アジアンMFレンズここだけの話
公開日:2024/07/22
第10回 KamLan 55mm F1.4 路地裏スナップは大口径がいい
Photo & Text :澤村徹
KamLanはAPS-C向けの製品が多いが、本レンズはフルサイズ用の大口径標準レンズだ。鏡胴はそれなりに大きく存在感がある。ただし、3万円台と手を出しやすい価格帯がアドバンテージだ。
<スペック>
価格:34,100円
ブランド:KamLan
マウント:ソニーEマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:6群8枚
フィルター径:φ58mm
フォーマット:フルサイズ
駅を出て階段をのぼると、目の前に荒川が横たわる。ロードバイクがけっこうなスピードで横切っていく。河川敷のグラウンドでは少年野球の声がする。大きな橋をわたり、銀色に輝く川面に目を細める。
こういう日常的な風景がたまらなく好きだ。
橋をわたりきり、市街地へ足を向ける。昭和時代の古い家々が数多く軒を連ねる。路地を曲がるといきなり高架が現れ、その上を電車が駆け抜けた。カメラを構えるが、レンズはマニュアルフォーカスのKamLan 55mm F1.4、ピント合わせは間に合わない。
道行く人が増え、商店街に近づいたことがわかる。道路の両脇に年季の入った店舗が続く。しかし、シャッター通りではない。定食屋は色褪せた暖簾が揺れ、ラーメン屋には行列ができる。
古く寂れた商店街だ。でも、賑わいがある。
古い町が好きだとは言え、廃墟を撮りたいわけではない。人の営みを捉えたいのだ。何十年と積み重なる時間の積層を写したい。それが映え写真の対極にあることは理解している。世間的にフォトジェニックと呼べるのか、ずいぶんと怪しい被写体だ。
実際、スマホでこれらを撮りたいかと問われると、答えはノーだ。
味わい深い町だが、それを記録として残しておきたいわけではない。積層する時間を、レンズの力を借りてうまく表現したいのだ。たとえばKamLan 55mm F1.4のような大口径レンズで。
大口径レンズは目の前の光景を変容させる。極浅の被写界深度が肉眼とは異なる見え方を生み出し、開放の柔らかい写りは現在と過去を自由に移ろう。いまの姿なのに数十年前のようなレトロ感。そして、被写体が目の前に迫る3Dエフェクト。KamLan 55mm F1.4はまさにそうした写りを受け継いだフルサイズ用MFレンズだ。
地味な被写体は、そのまま撮っても真意が伝わりづらい。スタイリッシュな被写体のように、外観だけで人の興味を惹きつけるものではない。だからこそ、大口径レンズの出番なのだ。地味ながらも目に止まったその気持ちを、レンズの描写に代弁してもらう。地味な下町は大口径レンズがいい。α7 IV + KamLan 55mm F1.4
絞り優先AE F1.4 1/400秒 ISO100 AWB RAW
ガラス越しにお店のディスプレイを撮影。近接だと開放の柔らかさと前後の大きなボケが重なり合い、見た目以上に叙情的な写りになる。
α7 IV + KamLan 55mm F1.4
絞り優先AE F1.4 1/2000秒 -0.3EV ISO100 AWB RAW
商店街の裏手にまわり、開放で撮影した。錆びたトタン、ツギハギしたような雨樋。けっして止まらない時間の無情さを、柔らかい写りで慰める。
α7 IV + KamLan 55mm F1.4
絞り優先AE F1.4 1/5000秒 ISO100 AWB RAW
土手で見つけた看板を開放で捉える。シンプルに背景が大きくボケることに、このレンズのアドバンテージを感じる。何も工夫せず、こういう絵がフツーに撮れる
α7 IV + KamLan 55mm F1.4
絞り優先AE F4 1/1600秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW
古い家屋に電柱の影が伸び、F4まで絞ってフラットに捉えた。絞れば周辺までシャープに撮れる。しっかりと基本を押さえたレンズだ。
<関連サイト>
KamLan 55mm F1.4
https://www.sightron.co.jp/kamlan/55mmF1.4.html
<関連書籍>
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