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20ミリで探す真実〜FíRIN〜

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20ミリで探す真実〜FíRIN〜
5名の写真家が、Tokina「FíRIN 20mm F2 FE MF」をレビュー。「FíRIN=真実」と名付けられたレンズで、自らが追い求める被写体に「真実」を探し出す。
公開日:2017/09/19

【スペシャルレビュー】Tokina FíRIN 20mm F2 FE MF 林明輝 編

text & photo & movie 林明輝
岡山県牛窓町・ビーナスロードをドローンで空撮した。大潮の干潮時に島と往来ができる砂の道が出現する。太陽が沈む直前、人々の影が長く道にたなびいて、黄昏時がフォトジェニックに撮影できた。水平線のゆがみを感じない、究極の広角レンズだ。
ソニー α7RII F5.6 1/200 ISO100 -1EV
 

地上でも空撮でも、自然の空気感を余すところなく、作品に込めることのできる必需品

Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFをSONY α7RIIに装着し、地上での三脚撮影や手持ち撮影、そしてドローンでの撮影を行った。2016年10月、寒さで手が震える鳥海山五合目での早朝、シャッター1/15秒でブレのないシャープで超解像な作品が撮れた時には、「感動」以外の言葉が思い浮かばなかった。



ドローン:Matrice 600(M600)+3軸ジンバル「Ronin-MX」
SONY α7RII + Tokina FíRIN 20mm F2 FE MF

 
鳥海山五合目の祓川登山口で日の出を撮影。雨が降りながら、一瞬日が射した瞬間を捉えた。三脚を用意する時間もなく、手持ち撮影で数カット撮影するのがやっとだった。
ソニー α7RII F8 1/15 ISO320 -1EV


Tokina FíRIN 20mm F2 をソニーα7RIIに装着し構えてみる。質量は、カメラボディで620グラム+レンズで490グラムであるから、合計わずか1,110グラムと軽量だ。手持ちで撮影する場合、自然とレンズを支えるように左手がステイとなり、ピントリングの操作がしやすい。実はこの感覚が重要で、自分でピント位置を合わせ瞬時にシャッターを切るという、撮ることの「リアリティー」を味わうことのできるレンズである。毎回シャッター半押しのたびに、AFが起動してピントが合わなければシャッターが切れないというタイムラグや不安、つまりストレスを感じない。シャッターボタンを押せば、瞬時にシャッターが切れる、こんな当たり前の感覚が大事なのだと、表現者の一人として、いまさらながらマニュアルフォーカスレンズに感動を覚えてしまう。

 
渓流越しに水の流れをアップにして撮影。長秒露光のノイズ低減をオフにし、5秒の長秒露光を試みた。画面の左上部1/4を全倍に拡大してプリントしてみたが、全く問題のない画質だった。(写真は、40mm相当にトリミング)
ソニー α7RII F16 5秒 ISO50 -1EV
 

大口径・超広角レンズ+強力な手振れ補正ボディという最強コンビ

最近、気象の変化を特に肌で感じている。体験したことのないような雨、予期せぬ急変、一日の中で晴れや雨が入り混じる日替わり天気の様相など。目の前の風景が一目見ていいと思ってから、三脚を立てて撮影準備をしている間に、光や風向きが変わることが多いと感じている。つまり、相対的にシャッターチャンスが少なくなっているという懸念がいつも脳裏をよぎるのだ。そんな時には手持ちで瞬発的に撮影したい。ソニーα7シリーズの持つ5軸手振れ補正と被写界深度の深いFíRIN 20mm F2の組み合わせは、風景撮影においても手持ち撮影でパンフォーカスを可能にする最強コンビと言える。


 
城ヶ崎海岸の水平線からの朝日が、少しずつ柱状節理の岸壁を照らしはじめた。波しぶきを適度にブラしたかったため、NDフィルターを使用。カチッとした強い陽光だったが、ゴーストやフレア―の心配をすることなく、30枚近くをすばやく撮影。逆光にも強いレンズである。
ソニー α7RII F16 5秒 ISO100 -1EV  フィルター:ND64
 

グライダーもレンズも同じ、性能を信じれば、期待を裏切らない

FíRIN 20mmは、過去に体験してきた常識を覆すほどのディフォルメの改善。ゴーストやフレアを限りなく低減するように設計されたスマートなレンズフード、手にした時から即座に左手を添えたくなる高貴で品のある容姿。もしも、レンズに性別があるとすれば、このレンズは間違いなく『女性』だ。
なぜ、そんなことを考えてしまうかというと、ドローンが空の革命として登場する直前まで、私はモーターパラグライダーで空撮していた。まだ入門したてのころ、グライダーの操作を的確に行えず、空中で不安定に揺すられ、酔わされ、撮影に滅入っていて、いわば空撮以前の問題だったのだ。
当時の師匠が、私に言った一言が、『グライダーを女性だと思え!』だった。
この一言で、私のグライダー操作は格段に進歩した。性能を信じ、こころを一つにして一緒に飛べば、結果を出せる。その点では、パラグライダーもレンズも似ていると思う。


