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アジアンMFレンズここだけの話

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アジアンMFレンズここだけの話
中国、台湾、香港などのレンズブランドが、いま実にアグレッシブだ。値段がリーズナブルというのは当然として、大口径、正統派高画質、クセ玉、付加機能重視、はたまた懐かしの名レンズを復刻したものまで現れた。さながらおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさである。レンズマニアならこの新たなカテゴリー、アジアンMFレンズを見逃す手はあるまい。そんな百花繚乱のアジアンMFレンズを数多く使い倒した澤村徹が、撮影のエピソードとレンズのフィーリングを語る。
公開日:2024/05/13

第5回 7Artisans 35mm F2.0 II 廃バスを探せ(タイムリミットあり)

Photo & Text :澤村徹

Mマウントの35mm F2というスペックを思うと、思いのほか鏡胴が大きめだ。ただ、重量は230gと常識的で、普段使いのレンズとして扱いやすい。角型のメタルフードが付属する。
 
<スペック>
価格:48,000円
ブランド:七工匠
マウント:ライカMマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:7群8枚
フィルター径:55mm

その日は宗谷岬から旭川まで走ることになっていた。気心知れた友人との二人旅。その最終日だ。朝イチで宗谷岬を発ち、夕方までに旭川に到着という旅程。クルマで走るだけならどうということはない。ただ、撮りながら旭川を目指すと、途端にスケジュールがシビアになる。何しろ僕は夕方の飛行機で帰京しなければならない。タイムリミットありの旅程なのだ。

前もって調べておいた撮影ポイントを、スタンプラリーよろしく巡りながら北海道のオホーツク側を南下する。ここでレンズを七工匠の7Artisans 35mm F2.0 II
に交換した。向こうしばらく、撮影ポイントが決まっていない。出たとこ勝負での撮影になる。何と出くわしても撮影しやすいように、35mmレンズをこの旅程の担当にした。初代の7Artisans 35mm F2はクセ玉っぽい写りだったが、第2世代になって安定した描写になった。どんなシーンもドンとこい。そんなレンズである。

「廃バスって興味ある?」

友人がハンドルを握りながらそう言った。もちろん廃バスは大好物だ。ただ、口調に探りを入れるような気配がある。詳しい話を聞くと、その理由がわかった。だいぶ前にこの辺りで廃バスを撮影したのだが、詳しい場所をおぼえていない。また、これまで来た道を戻って内陸に入らないといけない、と。

つまり、確実に時間をロスする。

でも、滅多にお目にかかることのない廃バスだ。これは撮らねば。友人の記憶を頼りに来た道を戻り、内陸へと駒を進める。しかし、予測していた場所に廃バスはなかった。枝道に入ってみたり、見通しのわるい場所は徒歩で探りを入れたり、いたずらに時間だけが過ぎていく。

車内の空気が重い。

わざわざ来た道を戻ってまで寄り道したのに……。お互いに言葉が少なくなる。友人は友人で連日の運転で疲労困憊。それにも関わらず、良かれと思って提案した結果がコレだ。やりきれない気持ちだろう。われわれはよく戦った。そもそも廃バスが撤去されたのかもしれない。旭川に向かおう。今日の旅はタイムリミットがある。そのときだ。

大平原の真ん中に廃バスが見えた。

延々と広がる牧草地に、ぽつんと廃バスが佇んでいる。ここはオレの定位置だけどなにか? と言わんばかりの不貞不貞しさで鎮座している。周囲には白黒の牧草ロールが点在し、こいつら従えてるのオレだから、とエラそうだ。

それにしても、なぜこんなところに廃バスがあるのか。撮影しながらその理由を考える。思い当たるのはライダーハウスだ。1990年代から2000年代にかけて、北海道ではバスや列車の車両をライダーハウスに使うことがあった。無料もしくはきわめて安い料金で、雨風がしのげるだけのバイク乗り向けの簡易宿泊所だ。廃バスから少し離れたところに簡易トイレが二つあった。水場はないが、寝泊まりだけなら事足りる。牧草地のど真ん中で雨に濡れずに泊まれるのだ。野宿ライダーなら十分な環境だろう。もちろん、単なる物置代わりという線も捨てがたいが。

だいぶ時間を食ったが、たっぷりと撮れた。大満足で旭川に向けてクルマを走らせる。途中、友人が独り言のようにつぶやいた。

「名寄に立ち寄ることもできるけど」

名寄、昭和の街並みがいまなお残る名所じゃないか。大好物だ。時間は押してる。でも、北海道のディープ地帯を訪れる機会なんて早々ない。友人が「どうする?」と追い打ちをかける。どうしたらいい? 旭川の飛行機は僕を待ってくれない。



Leica M11 + 7Artisans 35mm F2.0 II
絞り優先AE F4 1/1000秒 +0.67EV ISO64 AWB RAW
文字通り、牧草地に廃バスが佇む。衝撃的すぎて撮らされてる感ハンパない。降参だ。軽く絞ってフツーに撮る。こんな被写体、どうすりゃいいんだよ。


Leica M11 + 7Artisans 35mm F2.0 II
絞り優先AE F2 1/2500秒 ISO64 AWB RAW
「開放で後ボケを作ってみた」的なカットだが、被写体のクセが強すぎて後ボケとか開放のシャープネスとかどうでもよくなる。当然「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」には載せなかった。


Leica M11 + 7Artisans 35mm F2.0 II
絞り優先AE F2 1/2500秒 +0.67EV ISO64 AWB RAW
宗谷岬、最北端のバス停を前ボケにして写し込む。ここは最北端推しの圧がひどい。最北端の食堂、最北端のお土産屋、最北端の公衆トイレもある。


Leica M11 + 7Artisans 35mm F2.0 II
絞り優先AE F2 1/2500秒 -0.33EV ISO64 AWB RAW
オホーツク海へ続く砂地を歩くと、波の音だけが耳を覆う。錆びた船のエンジンが長い時間を物語る。遠くに見えるのが北見神威岬だ。

<関連サイト>
焦点工房
7Artisans 35mm F2.0 II

https://www.stkb.jp/shopdetail/000000001866/


<関連書籍>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション

 
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<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション



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