オールドレンズ・ポートレートテクニック
公開日:2017/06/15
第1回 太陽光をコントロールしてワンランクアップ 前編 逆光編
photo & text:上野由日路 / model:山地まり

SONY α7 + RANK TAYLOR HOBSON COOKE SPEEDPANCHRO 75mm F2 SER ll(コート有)
オールドレンズの最大のメリットはその風合いの豊かさだ。まぶしいシチュエーションではまぶしく、重厚な風景の中では重々しく、柔らかい肌はより柔らかく撮ることが出来る。これはレンズが光を素直に表現するからこそ生まれるものだ。一方で使い方を誤ってしまうと失敗に陥る。では、オールドレンズ撮影のおける失敗とは何か?
それは、オールドレンズに遊ばれてしまって、自分の思い描くイメージの写真が撮れないことだ。
均一に高性能化されている現代レンズと違いオールドレンズは作られた時代、国、目的によってその性能はざまざまである。以前は全ての性能を均一に上げることが困難だったため目的に特化したつくりになっている。
オールドレンズ独特の表現を最大限活かしたポートレートを撮るためには、レンズごとの違いを把握し、いくつかのセオリーを理解する必要がある。そこでこの連載では、ポートレートを撮るための基本を解説しながら、オールドレンズならではの作品制作のテクニックをご紹介する。 まずは屋外撮影での基本から覚えよう
オールドレンズでの撮影に限らず、光を読むことは撮影の基本だ。野外のポートレートの撮影において太陽光は唯一の光源になる。この太陽光を上手くコントロールすることでポートレートの仕上がりが劇的に変わる。また光源のコントロールが出来ていないとレンズごとの性格を把握することも困難になる。
まず大切なのは太陽の位置を把握すること。これが出来ていないと太陽に振り回されてしまう。 太陽の位置と呼び名

- 順光・・・・撮り手の後ろから太陽が当たってる状態。モデルの正面から光が当たる。
- トップ・・・・太陽がモデルの真上にある状態。
- 逆光・・・・撮り手の正面に太陽が当たっている状態。モデルの後ろから太陽が当たる。
モデルと影
太陽を直接見ると目がくらんでしまうのでモデルの影をみて太陽の位置を見つけることをお勧めする。順光ならモデルの後ろ、トップなら真下、逆光ならモデルの前に影がくる。
逆光と斜逆光
ポートレートの基本は逆光だ。逆光時はモデルの顔に影が落ちないためきれいなポートレートを撮ることができる。逆光には真逆光(逆光)と斜逆光の2種類がある。
モデルの真後ろから光が当たりモデルの正面に影が落ちている状態を真逆光(逆光)という。
真逆光時は顔に露出を合わせるだけで、きれいなポートレートを撮ることができる。このとき気をつけることは日が落ちてきて画角に太陽が入り込むと、ハレーションやゴーストの原因になるということだ。また影が出ない反面ハイライトもなくなるのでややのっぺりとした印象になる。
逆光時写真(レフなし)
RANK TAYLOR HOBSON COOKE SPEEDPANCHRO 75mm F2 SER ll(コート有)
逆光時の撮影風景

モデルの髪にハイライトが入っていない点に注目
逆光時の影は写真のようにモデルの前に来る。撮影者の影とモデルの影が一直線になっていることがわかる。 斜逆光
モデルの斜め後ろから光が来ているときを斜逆光という。モデルの前に影が出るのは逆光時と同じだが、左右どちらかに傾いているのが特徴。斜逆光時はモデルに影が伸びている側と反対側にハイライトができる。逆光と斜逆光の図解では向かって左側に影が落ちているので、モデルの右側にハイライトが入っている。露出は逆光時と同じく顔に合わせる。シャドウ部とハイライト部ができるので真逆光より立体感が増す。真逆光よりハレ切りがしやすいので朝夕の日の低いときもハレーションやゴーストを回避しやすいのも特徴だ。
斜逆光時写真(金レフ)
RANK TAYLOR HOBSON COOKE SPEEDPANCHRO 75mm F2 SER ll(コート有)
斜逆光時の撮影風景

