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ポートレート・テクニック

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ポートレート・テクニック
公開日:2017/03/21

露出計を使いこなして光を読む目を鍛えよう その1

photo & text 福島裕二 model 繭

ニコンD5 WB: マニュアル RAW アドビ システムズAdobe Photoshop Lightroom CC(以下、共通)

撮影時にスタッフ間でもっとも飛び交う言葉は「この変な光どこから来ている!?」。顔に当たる微細な光の変化も見逃さない、自他ともに認める光マニア・福島裕二氏による、光を読む目の解像度を上げるための露出計使用のススメ。

〜Introduction〜  デジタル時代に露出計を使う意義とは?


最近、「デジカメは撮った写真を背面モニタで見ながら明るさ調整をしていけばいい」という声を耳にする。趣味で撮る写真は結果オーライな部分があるので、一理あると思う。だが、フィルム時代を思い返すと、露出計を使う理由は露出決定以外にもう一つあった。それが、「露出バランス」の決定だ。アシスタント時代のノート(下写真)には、場面ごとの適正露出とともに、写真のどの場所がどのぐらいの明るさかという、露出バランスがびっしりとメモしてあった。目で見ている光やストロボ光が、実際にどれくらいの強さ・向きで当たっている時にどのような陰影感が写真に定着されるのか、を露出計で物理的に測っておくことで、場所が変わっても同じ陰影感を再現できるようにするためだ。この手法を一度体に叩き込んでおくのと、感覚一辺倒で撮るのでは、光を見る目に大きな差が生まれる。露出計で露出バランスを測って、ロジカルに光と戯れてみませんか?



基本その1  入射光式の露出計で適正露出を導く



入射光式の露出計は、白い球に当たる光が18%グレーで撮れる露出を算出してくれる。測定面が球状なので、同じポイントでも光の向きによる露出の違いも測ることができる。光が混在する場合は一方の光を手で遮ったり、球を引っ込めたりする必要があるが、今回はあまり深入りせずに露出バランスを測ってみよう。例えば、絞り優先モードでシャッタースピード1/60秒・ISO100の時、2ヵ所で測ってみてf1.4とf2.8が出たなら、露出差は2段になる。


ハイライト部で測定

モデルの向かって右側の頬のハイライト部を測ると、1/30 秒・ISO100でf4 の値が出た。この露出で撮ると、明るい部分が18%グレーになるので、当然写真は暗めに写る。

ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f4 1/30 秒 ISO100



シャドウ部で測定

モデルの向かって左側の頬のシャドウ部を測ると、1/30秒・ISO100でf2の値が出た。ハイライト部とシャドウ部の露出差は2段。思いのほか光のコントラストのある場所のようだ。

ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2 1/30 秒 ISO100


中間

モデルの顔に球の向きを揃えて中間部分の露出を測ると、1/30 秒・ISO100でf2.8の値が出た。実際には18%グレーとモデルの肌色の差を考慮する必要があるが、複雑になるのでここでは割愛。

ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2.8 1/30 秒 ISO100



基本その2  モデルの顔に当たる光を見極めよう


さて、ハイライト、中間、シャドウまで、3つのの露出がそろったところで、同じ場所でモデルの体の振りを変えて撮ってみよう。光の強さが時間が経つにつれ変化するので多少の露出のばらつきは生じるが、サイド光は「基本その1」の中間と同じ適正露出に、シャドウ部で測った露出が逆光時の適正露出に、ハイライトで測った露出が順光時の適正露出にそれぞれなるはずだ。その関係を理解したら、ほかの場所でも露出を測りながら光の向きを変えて遊んでみよう。


逆光

顔の凹凸が減って、フラットな肌質になるのが逆光の特徴。人物の周りにできるエッジライトで背景からモデルが浮き立つ。このぐらい手前が落ちていると、しっとりとした表情や目線外しが似合う。逆に、背景が過剰に白飛びせずに顔の露出を上げられるシチュエーションだと、笑顔でもOK。露出計の値より1段絞っているのは、白飛びを抑えながらモデルの顔をこってり描きたかったから。

シグマ50mm F1.4 DG HSM | Art f2.8 1/30 秒 ISO100



順光

正面から顔に光が当たる順光は、パキっとした印象になるので、モデルの顔によって相性がわかれる。あまり好きではない光だが、屋外で強い光をあえて順光で当てて、コントラストを作ることはたまにある。繭さんは目元がはっきりしているので相性の良い光だが、この時の衣装や髪型、背景とはイメージが合わなかった。

シグマ50mm F1.4 DG HSM | Art f4 1/30 秒 ISO100


サイド光

サイド光はドラマチックな雰囲気が作れて、顔の造作が強調できるので、個人的に好きな光。この時はすりガラスディフューズされた窓からの直射光によって、顔に比較的強めの陰影ができていた。サイド光を撮るコツは、気持ちのいい影の強さ、形を意識すること。目視でいやな影ができていたら、顔や体の向きを変えてもらってコントロールしていこう。

