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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2012/09/14

コンタックス Carl Zeiss Tessar T* f/2.8 45mm

Photo & text 上田晃司

レンズ面がパープルとグリーンに輝いて見えるのは、T*コーティング(多層膜Tコート)によるものだ。
Lens data
●生産国:日本
●発売年:1982年
●購入価格:16,800円
●シリアル:No.6679917
●製造年:1982年頃(初期型)
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は、1982年(昭和57年)頃。この年の4月に500円紙幣に代わって500円硬貨を発行。12月には日本電信電話公社からテレホンカードが発売された。海外ではイギリス王室のダイアナ妃が長男ウィリアム王子を出産。スティーブン・スピルバーグ監督の「E.T.」が公開され大ヒットした年でもある。






絞り羽根数は6枚で円形にはならない。開放F値はF2.8で、絞りは1段ステップ。前玉はレンズ径の半分以下で、やや小さめに感じられる。  重量は約90g。厚みも18mmとボディーキャップより少し厚みのあるくらい薄いパンケーキ型。フォーカスリングの幅があまりないので、操作はしんどい。  EOS 7Dに「C/Y(コンタックス/ヤシカ)→EOS用マウントアダプター」を介して装着。シルバー色のため、やや不格好だ。ブラックにすればよかったのだが…。

鷹の目レンズは20年近く経った今も鋭さを保っていた

今回ご紹介するレンズは、コンタックス「Carl Zeiss Tessar T* f/2.8 45mm」だ。筆者は、「Carl Zeiss」と「T*」と書いてあるレンズを見るたびに衝動買いしていた時期があり、このレンズも何も考えずに通販で買った一品。ちなみに、このレンズは“eagle eye of your camera”、通称・鷹の目レンズと呼ばれ、はっきりとシャープな描写が得られるとのこと。20年程前のキャッチコピーが現在でも通用するかは疑問だが、筆者はこうした謳い文句にもとことん弱く、つい触手が伸びてしまうのだ。
 さて、このレンズは一度の生産中止を挟み、初期型(AEレンズ)と後期型(MMレンズ)の2種類がある。後期型はプログラムAE/シャッタースピード優先AEに対応しており、筆者のレンズはこの機能がないため、初期型に当てはまる。購入当時は、フィルムカメラのコンタックスRTSに付けて撮影していたが、いつのまにか使わなくなり、数年間の休眠状態。メインカメラをニコンにした後も、フランジバックが合わないため使用を諦めていたが、キヤノンEOS 7Dの購入を機にオールドレンズとして再デビューを果たした。
 購入当時は45mmという何とも中途半端な画角が好きだったが、APS-Cに付けると72mm相当のさらに中途半端な画角になる。レンズは重量がたった90gな上、レンズの鏡筒の長さも18mmと非常に短いので、ボディキャップ代わりに付けっぱなしにしておいても気にならない。ただし、操作感はお世辞にも良いとは言えない、というかまったく駄目だ。フォーカスリングが細いため、フォーカスをいじっているとよく指が画面に入り込む(個人差もあると思うが)。ヘリコイドも軽いし、その上絞りの調整は1段ずつなので、この扱いづらさといったらない。
 しかし、画質は使いづらさをカバーするほどのものがある。絞り開放からシャープそのもので、“鷹の目”は現役。ただレンズ周辺の描写が甘くなりやすい部分は、APS-C機で撮影しているため、味わっていないのだが。いつかこのレンズをフルサイズ機につけて、再度撮影してみたいものだ。



夕日の差し込む駅長室を撮影。逆光によるソフトな雰囲気を見事に再現している。等倍表示で確認すると、画面右端にある時刻表の文字を読むことができ、“鷹の目”を実感。(キヤノンEOS 7D  f2.8  1/200秒  ISO100  WB:6500K)


雰囲気のあるローカル線の駅を撮影。絞り開放でもピントの合っている部分はシャープで解像感がある。手前に入れたピンク色の花の前ボケも柔らかい。(キヤノンEOS 7D  f2.8  1/400秒  ISO400  WB:6000K)

f8まで絞って、綺麗な夕景を撮影した。絞ることでコントラストが上がりくっきりとした印象。画面下、遠くにみえる送電線なども一本一本確認することができる。(キヤノンEOS 7D  f8  1/320秒  ISO400  WB:8000K)


上田晃司のここがたまりませんっ!

初期型のTessar 45mmには、フォーカスリングの距離指標に緑の三角形がある。指標の三角とf8を合わせることでパンフォーカスにできる。APS-Cでは使えないが、フルサイズ機であれば、ノーファインダースナップの時などに重宝する。
 

CAMERA fanで「コンタックス Tessar T* f/2.8 45mm 」を探してみよう!



「オールドレンズの奇跡」は、フォトテクニックデジタル誌にて連載中です。



上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記