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インタビュー

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公開日:2025/12/25

アンパンマンキッズカメラで、国際フォトコンテストを受賞!写真家「かみたば」さんインタビュー

聞き手:鹿野貴司

かみたばさんが使うトイデジの数々。

いい写真とは何なのか。それを突き詰めて作品に昇華しているのが写真家・かみたばさんだ。主に玩具メーカーから発売された低画素デジカメ、いわゆるトイデジで撮影した作品で2025年ブタペスト国際写真賞(BIFA)・ファインアート部門の佳作を獲得。2025年東京国際写真祭(TIFA)でもブロンズと佳作が2点ずつという結果を残している。しかも、ただトイデジで撮るのではない。カメラに自身で魔改造ともいうべき手を加えているのだ。自身のYouTubeチャンネルでは「様子のおかしいカメラ」としてそれらを紹介。滑らかなしゃべりもさることながら、クスッと笑える毒やシャレもあり、エンターテイナーとしての才能も感じる。


かみたばさんのYouTubeチャンネル「Kamitaba Log」



このカメラはなんと任天堂の「ゲームボーイ」である。周辺機器としてカメラの付いたカートリッジ「ポケットカメラ」が存在し、今もそれで遊ぶ愛好家は少なくない。ただしかみたばさんは改造を施し、Cマウントレンズを装着。


かみたばさんはこれをふつうのデジカメのように作品制作に用いる。ちなみにモノクロ4階調で、約1.4万画素。この粗さでは伝わる情報も少ないが、それが不思議と想像をかきたてる。

そもそもトイカメラやそれを含むフィルムカメラ、オールドレンズには一定の根強いファンがいる。僕もフィルムカメラやオールドレンズを今なお使っているのでよくわかるが、収差や独特な味に魅力を感じる人もいれば、写りすぎないことが映像美をもたらすこともある。ただそれらはレンズの甘さや古さがもたらすものであり、画像の解像度そのものが低いわけではない。フィルムカメラでもオールドレンズでも作品を大きくプリントすることは可能だ。

対するトイデジはレンズもプアだが、そもそもの解像度が低い。主流は約30万画素。現行のミラーレス機と比べたら1/100〜1/200しかない。作品を制作するにはおおよそ不向きな存在だ。かみたばさんがそれらを使い始めたのは2020年頃のこと。

編集部 トイデジカメを使い始めたきっかけは?

かみたば「写真仲間や仕事つながりの写真愛好家と集まって、プリントした作品を持ち寄ったことがきっかけです。プリント作品を並べて、それぞれが気に入った写真を選び合う、小さな品評会のようなものを開催していました。そこにトイデジで撮った写真を持ち込んだところ、1位を獲るまではいかないものの、トップ3に入ることが多かったんです。それが重なって、写真って写っていればいいんじゃないか、解像度なんていらないんじゃないかと考えるようになりました。アートの本質は何が写っているのかであって、それが精細である必要はないはずです」

もともとアートにも関心が高く、印象派の絵画が好きだというかみたばさん。ありのままを写すことが、必ずしもいい写真の条件ではないと感じていたという。そこでオールドレンズもかなりの本数を集めていたが、ミラーレスカメラに装着して撮影すると本人的には“まだまだ写りすぎる”。写らないことでどこまで表現できるか、その限界に挑戦しようと、トイデジでの作品作りに没頭するようになった。しかし手応えを感じてギャラリーに売り込むと、解像度が低すぎて大きくできない=利益がでないということで、反応はネガティブなものだった。そのときの怒りや悔しさが作品制作の原動力になっているという。



後ほど詳しく説明するが、アンパンマンのデジカメはかみたばさんの“主力機材”だ


もっともその意欲は生半可なものではない。まずは分解して研究し、さまざまな改造を施す。24年末には3Dプリンターを購入。ボディーを自らデザインし、まったく新しいカメラに仕立てることもある。そのために同じ機種を複数台購入するという。

編集部 トイデジカメをYouTubeで紹介し始めたことで変化は?

