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20ミリで探す真実〜FíRIN〜

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20ミリで探す真実〜FíRIN〜
5名の写真家が、Tokina「FíRIN 20mm F2 FE MF」をレビュー。「FíRIN=真実」と名付けられたレンズで、自らが追い求める被写体に「真実」を探し出す。
公開日:2017/06/01

【スペシャルレビュー】トキナー FíRIN 20mm F2 FE MF 赤城耕一編

photo & text 赤城耕一

「FíRIN=真実」と名付けられたレンズで街を切り取る


トキナーの新レンズシリーズ「FíRIN(フィリン)」はミラーレス機用として開発設計された新しい交換レンズシリーズである。今回はEマウント互換のFíRIN 20mm F2 FE MFを試用した。
イメージサークルは35mmフルサイズに対応、開放F値はF2の大口径である。大口径の超広角レンズはズームレンズ並みに設計が難しいとされるが、そこはミラーレス機用交換レンズの特性を生かし、コンパクトにまとめている。バックフォーカスの余裕を生かした設計なのであろう。全体のデザインもなかなか美しく精悍な雰囲気で、角形のフードも良い感じである。



 FíRIN 20mm F2 FE MF レンズ構成図

レンズ構成は11群13枚構成。うちガラスモールド非球面レンズ2枚と超低分散ガラス3枚を採用。球面収差や歪曲収差、色収差などの各収差を極力補正し、高解像と低歪曲を実現している。



本レンズはマニュアルフォーカス(MF)レンズ、しかも実絞り仕様と少々マニアックだが、おそらくAF仕様のレンズでは得ることのできない光学的な性能追求が行われているのであろうし、実写からみた一連の安定した描写性能からそれはうかがい知ることができる。 ひと昔前は20mmといえば特殊な部類に属した超広角レンズであった。スナップでは逐一フォーカシングをしたりはせず、深い被写界深度特性を生かして、目測で使用することも多かった。この場合はピント合わせの時間はゼロになるから、AFよりも素早い撮影が可能になる理屈だ。このため本レンズにはミラーレス機用交換レンズには珍しい、細かい距離指標と絞り環があり、絞り設定に合わせた丁寧な被写界深度指標が備えられている。


精悍な鏡胴の外装と、存在感のある角型フード
 

ソニーEマウントカメラのパフォーマンスを最大限活かす仕様

また設定距離や絞りの情報をカメラ側に逐次伝える通信機能を内蔵しており、ソニーEマウントカメラが持つ5軸手振れ補正、撮影距離バー表示、フォーカスアシストも活用することができる。
手ブレ補正は微量光下での撮影では安心感が得られるし、フォーカスアシスト機構は、ファインダー像の一部を拡大してフォーカシングが可能になるので、至近距離や絞りを開放値近辺で設定して撮影する場合など、深い被写界深度の効果を得づらい場合に有効である。微量光下や、悪条件下の撮影でも高い安心感を得ることができるわけだ。
周辺光量低下、歪曲収差、色収差データも搭載しているので、カメラ側での補正も万全である。


マニュアルフォーカスながら違和感のない操作性

実際に使用してみると、MFであることは特に気にならず、違和感のない操作、撮影が可能である。超広角大口径レンズ特有のフォーカシングの追い込みが楽しいが、レンズ性能が高いためか、フォーカスの頂点が見極めやすいのが良い。このことも使いやすさに一役買っているのであろう。 開放絞りから十分に高いコントラスト、撮影距離や絞り値による性能変化もほとんどない優秀なレンズだ。



至近距離で絞りを開いてみると、不思議な描写になる。玉ボケの形は周辺まで素直で、四隅も引っ張られるような感じがない。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F2.8 1/1250 ISO200 -0.3EV

 
アングルによっては遠近感を抑制できる。さらに絞りを開くことで、不思議な描写になる。大口径超広角レンズ特有の描写だ。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF 
F2.8 1/3200 ISO200 -0.7EV
 
これも至近距離で絞りを開いた再現。被写界深度は浅いが背景にあるモノの形はわかる。標準、望遠レンズのそれとは大きく異なる雰囲気が魅力。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F2.2 1/3200 ISO200 -1.3EV