 
ドローンの撮影許可を得て、北海道大雪山の紅葉に挑んだ。レンズとボディーの剛性とバランスがよいこともあって、シャッター速度は1/100秒前後で設定している。従来、実機のヘリコプターで1/500秒前後で切っていたことを考えると、テクノロジーの進化を実感する。無限遠の被写体をとっても、この写真のように奥行や立体感のある作品が撮れる。FíRINは、ドローン撮影においても、ワールドスタンダードなレンズと言える。


 
空撮時の機材。DJIのドローン Matrice 600(M600)と3軸ジンバル「Ronin-MX」に、SONY α7RII と Tokina FíRIN 20mm F2 FE MFをセットしている。私にとって最強の空撮キットだ。
 

地上でも空でも威力を発揮するレンズ FíRIN 20mm F2 FE MF

地上だけでなくドローンによる空撮でも、このレンズは威力を発揮する。かねてから、ドローン特有の振動が、高精細のイメージャーに与える影響は、計り知れなかった。静止画の撮影でも1/1000秒以上のシャッターはザラで、感度は常にISO6400を保ったまま、朝夕の微妙な時間帯に対峙するという始末。動画撮影しようと思っても、こんなシャッターでは、ガサついて使いものにならない。ところが、このレンズで空撮し始めた当初から、驚くべき体験が待ち構えていた。このレンズ特有の剛性とバランスの良さで、1/100秒程度のシャッター速度でも、楽にB0判(1×1.5m)以上に大伸しプリントできるのである。従来の常識では考えられないテクノロジーの進化を目の当たりにした。

 
ドローン操縦/撮影:林明輝
動画制作:ケンコー・トキナー


 
誰もいない田沢湖の夜。満月とともに、水面から霧がわいて、翌朝には広大な雲海が形成される。開放絞りF2でファインダーを覗くと、目の前の光景と同じ映像がカメラでも確認できた。ピントリングを回すと、画面の一部が拡大され、対岸の山肌まで楽にピントを合わすことができた。
ソニー α7RII F2 1/15 ISO400


 
フォーカスリングは、基本的に無限遠の位置にセットしている。この写真では、画面左上部にブナの枝が映りこんでいたため、ここにもピントを合わせたかった。こういう時には、絞りをF8-11くらいにすると、手前数メートルから無限遠までのパンフォーカスが可能となる。
ソニー α7RII F8 1/160 ISO200 -1EV


 
上高地田代池の霧氷林。絞りF16まで絞って、手前の霧氷林に数十センチ近づいてみる。手前から奥までシャープな写真が、手持ちで簡単に取れることに感動。
ソニー α7RII F16 1/160秒 ISO200 -2EV


まだ見ぬ風景に出会いたい、空でも大地でも

私は、さまざまな自然風景と対峙する中で、積極的にFíRIN20mmを使っている。周辺の画像劣化を感じさせない驚異の描写力は、RAW現像時にもストレスを感じることがなく、本当に素晴らしいレンズだ。地上だけでなく、ドローン空撮においても、ワールドスタンダードなレンズとなるだろう。一度このレンズの素晴らしさを体感したら、もうあとには戻れないと思うのは私だけだろうか。

今回の記事を書くにあたって「あなたにとって写真の真実とは何か?」とテーマを与えられた。私は、自然風景を撮り続けてきた。フィルムカメラと共にグライダーに乗り込み空を飛んで何度も墜落しそうになったこともあった。それでもまだ真実は見えてこない。私の被写体は雄大な大地だ。刻々と変わる風景を目の当たりにすると、人間の力ではどうしようもないことが多くあること感じている。そんなとき、真実なんて言葉は陳腐だ。それでも私はこれからも、空から大地から写真を撮り続けたい。まだ見ぬ風景に出会うために。



<メーカーサイト>
トキナー 「FíRIN(フィリン) 20mm F2 FE MF」
http://www.tokina.co.jp/camera-lenses/wide-lenses/firin-20mm-f2-fe-mf.html

協力:ケンコー・トキナー



<バックナンバー>
赤城耕一 編
「FíRIN=真実」と名付けられたレンズで、街を切り取る
http://camerafan.jp/cc.php?i=584
大村祐里子 編
「FíRIN=真実」と名付けられたレンズで、己の姿を探しにいく
http://camerafan.jp/cc.php?i=591
澤村 徹 編
「木更津モノクロームが語る真実」
http://camerafan.jp/cc.php?i=601
上野由日路 編
「広角×低歪曲×ボケが生み出すポートレート」
http://camerafan.jp/cc.php?i=609
 著者プロフィール  
林明輝(りんめいき)
1969年、神奈川県横須賀市生まれ。独自の視点で、自然風景の醸し出す微妙な空気感、透明感を表現した作品の発表を続ける。 写真集に『あまかざり』(1998年・愛育社)『水のほとり』(2001年・同)、『森の瞬間』(2004年・小学館)、『水物語』(共著、2007年・平凡社)『大きな自然 大雪山』(2008年・小学館)多数あり。写真教室・輝望フォトグラファーズ主宰、日本写真家協会会員、日本自然科学写真協会理事、第三級陸上特殊無線技士。写真展「空飛ぶ写真機〜ドローンで見た日本の絶景〜」(2015年 ソニーギャラリー)ほか。
ウェブサイト:http://meilindrone.o.oo7.jp/