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アジアンMFレンズここだけの話

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アジアンMFレンズここだけの話
中国、台湾、香港などのレンズブランドが、いま実にアグレッシブだ。値段がリーズナブルというのは当然として、大口径、正統派高画質、クセ玉、付加機能重視、はたまた懐かしの名レンズを復刻したものまで現れた。さながらおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさである。レンズマニアならこの新たなカテゴリー、アジアンMFレンズを見逃す手はあるまい。そんな百花繚乱のアジアンMFレンズを数多く使い倒した澤村徹が、撮影のエピソードとレンズのフィーリングを語る。
公開日:2024/06/10

第7回 AstrHori 75mm F4.0 オーバーアパーチャーの実力とは?

Photo & Text :澤村徹

GFXシリーズに装着すると、35mm判換算59mm相当になる。中判ミラーレス用の標準レンズという位置付けだ。大雑把に言うと、フルサイズの50mm F2.8ぐらいのフィーリングで撮影できる。
 
<スペック>
価格:65,000円
ブランド:AstrHori
マウント:富士フイルムGマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:6群8枚
フィルター径:67mm

レンズを前にして悩んでいた。こんなことははじめての経験だ。挙動の怪しいベータ機を渡されたときよりも、最速を謳いながらAFが甘い貸出機をテストするときよりも、大きな戸惑いが押し寄せる。

絞りが、開放より開くのだ。

誇張ではない。比喩でもない。物理的に絞りが開放より開くのだ。アストロリのAstrHori 75mm F4.0は開放F4だ。しかし、絞りリングにはF4の左側にドットがあり、その位置までツツツッと絞りリングが動く。そして実際に、F4からさらに一段ほど絞りがワイドオープンするのだ。

ピントリングについてはオーバーインフ設計がめずらしくない。∞マークを超えてピントリングが回り、無限遠をギリギリまで詰めることが可能だ。しかし、絞りリングでこうした仕様はこれまで見たことがない。

オーバーアパーチャーとでも言えばいいのか?

販売代理店を通じてメーカーに確認すると、あえてこのような絞りになっているという。画質保証は開放F4からだが、撮影自体は一段明るいF2.8が使える。開放描写の甘いF2.8レンズを開放F4として売っているだけ、という穿った見方もできるだろう。しかし、そうしたネガティブな考えは実写すると吹き飛んだ。F4はもちろん、F2.8もよく写るのだ。

F4で撮影すると、開放から全域にわたってシャープに写る。周辺でも当たり前のように結像する。中判ミラーレスユーザーはあえて大きなイメージセンサーを選んでいるわけだから、サードパーティーレンズとしては開放から隅々までシャープに写ることは重要だろう。

では、F2.8はどうか?

実はF2.8も中心部は問題なくシャープだ。ただし、周辺部はわずかに甘さを感じる。とは言え、クセ玉のように周辺が流れるわけではない。「もう少しシャープならいいのに、惜しい」という程度のこと。被写体を中心で捉えるなら、そのぶんボケが稼げて表現力が増す。画質保証外とは言え、絞りにマージンを残してくれているのはありがたい。

ただ、問題がある。F2.8で撮った写真を「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」に掲載していいものか。画質保証外なのだから、普通に考えるとダメだろう。ただ、描写的にはおいしいのだ。クセ玉ほどではないが、わずかに柔らかく、ボケ具合もいい。結局、誌面掲載には至らなかったが、今回こうしてF2.8の作例を公開できたことがうれしい。隠し絞りのあるレンズなんて早々ないのだから。



GFX50S II + AstrHori 75mm F4.0
絞り優先AE F2.8 1/5000秒 ISO100 AWB RAW
流木の中程にF2.8でピントを合わせる。なぜこれが保証外なのか……と疑問に感じるほどしっかり写る。背景の海と山がうっすらとボケる。


GFX50S II + AstrHori 75mm F4.0
絞り優先AE F4 1/4400秒 ISO100 AWB RAW
開放F4での遠景撮影だ。開放だからと言って緩さはなく、どこまでも緻密な描き方だ。中判ミラーレスの解像力の良さをうまく引き出してくれる。


GFX50S II + AstrHori 75mm F4.0
絞り優先AE F5.6 1/2000秒 -1.33EV ISO100 AWB RAW
F5.6まで絞っているが、イメージセンサーが大きいだけあってススキの穂が前ボケと化している。ピントの合ったサイロは錆やコンクリートの質感までていねいに捉えている。


GFX50S II + AstrHori 75mm F4.0
絞り優先AE F2.8 1/950秒 -0.67EV ISO100 AWB RAW
川に架かる鉄橋にピントを合わせた。平面的になりがちな風景だが、F2.8で撮ることで、手前の色づいた木や岩がボケて立体的な写りになった。

<関連サイト>
2ndfocus
AstrHori 75mm F4.0
https://2ndfocus.com/products/astrhori-75mm-f40-gfx


<関連書籍>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション

 
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<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション



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