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中古カメラ・マニアックス

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中古カメラ・マニアックス
「未知の写真表現の領域にたどり着くためなら、リスクを厭わず何でもする」そんな方のために、改造や分解を伴うマニアックな使い方をご紹介します。作業は自己責任で行って下さい。
公開日:2014/08/15

マウントアダプター改造〜オートリケノン 55mm F1.4 & ニッコール-S オート5cm F2 ×ソニーα7

photo & text 大浦タケシ


筆者の手もとにある「ニッコール-S オート 5cm F2」と「オートリケノン55mmF1.4」。この2本のオールドレンズの共通点といえば、非Ai方式のFマウントレンズであるということ、そしてデジタルで楽しもうとするとDfはおろか市販されているマウントアダプターのほとんど、いやもしかしたら全てに装着できない“クセ玉”であることだ。ちなみに、後者はリコーシングレックスの標準レンズとして1964年に登場し、欧米のみで発売されたレンズ。現在国内のカメラショップなどで見かけることのほとんどないものである。

Fマウントなのにデジタル一眼レフカメラに装着できないレンズがある

装着できない理由は、ニッコール-S オート 5cm F2の場合では絞りリングのスカートの形状である。最初期のFマウントニッコールの一部のなかにはスカートの深いものがあり、本レンズもそのような1本だ。装着できるカメラといえば、フィルム一眼レフのF、F2、F3に限られる。マウントアダプターへの装着に関しても、筆者の知るかぎり対応するものは存在しないようである。

もうひとつのオートリケノン55mmF1.4の場合では、3つあるマウントのツメのうちひとつが、オリジナルのFマウントにくらべ左右に長いためである。またレンズガードも後方に大きく張り出し、フィルムおよびデジタルを問わずニコンの一眼レフ全てに装着することはできない。こちらも装着できるマウントアダプターはないといってよい。



左がニッコール-S オート5cmF2、右はニッコール-H オート2.8cmF3.5。写真では、前者は絞りリングのスカートが深く、後者にくらべマウント面が低いことが分かる。


左がリケノン55mmF1.4、右は一般的なFマウントレンズ(ニッコール-H オート2.8cmF3.5)。2つのレンズの手前側にあるツメを比べてみると、左はオリジナルのFマウントレンズ(右)にくらべて横に長い。

それでも使いたいから改造を決意

しかし、そのようなレンズだからこそ、天の邪鬼な筆者はデジタルでその描写が知りたいと思ってしまうのである。そこで、考えられるのが次の3つの方法である。1つ目がDfやマウントアダプターに装着できるようにレンズのマウントを改造する方法、2つ目がDfのマウントを改造する方法、3つ目がミラーレスで使うことを前提にマウントアダプターを改造する方法である。

まずひとつ目のレンズのマウントを改造する方法だが、色々と話を訊くとできないことはない。しかし、リスクが発生する場合があること、そしてレンズのオリジナリティが損なわれることを考えると今一歩踏み出す勇気がない。

2つ目がDfのマウントをレンズに合わせて改造する方法だが、ニコンの絵づくりで2本のレンズが楽しめるのはよいが、こちらはもっとリスキー。リセールバリューを考えときも、小心ものの自分としてはとてもとても実行できるものではない。

そして3つ目のマウントアダプターを改造する方法は、もっともリスクを最小限に抑えられる。フルサイズのミラーレスで楽しむとなると国産のカメラではソニーα7シリーズに限られるが、安全で安心な手段といってよい。思いついたら吉日、早速この方法を実行することにした。

マウントアダプターの改造は、横浜にあるmukカメラサービスで行った。同社は、多くのマウントアダプター改造を行なっている経験豊富なショップだ。今回の改造では、他のFマウントレンズもこれまでどおり装着することを前提に、ひとつのマウントアダプターでニッコール-S オートもリケノンも装着できるような改造をお願いした。もちろんマウントアダプターは「ニコンFマウント→ソニーEマウント」のタイプである。