かみたば「YouTubeで紹介すると、途端に入手困難になるんです。すでに廃盤になっているカメラだと、それまで二束三文だったものが急に1万円を超えたり……。自分で自分の首を締める感じですね(笑)」

そのYouTubeの動画がまたユニークで、低スペックや使いにくいところはバッサリとディスる。ただトイデジに対する熱量が高すぎて、それが褒め言葉にも聞こえてくる。本人によると手放しで褒めているわけではないが、出来の悪い部分こそ使ううちに愛着が湧いてくるという。



データカードダス「アイカツ!」シリーズと連動できるバンダイ製「アイカツ! モバイル」。内蔵カメラはカードリーダーとして搭載されており、ピントが近距離に固定されている。


遠景がピンボケになる「アイカツ! モバイル」の特性を生かし、モネの代表作「散歩、日傘をさす女性」のように仕上げた。TIFAでは佳作に入選。かみたばさんの作品でもっとも人気が高いという。


こちらはピントが近いことを生かし、TIFAのブロンズに選出された「Whispers of a summer night」。レリーズタイムラグが激しいので、泳ぐ金魚を接写するのはかなり難しかったとのこと。


なかでもお気に入りがアガツマ製のアンパンマンをかたどったデジカメ、通称“アンデジ”。さまざまなモデルがあるが、いずれもシャッターを押すたびにアンパンマンの声が流れる。撮影するたびに否が応でも目立ってしまい、レリーズタイムラグも異様に長い。もちろん連写など無理な話で、スナップカメラにはもっとも適していない。YouTubeではそれを「ワールドクラスのシャッターラグ」「常に状況を先読みせよという試練」などとネタにしているが、一方でかみたばさんはそこに「いい写真とは何か」という写真の本質を求めている。
 

国際フォトコンテスト受賞作品を生み出したカメラ
アンパンマンデジカメの「アンデジ4」



“アンデジ”のかみたば流改造は多岐に渡り、写真は「きょうはなに撮る?アンパンマンキッズカメラ」(通称・アンデジ4)の中身に、3Dプリンターで制作したM型ライカ風のボディーを換装したもの。他にソニーのレンズスタイルカメラ(あったあった!)QX10を装着したものなど、もはや“アンデジ”である必要性もないような気もするが、カメラを作るところからかみたばさんの作品制作は始まっているのだ。


BIFAの佳作とTIFAのブロンズ、2つの賞を獲得した『Two Stories in the Summer Sun』もアンデジ4改で撮影したもの。内部のIRカットフィルターを外し、赤外カメラのような仕上がりに。レンズはM42マウントのカールツァイス・イエナ・テッサー50mmF2.8。“アンデジ”では超望遠になり、猛暑による大気の揺らぎも加わって独特な描写になった。


『Two Stories in the Summer Sun』は埼玉県で撮影。聞けば気温38度で通行人もほとんどいない駅前に、2人の男性が座り込んで何かを話していた。かみたばさんはその様子を見た後、駅前の喫茶店へ。しばらく涼んでから店を出ると、2人はまだ話し込んでいた。それも十分不思議だが、アンパンマンの声がするカメラで撮影するかみたばさんもかなりおかしい。それはもちろん褒め言葉で、ただきれいな写真を撮るのとは違う、とてもアートな行為だと思う。



アニメ「トロピカルージュ!プリキュア」に登場するアイテムをモチーフにしたバンダイ製「マーメイドアクアポット」も、かみたばさんのメインカメラのひとつ。

この「マーメイドアクアポット」もまるで香水の瓶のようで、僕は息子(小学1年生)の同級生女子がこれを持っているのを見たことがある。

編集部 街でかわいいトイデジで撮影していると、怪しまれませんか?

かみたば「これで撮っていると、小学生の女の子たちが話しかけてくるんです。『あ!それかわいい!!』とか言って走ってきます。やはり子どもは、キラキラした物や、カラフルな物に大好きなんですよね」

トイデジの描写には独特な味があるそうで、とくにモノクロに適しているらしい。周りの目をある部分では気にせず、またある部分では気にしながら作品を撮っているのが、かみたばさんのおもしろいところかもしれない。


実物を見ることはできず写真をお借りしたが、この「マーメイドアクアポット」の中身を取り出し、外装を3Dプリンターで制作したカメラ(中央)もある。デジカメ黎明期、富士フイルムがこんなデザインのカメラを発売していた。僕も初めて買ったデジカメがそのひとつだったが、一周回って今また評価されそうな気がする。


そんな独特というか唯一無二のアーティストはどうやって誕生したのか。

編集部 かみたばさんは、どんな子どもでしたか?

