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アジアンMFレンズここだけの話

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アジアンMFレンズここだけの話
中国、台湾、香港などのレンズブランドが、いま実にアグレッシブだ。値段がリーズナブルというのは当然として、大口径、正統派高画質、クセ玉、付加機能重視、はたまた懐かしの名レンズを復刻したものまで現れた。さながらおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさである。レンズマニアならこの新たなカテゴリー、アジアンMFレンズを見逃す手はあるまい。そんな百花繚乱のアジアンMFレンズを数多く使い倒した澤村徹が、撮影のエピソードとレンズのフィーリングを語る。
公開日:2024/04/30

第4回 LAOWA 19mm F2.8 ZERO-D GFX 心臓を咥えて坂を登れ!

Photo & Text :澤村徹

中判ミラーレス用の広角レンズだ。35mm判換算15mm相当で、スーパーワイドなうえに明るい。歪曲収差を抑えたゼロ-D仕様がアドバンテージだ。解像力の高さも魅力のひとつだ。
 
<スペック>
価格:203,500円
ブランド:LAOWA
マウント:富士フイルムGマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:10群12枚
フィルター径:φ77mm

うっかりしていた。広角なのはわかっていた。ただ、GFX用の広角レンズだから思っていた以上にワイドになる。LAOWA 19mm F2.8 ZERO-D GFXは35mm判換算15mm相当。このスーパーワイドに見合う被写体は何か。とにかく巨大なもの?スケール感のある被写体なら、35mm判換算15mmのスーパーワイドを活かせるはずだ。

そんなわけで、道南の乙部町に向かった。ここにくぐり岩とシラフラという景勝地がある。くぐり岩はいわゆる奇岩、シラフラは白い断崖がおよそ500mにわたって続く。これを換算15mmでパースをつけて撮ったらステキだと思うのだ。くぐり岩とシラフラは地続きなので、一気に撮ってまわれる。効率的に撮れるロケーションだ。

そんな風に楽勝モードだったときが僕にもありました。

まずは駐車場からくぐり岩を目指す。長い下り坂で海岸に向かう。断崖を坂道で下りるのだから、長さも勾配もかなりワイルドだ。砂浜に着き、くぐり岩と呼ばれる奇岩を見上げる。換算15mmなので、くぐり岩にしっかり寄った状態でも余裕をもって岩全体をフレームに収めることができた。このときの写真は「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」に載っている。

くぐり岩をひとしきり撮り、海岸沿いを歩く。この先にシラフラがある。このとき、まだ日の入りに一時間ほどの余裕があった。頭の中ではシラフラの白い断崖絶壁が、夕陽で焼ける姿を想像している。大丈夫、まだ慌てる必要はない。シラフラほどではないが、この海岸線も白っぽい崖が見事だ。それらを撮りながらまったりと海岸線を散策する。もうすぐシラフラが見えてくる段階で、船を出すスロープが視界を遮った。

スロープが邪魔でこれ以上進めない。

地図アプリで確認したときはスロープの先は砂浜だった。しかし、潮が満ちて海に突き出している。目の前のスロープが壁となり、その壁を回避しようとすると海。ジャンプしてスロープの向こうを見ると、白い絶壁が延々と続いている。お目当てのシラフラだ。でも、先に進めない。海水の高さは膝下ぐらい。無理をすれば向こうに行ける。ただ、撮影を終えて戻ってくるとき、一体海水の高さはどれほどになっているのだろう。びしょ濡れ覚悟で突き進むか。一度、駐車場に戻って別の場所からシラフラにアタックするか。

日の入りの時間は刻々と迫る。

戻ることにした。駐車場までは1kmほど。がんばれば間に合う。がんばれば、だけど。砂浜を早足で歩く。大股で歩く。早々に腿にくる。海の向こうの太陽が刻々と傾く。これほど太陽に急かされた記憶はない。坂道のところまで戻ってきた。気分的にはもうひと息だが、ぜんぜんひと息じゃなかった。心臓破りの急勾配の坂がどこまでも続く。足が重い。息が切れる。口から心臓が飛び出しそうだ。そんな心臓を必死に口で咥えた。

駐車場に戻ると急いでクルマを出し、シラフラにアタックできる場所に移動する。砂浜に着くと、すっかり夕暮れの空になっていた。白いはずのシラフラは斜光を浴び、オレンジに燃えた断崖絶壁が遠くまで続く。そう、これが見たかった。EVFを覗き、換算15mmの世界に息を呑む。喉元までせり上がっていた心臓もいっしょに呑む。すべてが報われた。

こんなに苦労してシラフラを撮ったのに、「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」に載せたのはくぐり岩のカット。その方がレンズの切れ味がよく伝わると思った。この読者ファーストっぷりを誰か褒めてほしい。



GFX50S II + LAOWA 19mm F2.8 ZERO-D GFX
絞り優先AE F8 1/210秒 -0.67EV ISO100 AWB RAW
くぐり岩に続く坂の途中で撮影した。ピント位置は砂浜の奇岩。超広角レンズなので、中判ミラーレスのGFXでも深い被写界深度が得られる。


GFX50S II + LAOWA 19mm F2.8 ZERO-D GFX
絞り優先AE F8 1/105秒 -0.67EV ISO100 AWB RAW
くぐり岩を逆光で撮影した。フレアやゴーストは気にならず、隅々まで解像力の高い写りだ。光芒がいいアクセントになってくれる。


GFX50S II + LAOWA 19mm F2.8 ZERO-D GFX
絞り優先AE F4 1/550秒 ISO100 AWB RAW
くぐり岩からシラフラに向かう途中の断崖。開放近辺でもディテールをしっかり描いている。奇抜な造形に何度もシャッターを切り、ちっとも前に進めない。この後、すごい勢いで来た道を戻ることになる。


GFX50S II + LAOWA 19mm F2.8 ZERO-D GFX
絞り優先AE F4 1/250秒 ISO100 AWB RAW
夕陽を浴びたシラフラ。白い断崖が日没前の斜光でオレンジに色づく。間に合ってよかった。これが撮りたかった。それなのに、このカットをボツにする本作りの非情さよ。

<関連サイト>
LAOWA 19mm F2.8 ZERO-D GFX

https://www.eyedventure.jp/view/item/000000000690


<関連書籍>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション

 
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<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション



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