モデルの髪にハイライトが入っている。このハイライトにより立体感が生まれる
逆光のときと異なりモデルの影は斜め前に出る。斜逆光時は直接あたる光を有効に使ってハイライト部を作る。これにより写真の立体感が増す。斜逆光は朝夕の斜光時に効果を発揮するライティングだ。 オールドレンズ・ポートレート テクニック
ハレーションをコントロールする
ここからはオールドレンズならではのテクニックを紹介したい。
オールドレンズは最新の現行レンズに比べて逆光に弱い。もちろん、オールドレンズと一括りに言ってもメーカー、製品によって耐逆光性能は異なるが、古いレンズほどコーティング性能が劣るため逆光での撮影時に、フレアが生じることが多い。しかしノンコートレンズの一部ではフレアを生かした美しい表現が出来るレンズも存在する。
野外のポートレートでは、レンズに入り込む太陽光を表現に合わせてコントロールできるかどうかが成功の鍵になる。逆光でハイライトを作り、レフでメインライト、ハレ切りでハレーションをコントロールすることが撮影の基本だ。 ハレーションとハレ切り
光源が直接画角に入るとハレーションやゴーストを発生することがある。光源が直接画角に入らないように手やフードなどで影を作ることをハレ切りと言う。
(左)フードなし太陽光が入り込んでいる
(中央)フードによるハレ切り
(右)手でハレ切り

逆光(フード外し)
Carlzeiss Cine Planar 50mm F2(コート有り)

逆光(手でハレ切り)
Carlzeiss Cine Planar 50mm F2
逆光の状況で手でハレーションを切って、オールドレンズらしい柔らかい表現に仕上げた。ハレーションが起こるときはレンズに直接太陽光が入っているときで、レンズを見ると光源が写りこんでいるのがわかる。フードなどで陰になっているときはハレーションは発生しにくくなる。手によるハレ切りは微妙なハレーションの調整ができるのでお勧めだ。
ハレーションやゴーストはレンズによって現れ方が異なる。僕の経験ではノンコート(コーティング無し)のレンズは比較的ハレーションが出やすい傾向にある。しかしハレーションが出ても写りは安定していて画としてそのまま成立することが多い。
一方コーティングされたレンズはハレーションが出にくい反面ハレーションが出たとたん解像力が落ちるレンズが多い印象がある。順光時と逆光時でレンズを使い分けると表現の幅が広がるが、これはなかなか難しいのでまたの機会に解説したい。
Meyer Görlitz Trioplan 3.5cm F2.8(ノンコート)
この写真はハレーションを切っていない。モデルの右手の上に光源である太陽が写っているが、解像度は落ちることなく写真として成立させている。ハレーションは、必ずしも切らなければならないということではないのだ。光の方向性を読み、オールドレンズの個性を活かし、オールドレンズでしか表現できない写真になった。 <使用機材>

カメラ:SONY α7
レンズ:左からRANK TAYLOR HOBSON COOKE SPEEDPANCHRO 75mm F2 SER ll(マルチコート)
Meyer Görlitz Trioplan 3.5cm F2.8(ノンコート)
CarlZeiss Cine Planar 50mm F2(シングルコート)
ランク・テイラーホブソンのスピードパンクロ75mm F2はポートレート撮影で最も多用する2本のうちの一本だ。ピント部の解像力と背景のボケの情緒感が特徴で映画のワンシーンのような画が撮れる。
メイヤー・ゲルリッツのトリオプラン3.5cm F2.8はノンコート。フランツコッホマンのハーフカメラ「コレレK」用のレンズをマウント変換して使用。順光でも逆光でも使える万能レンズだ。ハーフ用のレンズのためやや周辺減光があるが、それにより情緒感のある画が撮れる。引き絵のときのボケが特徴的。
カールツアイスのシネプラナー50mm F2も安定した写りに定評がある。どんなシーンにでも対応できるオールマイティーなレンズで、パンクロ同様僕が最も多用するレンズだ。 <モデルプロフィール>
山地まり(やまち・まり)
1994年6月25日生まれ
「35歳の高校生」(13/NTV)で女優デビュー。週刊プレイボーイ、サンデー・ジャポンで話題となり、現在、痛快TVスカッとジャパン等数多くのバラエティ番組にも出演中。映画『血まみれスケバンチェーンソー』(16)で映画デビューし本格的に女優として活動。
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