アジアンMFレンズここだけの話
公開日:2024/05/27
第6回 IBERIT 35mm F2.4 被写体に近づいてはイケナイ
Photo & Text :澤村徹
貸出品はマットシルバーというめずらしいカラーリングだった。ドイツ企業で設計され、中国上海の工場で製造したレンズだ。ライカのズマリットシリーズのオマージュレンズと言える。
<スペック>
価格:68,800円
ブランド:KIPON
マウント:ソニーEマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:6群6枚
フィルター径:49mm
白い岩肌を硫黄臭の煙が昇る。北海道函館の恵山は霊山だ。下北半島の恐山と姉妹山だと聞き、その姿を目の当たりにして納得した。霊感のない僕でもわかる。ここがただの山ではないことが。火口原に草木はなく、真っ白な岩肌がどこまでも続く。ここは人を寄せつけない霊山なのだ。
散策路をたくさんの観光客がキャッキャウフフと行き過ぎていく。
まいったな。霊山なのに賑やかでぜんぜん怖くない。本当に恐山の姉妹山なのだろうか。草津温泉のまちがいではなかろうか。快晴のうえの風は涼しく、最高の登山日和。作例撮りもはかどる。謎の物足りなさをおぼえつつ、白い岩肌の火口原に下りる。散策路から特に遮るものなく、そのまま火口原に歩いて行ける。遠くに白い煙が幾筋も見える。
さすがにあれは危ないよな。
しかし、立ち入り禁止の札もロープもない。要所要所で写真を撮りながら、奥へと進んでいく。火口にぐいぐい近づいていく。恵山は活火山。そんなことを思い出しつつも、それでも歩みが止められない。前進の歯止めが効かない。硫黄臭がきつくなり、さすがにわれに返る。この日のレンズはKIPONのIBERIT 35mm F2.4だ。開放からコントラストが良好で、恵山の白い岩肌を気持ちよく描いてくれる。それだけにうかつだった。
撮った写真は白い岩肌ばかり……。
被写体である恵山に近づきすぎた。山を登ったら山は撮れない。「アジアンMFレンズ・ベストセクション」の掲載カットが一枚だけとは言え、白い岩肌だけでは心許ない。もう少しバリエーションがほしい。
恵山岬灯台に向かう。恵山から国道を反時計回りにぐるりとまわる。刻々と日が傾く。現地に着くと、カメラを提げて早足で灯台に向かう。緑で覆われた岬に白亜の灯台が建つ。背後の山から西日が射し、ちょうどいいタイミングだ。ファインダーを覗いたままぐいぐい近づいていく。IBERIT 35mm F2.4でバシバシ撮っていく。でも、広角といっても所詮は35mm。写し込める領域には限界がある。
灯台に近づいたら灯台全身は撮れない。
気がつくと、太陽は山の向こうに隠れてしまった。灯台の根元に立ち尽くし、白い塔の先端を見上げる。恵山岬灯台は第3等大型フレネル式のレンズがはまっているという。マウントアダプターで……という荒唐無稽な妄想に乾杯。α7 IV + IBERIT 35mm F2.4
絞り優先AE F4 1/2500秒 ISO100 AWB RAW
恵山の火口原に下り、白煙の近くまで歩いてきた。白い岩肌を撮りたいのか、白煙か、それとも噴出口のレモン色の岩か。近づきすぎて目的を見失う。
α7 IV + IBERIT 35mm F2.4
絞り優先AE F2.4 1/1600秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW
単体で恵山岬灯台を撮ってもナンなんで、隣接する無線方位信号所越しに灯台を捉える。がんばって工夫してみました感が出過ぎた。
α7 IV + IBERIT 35mm F2.4
絞り優先AE F2.4 1/1600秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW
傾く陽が番屋をオレンジに染めていた。被写体が何であれ、この熱っぽい光だけで白飯三杯いける。開放でこの明暗差はわるくない。
α7 IV + IBERIT 35mm F2.4
絞り優先AE F2.4 1/1000秒 ISO100 AWB RAW
年季の入った堤防に若者が佇む。シルエットと化したその姿が夕景に映える。若者のナルシズムはいい。われわれおっさんではこうはいかない。
<関連サイト>
新東京物産 KIPON
https://www.tokyotrading.jp/products/kipon-camera-lens/
<関連書籍>
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