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SHUTTER GIRL WORLD

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SHUTTER GIRL WORLD
シャッターガールこと大村祐里子が、光と闇を描いていきます。
公開日:2016/03/07

ありがとう、Otus 1.4/55

photo & text 大村祐里子

Canon EOS 5D Mark III + Zeiss Otus 1.4/55 ZE(以下、共通)
F8 1/125 ISO100

本音を言うと、フィルムカメラで自分の好きなものだけを撮って生きていきたいと思っていました。

しかし、そんなことが許されるのは、優れた才能を持った一部の作家さんだけです。フィルムカメラに触れ3年ほど経ったころ「写真の仕事がしたい」と考えるようになったのですが、このご時世、わたしのような凡人は、デジタルカメラが使えなければ仕事はできません。したがって、デジタルカメラへの移行を余儀なくされたわけなのですが……。

デジタルカメラで記録された写真……まあ心が震えないこと。わたしは目で見た現実をそっくりそのまま写したいわけではありません。そのときの自分の心境や、頭の中にあるイメージを、写真というものを介して表現したいのです。 フィルムカメラ、特に愛機であるRolleiflexはまさにそういった絵を仕上げて、いつでもわたしの心を震わせてくれました。だけど、デジタルカメラが吐き出す絵は、ただ、その場が写っているだけの記録写真にしか見えませんでした。

一気に写真を撮るのがつまらなくなりました。フィルムカメラで撮影した写真に対しては、胸を張って「これがわたしの作品です!」と言えました。しかし、デジタルカメラで撮った写真に対しては、自分のものですらないように思えました。作品だなんて口が裂けても言えない。なんだか、自分を支えるものがごっそりなくなってしまったように感じました。こんな空白を抱えたまま、写真の世界で生きていくことができるのだろうか……。日々、不安とストレスが募っていきました。



F4.5 1/200 ISO400

Otus 1.4/55との出会い


そんなある日、某雑誌でレンズのレビュー記事を書くお仕事をいただきました。Carl Zeiss Otus 1.4/55という名前のレンズでした。黒くて、ひんやりと冷たく、重厚な手触り。デジタルカメラにつけるレンズにしては変わった雰囲気だな、と感じたのを覚えています。

とりあえず何かを撮ってみようと思い、近くの公園へ行き、池で泳いでいる魚をパシャリと撮影してみました。確認のためモニタを見てみると……

「!!」

デジタルカメラで撮影をするようになってから初めて、自分の心が震えた瞬間でした。そこにあるのは、ただの記録写真ではありませんでした。自分の心境や、頭の中にあるイメージが入り込んでいるような絵でした。いままで、わたしの世界を覆い隠していた霧が、急激にサーッと晴れていくように感じました。なにこれ、すごい!久しぶりに、気持ちイイ!と思いました。

そこから、一気にOtus 1.4/55の虜となりました。だいぶお値段の張るレンズでしたが、買わないという選択肢はありませんでした。


F2.8 1/100 ISO100


F3.5 1/100 ISO100

Otus 1.4/55との恋


Otus 1.4/55の好きなところは、ハイキーに撮影をしても、輪郭や芯がしっかりと残る点です。また、開放時のまろやかで溶けそうなボケ味、絞ったときの、まるで絵画のように見える、切れ味抜群な描写も好みです。マニュアルフォーカスしか使えないところも、クラシックカメラユーザーであるわたしにとっては好都合です。オートフォーカスはどうも味気ないし、撮影のテンポが早くなりすぎて調子が狂うので実はあまり好きではありません。全ての写真にピントが合っているっておかしいなと思うんです。たまにピントが外れたりするところに、焦りや照れといった、人間の気持ちが乗っかる気がするんです。



F3.2 1/200 ISO100


F5.6 1/400 ISO800

Otus 1.4/55で自分を取り戻す

そして、Otus 1.4/55の最も気に入っているところは、Rolleiflexと同じように、わたしの心を震わせてくれる点です。Otus 1.4/55を手にしてから、再び、写真を撮るのが楽しくなりました。Otus 1.4/55だったら、ここでどんな絵を見せてくれるのだろうか?このレンズを購入して2年近く経ちますが、いまだに手に取るたび子供のようにドキドキワクワクしている自分がいます。もうこれは恋。

昨年あたりから、ようやくデジタルカメラでも「これがわたしの作品です!」と胸を張って言える写真が撮れるようになってきました。心の空白も徐々に埋まりはじめ、精神がどんどん安定していくのを日々感じています。

Otus 1.4/55に出会ったおかげで、フィルムカメラと共に死んでいくはずだった、大村祐里子という人間のアイデンティティを完全に取り戻すことができました。
Otus 1.4/55ありがとう。本当に偶然の出会いでしたが、これは神様の「あなたはまだ写真を続けなさい」という思し召しなのかもしれません。
これからOtus 1.4/55と一緒にどんな写真を生み出せるのか、楽しみでなりません。



F16 1/200 ISO200



F1.4 1/160 ISO800



F2.8 1/160 ISO1600



F11 2.0sec ISO125


<関連サイト>
コシナ Otus 1.4/55
http://www.zeiss.co.jp/camera-lenses/ja_jp/camera_lenses/otus/otus1455.html



<Otus 1.4/55 + SELF PORTRAIT>

カメラ:MAMIYA UNIVERSAL PRESS
レンズ:Mamiya-sekor 100mm F3.5
フィルム:FUJIFILM FP-3000B
 著者プロフィール  
大村 祐里子(おおむら ゆりこ)

1983年東京都生まれ
ハーベストタイム所属。雑誌、書籍、俳優、タレント、アーティスト写真の撮影など、さまざまなジャンルで活動中。
著書「フィルムカメラ・スタートブック」、「身近なものの撮り方辞典100

ウェブサイト:http://omurayuriko.jp/
ブログ:http://shutter-girl.jp/
Instagram:@yurichayuricha
 
 

大村祐里子・著書


身近なものの撮り方辞典100


フィルムカメラ・スタートブック