かみたば「子供の頃は最近復刻されたビーダマンとか、ドラゴンボールのカードを集めていました。平成中期のおもちゃコレクターなんです。子どものときに買ってもらえなかったおもちゃ、買えなかったおもちゃを今になってどんどん買い集めています。」

アーティストネームの「かみたば」も、価値のないカードの束を指すゲーマー用語だとか。そんなおもちゃコレクターは大学生の頃「写ルンです」で写真に目覚める。当時は「写ルンです」でスナップや旅行を撮るのが流行っていたのだ。しかし撮るたびにカメラ(フィルム)代と現像代がかかってしまうので、程なくしてコンパクトデジカメを入手。写真界がフィルムからデジカメへ急速に転換する頃だった。
その後就職するも写真熱が高まり、フリーランスのカメラマンに。作家活動と平行して、広告写真から家族写真まで、幅広く仕事をしている。仕事ではソニーやニコンのミラーレス機に、M型ライカを使っており、トイデジ一辺倒ではなくそれらで作品を撮ることもあるという。またYouTuberとしてカメラ・レンズを紹介することも多いが、カメラに詳しくない人でも楽しめる動画制作を心掛けている。

編集部 かみたばさんのYouTubeチャンネルはどんな人が観ている?

かみたば「僕自身、写真に関して学校で学んだり助手を経験したことがなく、すべて独学です。だから初心者の気持ちがよくわかります。解説ではもちろん専門用語は使うんですが、流れの中でさらっと触れる程度で、それがわからなくてもついていける構成にしています。だからカメラに興味のなかった主婦の方が、僕の動画を見るうちにセンサーサイズの違いをいつの間にか理解していたり……(笑)。興味のある人が楽しめるカメラ関連のチャンネルはたくさんありますが、興味のない人でも楽しめるチャンネルってほとんどありません。人口は圧倒的に興味のない人のほうが多いわけで、僕はそこをターゲットにしています」

カメラ関連のYouTubeといえば視聴層は圧倒的に男性、しかも年齢層が高いのが常。しかしかみたばさんのチャンネルは20〜40代が中心で、男女比も6:4と比較的女性が多いのも特徴だ。


TIFA佳作の『The waiting hour』。これもアンデジ4改で撮影している。

かみたばさんの作品を拝見すると、不自由な自由というべきか、時が止まっているかのようなイメージを受ける。構図やそこから受けるイメージは安井仲治や福原信三といった写真黎明期の作家を想起させるが、かみたばさん自身もそれらを意識しているという。

さらに突っ込んで話を伺うと、好きな写真家の名前にウィリアム・クラインを挙げてくれた。いわゆる「ブレ・ボケ・アレ」を作品に取り入れ、森山大道や中平卓馬に大きな影響を与えたとされる。また構図やタイミングをちょっとだけズラしたような作風も特徴で、まるで映像を見ているような感覚がある。かみたばさんの作品もただローファイなだけでなく、その向こうを想像してしまう。それは写りすぎないことと深い関係があると思う。

かみたば「僕が発表している作品は、Photoshopや生成AIなら簡単にできちゃうかもしれません。もちろん僕も整える目的でレタッチをすることはありますが、それよりカメラの癖を分析して、自分だけの仕様に改造していくのが楽しいですね。これからも泥臭くやっていこうと思います」

かみたばさんにとってはトイデジはネタでもなければ、あえてハンデを背負うためでもなく、表現したいイメージを追い求めた結果辿り着いたものなのだ。またかみたばさんはインタビューの中で「私的言語の共有」という言葉を口にしていた。これは自分しかわからない思想を、他人にわかってもらうこと。作品が独りよがりや自己満足で終わらないために重要なことで、それを意識して活動しているそうだ。

 

かみたばさんのこれから

そして今挑戦しているのは『SHAGOKIN(写合金)』という作品。これは自身のおもちゃ好きも影響しているが、何より大きさに対するアンチテーゼから発案したという。


 

 
かみたば「大きいプリント、イコールありがたい作品、いい作品という風潮が納得いかなかったんです。小さいから成立し、評価される作品もあるはず。そこで『SHAGOKIN』を考えました」

本体は金属を削り出した小さくて四角いフレーム。その中に写真作品を封入したアート作品だ。特徴的なのは、プラモデルのジョイントでよく使われる3mm径の穴が無数に開けられていること。この穴に市販のプラモデルのパーツを取り付けることで、ロボット、動物、車…といったように、シルエットを自由に変化させることができる。手にして遊べる作品ということで、すでに意匠登録を出願中とのこと。いや、この『SHAGOKIN』は売れる気がするし、個人的に欲しい。
そして次はどんな手を繰り出してくるのか。かみたばさんから目が離せない。




かみたば
写真家。トイカメラ/カメラ付きトイを専門に仕事にも使用し、時には改造も行って「様子のおかしいカメラ」としてXやnote、YouTubeで紹介している。YouTubeチャンネル「Kamitaba Log」の登録者数は現在3万人(2025年12月時点)


X:https://x.com/kamitabaphoto
note:https://note.com/kamitabaphoto
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UC7HHCbLug_y9PEJxIDRD9Lg