色の光とモデルに当たっている真っ白な光がちぐはぐな印象に。


モデル正面のアンブレラと背景のストロボが直線上に並んで、モデルを挟み込んでいる。



200mmでモデルより上にある夕日を入れるにはこのぐらいローアングルになるしかない。



<メーカーサイト>
イメージビジョン
Cactus ワイヤレスフラッシュ RF60X

Cactus V6ll
ワイヤレスフラッシュトランシーバー
*この記事は、フォトテクニックデジタル2017年3月号記事を転載しています。
フォトテクニックデジタル最新号はこちらから