新宿で。個人的には35mmの次に使用頻度が高いのが20-24mmくらいの広角レンズなので、おおむね撮影範囲はわかる。フレーミングはしやすい。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/500 ISO200 -0.7EV

 
再開発しているビルの谷間で。歪曲収差がよく補正されているので、カメラを水平レベルに構えると意外と不自然な描写にはならない。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/500 ISO200 -0.3EV
 




階調を丹念につないでゆく感じがいい。色味には乏しいけれど、リアリティのある再現性で好感がもてる。すぐれたレンズである。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F5.6 1/125 ISO800




カメラを下方にふり、少しパースペクティブを誇張させようとしたが、意外と効果が薄い。各収差の補正に優れているためか、広角らしさが抑制されている感じもある。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/60 ISO800 




肉眼よりもかなり明るく階調豊富に再現されたので、もっと思い切った露出補正をして雰囲気を重視しようとしたのだが、これはこれでありと考えた。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F4.0 1/60 ISO400 -0.7EV

 
最近では20mmレンズなど超広角の部類には入らないという感覚があるが、どうしてどうして十分に広角である。引きのない室内では重宝する。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F9.0 1/13 ISO400 -0.7EV
 
都市の風景。建物の隙間というか、ポケットのような空間に興味があるのだけれど、20mmの画角が丁度合う感じである。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/4000 ISO400 -0.7EV


 
晴天の町を歩くような場合はあらかじめ絞りを少し絞り込んでおけばパンフォーカス描写になり、狙った被写体をシャープに再現できる。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/2500 ISO400 -1.0EV


 
裏町の民家改造のアクセサリー店らしい。こちらを見られているような感じがして振り返ったらダルマがいたという次第。20mmは適度に周囲の描写を入れつつ、主題を強調したいような時に向いている。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F4.0 1/640 ISO400 -1.0EV


 
白の中の白の階調、あるいは逆に黒でもいいのだれど、その描写を探りたいような時がある。階調が豊富なレンズでないとなかなかこうした説得力のある再現は難しいものだ。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/3200 ISO400 -1.0EV


 
隆盛の時がすぎた商店のファサード。光と陰の繋ぎ方の自然なさまが、今日までのゆったりとした時間経過を現しているような感覚がある。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F5.6 1/1000 ISO400 -1EV
 

ハーフトーンの再現性と驚くべきの階調のつながりを表現



古いアパート。ハーフトーンが画面の多くを占めるような場合も、レンズのもつコントラストの能力に頼りたくなる場合もあるが、このレンズは期待を裏切らない。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/400 ISO200 -1.3EV



コントラストの強い晴天。あまり光線状態が良くないのだが、驚くべき階調のつながりをみせる。ハイライトにもきちんと調子がある。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/1000 ISO200 -0.7EV
 
取手が二つある扉。いわゆるトマソン物件。絞り込んでディテールの再現に期待したが、見事なシャープネスである。
SONY α7SII + FíRIN 20mm F2 FE MF
F8.0 1/1250 ISO200 -0.7EV
 

現実の中の真実より、写真的な光の真実を捉えるレンズ

シリーズ名FíRIN(フィリン)の由来は、アイルランド語の「FíRIN=真実」から取られた。 これは現実の中の真実というよりも写真的な光の真実という意味にも取れる。写真は現実をそのままトレースすることのみが機能として重要なわけではないわけだ。本レンズから得られる描写は、一般的な広角系ズームレンズでは得がたい「画角は広いが、被写界深度が浅い」という不思議な雰囲気を得ることができる。これもまた写真の一つの「真実」なのだ。



<メーカーサイト>
トキナー 「FíRIN(フィリン) 20mm F2 FE MF」
http://www.tokina.co.jp/camera-lenses/wide-lenses/firin-20mm-f2-fe-mf.html


協力:ケンコー・トキナー



<バックナンバー>
大村祐里子 編
「FíRIN=真実」と名付けられたレンズで、己の姿を探しにいく
http://camerafan.jp/cc.php?i=591
澤村 徹 編
「木更津モノクロームが語る真実」
http://camerafan.jp/cc.php?i=601
上野由日路 編
「広角×低歪曲×ボケが生み出すポートレート」
http://camerafan.jp/cc.php?i=609
林 明輝 編
「ドローン空撮で自然の空気感を余すところなく表現」
http://camerafan.jp/cc.php?i=618
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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