ポートレート・テクニック
公開日:2017/03/21
露出計を使いこなして光を読む目を鍛えよう その2
photo & text 福島裕二 model 繭
ニコンD5 WB: マニュアル RAW アドビ システムズAdobe Photoshop Lightroom CC(以下、共通)
スポット測光でお気に入りの写真の露出差をサンプリングしてみよう
L-858D をはじめとする一部の露出計には、物体に反射する光から露出を算出するスポット測光という機能が付いている。カメラの内蔵露出計も反射光式なのだが、専用の露出計ではより細かい範囲の計測ができる。その性質を利用して、印刷された写真の露出バランスを測ってトーンを真似してみるという練習方法を修行時代に先輩カメラマンから教えてもらった。露出のバランスの取り方や光のコントロールの勉強に最適なので、今回、あらためて紹介してみたい。 case1 光が回ったハイキーな写真
【1】露出差を測る
まずは光にムラのない場所に雑誌を置き、スポット測光で露出差がありそうな場所を測る。この写真は本誌2016年9月号掲載のHASEO氏の作品。全体の露出差は1.5段の幅に収まっており、光の回った写真であることがわかる。 | スポット測光中の露出計内部の様子。 |
【2】撮影位置を決める
スタジオを見渡して、似たような露出バランスが作れそうな場所を探す。ここでは、1:背景に窓があり、2:窓をモデルが背負った時に光が正面に回りそう、という条件が必須。スタジオ1階の奥側にある、吹き抜けからトップライトが差し込む窓際のスポットを撮影位置に選んだ。ニコンAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 焦点距離:55mm f4 1/125 秒 ISO800
【3】トップ光を遮る
肌や髪の毛の陰影感から、元写真にはトップライトが入っていないと判断した。そこで、吹き抜けを黒幕で覆った状態で一枚撮り、陰影のバランスを見る。この場合は露出差を測るというよりは、背面モニタで肌や髪の毛のテカリの感じを見比べた方がいいだろう。ニコンAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 焦点距離:52mm f4 1/60 秒 ISO800
【4】ほかの窓の光を遮る
続いて、モデルの側面の窓とスタジオの入り口の窓をふさぎ、肌の立体感をなくす。背後の窓がモデルの頭の位置にあるため、頭から足にかけては自然に露出差が生まれる。あとはレフを入れたり窓との距離を変えたりして、モデルと背景の露出差を整えるだけだ。ニコンAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 焦点距離:58mm f3.5 1/25 秒 ISO800
【5】完成!
最後に折りたたみ式の大型レフを手前に入れて、モデルと背景の露出差を微調整し、露出を元写真ぐらいまで上げて完成。露出バランスを元写真と揃えたあとに、現像段階で彩度を下げて色温度を整え、さらに雰囲気を近づけている。窓をふさいだりレフ板を動かしたりするたびに露出計で露出差を測ることで、自分なりに光を操る術が磨かれるはずだ。 ニコンAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 焦点距離:58mm f3.5 1/25 秒 ISO800
【6】自分好みにアレンジ
完成写真の清楚な雰囲気のお人形さんらしいイメージを、ポーズや構図を変えてグラビア寄りにアレンジしてみた。まず、色温度を変えられるLEDライトのオレンジ色の光を床面に当て、モデルの正面の影を起こし、肌色に情感を加える。そして、大型レフの前に寝転び、カメラを覗き込んでもらうようなポーズをローアングルで捉える。いわゆる「犬の目線アングル」で、こちらが包み込まれるような親密さを感じさせる一枚に仕上がった。ニコンAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 焦点距離:50mm f3.5 1/30 秒 ISO800
私の撮影ではおなじみのARRIのLED L-Seriesを床面に当てて、反射光を返している。
暗いシーンなので、LEDは小型のものでも代用できる。
そのままググっと寄ってもOK
モデルの顔にほぼ水平のアングルで迫って行ったのがこちら。やわらかい表情とポーズで、覗き込むのとはまた違った親密感が生まれている。ニコンAF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR 焦点距離:58mm f3.5 1/30 秒 ISO800
case2 コントラストのついた写真
【1】露出差を測る
こちらは本誌2017年2月号に掲載されている、三戸建秀氏撮影の足立梨花さんの写真。さきほどと同じく、光のムラができないような場所に雑誌を置いて、スポット測光で露出バランスを測る。ハイライトと背景の露出差は2段半。人工光が描く白い素肌と暗く落ちた背景のコントラストが特徴的な一枚だ。【3】人物と背景の露出バランスを整えていく
窓からの光を黒カポックで徐々にふさぎながら、ストロボの光量を調整していく。モデルに向かって左から回り込んでくる光も遮る。元写真と同じ手法で撮るのではなく、与えられた場所でいかに試行錯誤して露出バランスを近づけるのかがここでのポイント。ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f3.2 1/125 秒 ISO100
【4】別のアクセサリーを試してみる
ある程度バランスが整ったところで、試しにアクセサリーをグリッドの付いていないオクタ(八角形のソフトボックス)に変えて撮ってみた。グリッドがないため背景にストロボ光がもれてしまい、顔に当たる光の面積もやや増えてしまった。やはり元のグリッド付きのソフトボックスを使うことに。ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f3.2 1/125 秒 ISO100
【5】完成!
グリッド付きのソフトボックスに付け替えて光量を調整し、露出バランスを同じにした状態がこちら。ちなみに、モデルの向かって左側にある「く」の字のカポックは背景に当たるストロボ光を制限するためのもの。福島の右にある逆「く」の字のカポックは後ろからくる光を遮るためのもの。顔の陰影感がうまく出ない時は、は白・黒カポックの足し引きでストロボ光の返りを調整しよう。ニコンAF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED f3.2 1/125 秒 ISO100
Q:福島さん、こんな光の条件下ではどうしたらいいですか?
――曇りの日の屋内だったら?
部屋の中のちょっとした陰影を見つけて、記事「その1」の窓際のサイド光で撮ったような、やわらかなトーンを大事にして撮影する。どうしてもハイライトが必要な場合はLEDで作る。自然光が青くなるので、色温度が変えられるLEDでシャドウ部の色みをコントロールすることが多い。
――晴れの日の屋外だったら?
基本的に晴れの日のお昼時の屋外は撮りづらい。どうしても撮らないといけない場合は極端な露出差から逃げられる場所を探す。逆光で地面が白飛びしてしまう場合は、背景の影の面積を多くするなどの工夫が必要。早朝や日の入り前だと、順光の直射で撮っても雰囲気が出る。
――曇りの日の屋外だったら?
一見、フラットな光で撮りやすそうに思えるが、上から下に向かって不自然な陰影感ができてしまう。そこで、木陰や軒下に入っていったんモデルの陰影感をリセットして、背景がハイライトになるような露出バランスで撮影する。ちょうどいいスポットがない場合は、大きめのレフ板で屋根を作っても良い。
<メーカーサイト>
セコニック L-858D
*この記事は、フォトテクニックデジタル2017年3月号記事を転載しています。
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