それぞれのレンズに対する改造では、ニッコール-S オート5cmF2の場合、絞りリングのスカートの長さに合わせて、マウント部外周の一回り広い部分を少しずつ削っていく。オートリケノン55mmF1.4については、アダプター側のマウントのツメをレンズ側に合わせて削るだけだ。いずれもフライスマシンで手際よく作業がすすみ、あっという間に終了。これまでいろいろと悩んだことがじつにあっけなく解決した。まさに案ずるよりも産むが易しである。



アダプターから外したマウント部にフライスマシンで加工を施す。地味な作業だが、それまでデジタルで楽しめなかったレンズもこの作業により可能となることを考えると感慨深い。

なお、今回の改造でかかった費用は、
・RJ Camera製 ニコンF→ソニーEマウントアダプター(三脚座付き):6,800円
・ニッコール-S オート5cmF2のための改造費:4,000円
・同じくオートリケノン55mmF1.4のための改造費:2,000円
以上、合計12,800円となった(いずれも税込み)。
なお、改造費用はマウントアダプターの種類や内容によって異なるので、事前にmukカメラサービスに相談してほしい。

これまでデジタルでの撮影を諦めていたレンズが、ちょっとした手間と費用で可能になることは大きい。しかも、レンズ本体に手を入れなくて済み、リスクが少ないのもマウントアダプター改造のよい部分だ。レンズによってはマウントの形状に問題なくてもマウントアダプターとのマッチングが悪いものもあると聞く。そのような場合も含めマウントアダプターをカスタマイズすると、それまで死蔵させるしかなかったレンズでも、デジタルでの撮影が楽しめるようになるのだ。もちろん、これまでデジタルでは出番のなかったニッコール-S オート5cmF2とオートリケノン55mmF1.4の2本についても、ミラーレスで撮影が楽しめるようになり大満足のマウントアダプター改造である。


Fマウントのオートリケノン55mmF1.4をα7に装着したところ。質量は396gと標準レンズとしては重い部類に入るので、マウントアダプターには三脚座は必須。


ニッコール-S オート5cmF2も改造を施したマウントアダプターならデジタルで楽しめる。本来Dfで撮影を楽しみたいところだが、これでよしとしたい。



筆者にとっては最強のmuk改造済みFマウント→NEX/αマウントアダプター。ニッコール-S オート5cmF2およびオートリケノン55mmF1.4のほか、一般的なFマウントレンズの装着も可能だ。


右が改造を施したマウントアダプター。オートリケノン55mmF1.4対応として、画面中央側のツメの片側を削っている。左のノーマルのマウントアダプターとツメの長さが異なることが分かるだろうか??


こちらも右が改造を行ったマウントアダプター。ニッコール-S オート5cmF2対応としてマウント部外周の一回り広い部分を削ってある。左のノーマルのマウントアダプターと黒い外周部内側銀メッキ部分の深さが異なることが分かるかと思う。


オールドレンズ・ギャラリー

*ボディーはすべてソニー α7を使用
オートリケノン 55mm F1.4


F1.4 1/1000 ISO100 WBオート


F1.4 1/8000 ISO100 WBオート -0.3


F2 1/4000 ISO100 WBオート


F1.4 1/320 ISO100 WBオート





ニッコール-S オート5cm F2


F2 1/3200 ISO100 WBオート


F4 1/1250 ISO100 WBオート +0.3


F5.6 1/1250 ISO100 WBオート


F2 1/6400 ISO100 WBオート -0.7

*マウントアダプター、カメラ、レンズの改造は自己責任で行うようお願い致します。本記事を読んで行った行為により生じた損害は、大浦タケシ、CAMERA fanおよび、玄光社はその責を負いません。


 著者プロフィール
  大浦タケシ(おおうら・たけし)

宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。紆余曲折した後、フリーカメラマンとなり、カメラ誌、Webマガジン等でカメラおよび写真に関する記事を執筆する。中古カメラ店巡りは大切な日課となっており、”一期一会”と称して衝動買いした中古カメラは数知れず。この企画を機に、さらに拍車がかかる模様。2006年よりカメラグランプリ選考委員。