SHUTTER GIRL WORLD
公開日:2015/04/15
多重露光 〜想いを重ねて〜
photo & text 大村 祐里子

MAMIYA C330 SEKOR 105mm(ISO100、Kodak Ektar100)
私が撮りたいのは、「想い」の込められた写真です。
目にうつる風景、人物……それらに対して、自分は一体どんなことを想い、撮影をしたのか。あとで見返した際、そのときの「想い」が強く感じられるような写真を撮りたいなと、初期の頃からずっと考えています。
では「想い」を込めた写真はどうやって撮るべきか。その技法について、ああでもない、こうでもない、と悩んでいるときに出会ったのが「多重露光」でした。
あるとき、師匠の作品の中に、見たことのない雰囲気の一枚が混ざっているのを発見しました。被写体である女性の身体と、背景が、セル画のように重なって見える、不思議な写真でした。
気になったので、どうやって撮ったのかと聞くと「多重露光だよ」という答えが返ってきました。多重露光とは、フィルム1コマに2回またはそれ以上露光する技法とのこと。仕組みを解説してもらうと「これは面白いかもしれない」という気持ちがムクムクと膨らんでいくのを感じました。
Rolleiflex 2.8F Xenotar (ISO800、Kodakポートラ800)

MAMIYA C330 SEKOR 105mm(ISO100、Kodak Ektar100)
翌日、さっそく教わったばかりの多重露光を試してみました。
まず1カット目にメインとなる被写体を写し、2カット目でそれに対する「想い」を写す。そうすれば、1カットだけで語りきれなかった想いを十分に写真へ込めることができる……。こんなにも自分の撮りたいものを表現できる技法があるなんて、と衝撃を受けました。
丘の上に、静かにポツンと立つ木を「さみしい」と感じたならば、木と、音もなく降り注ぐ雨を重ねてみたり。物思いに耽る友達をみて「何を考えているのだろう」と感じたならば、友達とミステリアスさを醸し出す模様を重ねてみたり。このように、自然と「想い」の込められた写真を撮ることができる多重露光は、たちまち私にとって重要な技法となりました。オリジナリティ溢れる絵柄に仕上げられる点も、大きな魅力でした。多重露光を知ってから、自分の写真に一気に深みが出たように思います。
最初の頃は、いろいろなものを重ねて楽しんでいたのですが、3年ほど前からは、多重露光で「人間の二面性」を表現することをテーマにしています。私は昔から「人間には必ず表と裏がある」という想いを抱いています。フィルム1コマに表と裏の顔、両方を焼き付けられる多重露光は、そんな私の想いを表現するのにぴったりの技法です。 
MAMIYA C330 SEKOR 105mm(ISO100、Kodak Ektar100)
フィルムカメラで多重露光をするには、多重露光の機能がついたカメラを使う必要があります。私がよく使うのは、Rolleiflex 2.8F、Rolleiflex SL66E、MAMIYA C330です。いずれもレバーひとつで多重露光モードに切り替えることができ、操作性に優れています。また、トイカメラですがHOLGA 120も、巻き上げない限り1コマに何回も露光できるので、ビギナーの方にはおすすめです。
多重露光にトライするとき、まず覚えておくべきことは、1カット目の「シャドウ」の部分に、2カット目が重なるという点です。1カット目で、影になっている部分や、黒い壁、黒い服を着た人物など、黒っぽい部分が多いものを選択し、2カット目はその黒い部分に絵柄を乗せる、という感覚で撮影をするとうまくいきます。
撮影テクニックですが、1カット目にメインの被写体を、2カット目にその被写体の「特徴」を撮影すると、表現したいことが伝わりやすくなります。例えば、ピアニストの女性をメインの被写体とするならば、1カット目に彼女を、2カット目に、ピアニストの特徴である「楽譜」を撮影してみましょう。 
HOLGA 120 GCFN (ISO100、T-MAX100)

BRONICA SQ-A + Zenzanon PS 80mm/f2.8(ISO100、Kodak Ektar100)

Rolleiflex SL66E + Planar 80mm F2.8 HFT (ISO800、Kodakポートラ800)

Rolleiflex SL66E + Planar 80mm F2.8 HFT (ISO3200、ILFORD DELTA 3200)

Rolleiflex SL66E + Planar 80mm F2.8 HFT (ISO800、Kodakポートラ800)

Rolleiflex 2.8F Xenotar (ISO800、Kodakポートラ800)
最近では、デジタルカメラにも多重露光の機能が搭載されるようになってきました。フィルムカメラでの多重露光は「偶然」を楽しむ要素も多くありましたが、1カット目を画面上で確認しながら2カット目を撮影できるデジタルカメラでは、表現したいイメージを計算しつつ「必然」的な多重露光の作品を作り込んでいけるようになりました。もともと私は、計算されたイメージを表現したいタイプなので、今後はデジタルカメラでの作品撮りにも挑戦し、より自分の写真の可能性を広げていきたいと考えています。