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アジアンMFレンズここだけの話

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アジアンMFレンズここだけの話
中国、台湾、香港などのレンズブランドが、いま実にアグレッシブだ。値段がリーズナブルというのは当然として、大口径、正統派高画質、クセ玉、付加機能重視、はたまた懐かしの名レンズを復刻したものまで現れた。さながらおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさである。レンズマニアならこの新たなカテゴリー、アジアンMFレンズを見逃す手はあるまい。そんな百花繚乱のアジアンMFレンズを数多く使い倒した澤村徹が、撮影のエピソードとレンズのフィーリングを語る。
公開日:2024/07/08

第9回 LAOWA EF II 9mm F5.6 W-Dreamer 地鳴りが背後からやってくる

Photo & Text :澤村徹

焦点距離9mmという本レンズは、魚眼を除くフルサイズ用の広角レンズで、もっとも画角の広い部類だ。ここではライカMマウント用で実写しているが、各社ミラーレス用もラインアップしている。
 
<スペック>
価格:147,400円
ブランド:LAOWA
マウント:ライカMマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:10群14枚
フィルター径:装着不可
フォーマット:フルサイズ

北海道の海岸線にはたくさんの旧道がある。かつては村々をつなぐ大切な道路だったが、トンネルが新設され、次第に使われなくなった。海に面しているだけに傷みも激しく、その多くは通行止めになっている。そして、そうではない旧道もある。いまでも通行可能な海岸沿いの旧道だ。

そうした道路の近くで、僕らは悩んでいた。

友人とふたり、クルマの中でカーナビと地図アプリで調べまくる。すぐ近くの旧道が生きている。古く短いトンネルがいくつも連なり、右へ左へと道がうねり、海岸線を縫うように走る。このトンネルがやけに古く、ぜひとも撮りたい。この日のレンズ、LAOWA EF II 9mm F5.6 W-Dreamerならすごい絵が撮れると思う。ただし、ひとつ問題があるのだ。

道が狭い。クルマが離合できないくらい狭い。

そして困ったことに、一方通行ではないらしい。一方通行なら、進行方向に沿ってクルマで走ればいい。対面通行可能だと、見通しが悪い道を向こうからクルマがやってくるかもしれない。途中に待避スペースがあればいいが、旧道だけに地図アプリにストリートビューはなく、細かい情報は得られなかった。でも行くしかない。

何しろそこに、極上のトンネルが待っているのだから。

国道を進み、新設された大きなトンネルの手前で海側の道に入る。そしてすぐさま空き地にクルマを停めた。いつ対向車が来るかわからない細い道。無理はできない。歩いて撮ればいい。目の前に年季の入ったトンネルが僕らを待ち受ける。トンネルの内側は錆びた鉄板で覆われていた。ところどころ穴が空き、光が漏れる。思った通り、極上のトンネルだ。僕らは無我夢中で撮り出した。逆光のトンネル最高。絞って光条出そうぜ。友人とふたり仲良く並び、撮りまくった。

山肌の向こうには新設されたトンネルが通っている。そのためだろうか。ごうごうと低いノイズが耳を覆う。だから、すぐに異変に気づけなかった。地鳴りのような音が僕らに近づいていることに。友人が僕を見ていた。ファインダーから目を外す。僕も友人を見る。先ほどまでの低いノイズとはちがう。何か途轍もなく巨大なものが近づいていた。肌が粟立つ。これはダメなやつだ。脳内がアラートで真っ赤だ。そのとき、ファァァァーッと断末魔がトンネルにこだまする。ふたりで慌てて振り返る。

路線バスが僕らを見下ろしていた。

その距離わずか2メートル。カメラを胸元に押さえつけ、全速疾走でその場から逃げる。路線バスが追ってくる。逃げる。バスのドライバーが醒めた目で見下ろしている。駆ける。トンネルを抜けてすぐさま路肩に逸れる。

そして僕らは路線バスを見送った。ごうごうと隣のトンネルを行くクルマの音を聞きながら。



Leica M10 + LAOWA EF II 9mm F5.6 W-Dreamer
絞り優先AE F5.6 1/60秒 +0.67EV ISO500 AWB RAW
クルマ一台がやっと通れるくらいの狭いトンネル。それが超広角9mmだとこれだけワイドに写る。「広角スゲエ」と素で思った。


Leica M10 + LAOWA EF II 9mm F5.6 W-Dreamer
絞り優先AE F5.6 1/60秒 ISO640 AWB RAW
前方のトンネルの影が長く歪む。レンズのちょっとした傾きでこの影が変幻自在に形を変える。夢中になっていたら、バスのクラクションで心臓が飛び出した。


Leica M10 + LAOWA EF II 9mm F5.6 W-Dreamer
絞り優先AE F5.6 1/60秒 -0.67EV ISO1000 AWB RAW
地元民向けの小さな市場。直角に交差した通路を、ひとつの画面内に収める。この描き方は超広角9mmの特権だと思う。


Leica M10 + LAOWA EF II 9mm F5.6 W-Dreamer
絞り優先AE F5.6 1/250秒 +0.67EV ISO200 AWB RAW
大沼の向こうに駒ヶ岳を望む絶景スポットから撮影した。画角が広すぎて、壮大な駒ヶ岳がほんの小さくしか写らない。恐るべし9mm。


<関連サイト>
LAOWA
LAOWA EF II 9mm F5.6 W-Dreamer

https://www.laowa.jp/cat1/57d28803af8959a4b7a3c8437c0d855837cca00e.html
 


<関連書籍>


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<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


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