シグマ50mm F1.4 DG HSM | Art f2.8 1/30 秒 ISO100



窓際のサイド光

この部屋の中で一番好きな光が窓際でモデルがちょっと柱の影に入った時に生まれるサイド光だった。仕事でとりあえず撮ろう、となった場合はまずここを選ぶだろう。肌のハイライトからシャドウ部にかけてなめらかな陰影のグラデーションが生まれていて、良い質感を作っている。このトーンだと、表情はすましていても笑顔でも違和感がない。

ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2.2 1/125 秒 ISO100



撮影の舞台はこちら


今回使用したのはエイトフラッグススタジオ。壁一面の窓が特徴で、差し込む光がスタジオの奥に行くに従ってゆるやかな陰影を作っている。ガラスの種類も透明なものと半透明があり、光のコントロールがしやすい。光と影で遊ぶには最高のスタジオだ。

露出計はセコニックの最新モデルスピードマスターL-858D を使用


今特集のキモである露出計は、入射光式と反射光式(スポット測光1°)の両方が測れるセコニックL-858Dを使用した。タッチパネルが採用され、ストロボ閃光時間も測れる最上位機種。実勢価格72,900 円。


検証・何気なく選んだ光の露出バランスはどうなっている?


普段、自分が自然に選んでいる光を、撮影後にあらためて露出計で測ってみるとどんな露出バランスになっているのか? という実験を行ってみた。目で見ている光の感じと、露出計で測った露出バランス、そして写真に定着した陰影感。これを繰り返し見ていくと、目視でも写真の仕上がりが想像できるようになる。

case1 お昼過ぎの窓辺に差し込む強めのサイド光


ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2.2 1/3200 秒 ISO100

明るい光が差し込むスタジオの2階に移動した。窓際に強い光が差し込んでいたので、モデルの顔に直射を当てて、コントラストの強い写真を撮ろうと思った。ガラスが完全に透明だったら、顔にいやな影ができて、白飛びの危険もあるので何かでディフューズするようなシチュエーション。幸いここでは、窓がすりガラスになっていた。
光のコントラストと、胸元のレースのディテール、そして本人の印象の強い顔を狙っていった。光がやわらかいので、まつ毛の嫌な影はできていない。


撮影後に露出バランスを測ってみると、ハイライトとシャドウの露出差は2 段差だった。見た目にはかなり強い光でも、撮ってみると意外とこのくらいの露出差に収まっていることが多い。逆にそれは、1/3 段ぐらいの差でも陰影感が繊細に変化するということでもある。
左…こういう時は経験上、ハイライトで露出を測ってそこから1 段露出を上げると良い。白い服が18%グレーになる露出が算出されるので、そこからディテールが損なわれないギリギリまで明るさを上げていくイメージ。
右…モデルには斜め45 度からお昼過ぎのトップライトが降り注いでいた。


同じ室内で、モデルに直接光が当たらない場所に立ってもらい、直射光の当たる壁を背景にしたのがこちらのカット。光がディフューズされていて、モデルに光が回っているので、ギリギリ背景が飛ばないだろうと判断。その通りになった。

ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2.2 1/125 秒 ISO100 
 



case2 床面からの照り返しが強い窓越しの逆光


ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f2 1/125 秒 ISO200

続いて、スタジオ1階のやわらかな太陽光が入る、2方の壁が窓になった一角で撮影した。太陽光を逆光で受けてエッジライトにしつつ、床面からの照り返しで手前側の影を起こせるのではないかと思った。窓そのものはかなり明るくなっているが、抜けに濃いめのグリーンがあるので、背景は白飛びしないだろうと想定。ただ自然にそこにいてこっちを見ている視線の中に、親密さが宿るような表情を切り取った。語弊のある言い方かもしれないが「俺のことが好きそうな感じ」(笑)。


逆光で影になっているモデルの明るい部分を基準にすると、暗い部分との露出差は1 段だった。鼻や髪の毛にできているエッジライトは基準から+2 段。カメラ位置やモデルの角度を工夫して、ハイライト部分をこのぐらいの面積にとどめておかないと、「白飛びしている」という印象が強まってしまう。
左上…直射光がすりガラスから降り注ぐスポット。2 階よりは光は弱め。床面はグレーだが、光が反射して強い照り返しが発生していた。

右上… 逆光で影になっている部分の、明るい側で適正露出を測る。

左下…スッと立っている自然な雰囲気を大事にしながら、105mmレンズでシャッターを切る。

その2につづく
ポートレートの光の読み方作り方
露出計を使いこなして光を読む目を鍛えよう その2

http://camerafan.jp/cc.php?i=562

<メーカーサイト>
セコニック L-858D

*この記事は、フォトテクニックデジタル2017年3月号記事を転載しています。
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