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The LensGraphy

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The LensGraphy
公開日:2021/11/08

Vol.1 Leica SUMMICRON-M F2/50「そして写真に帰る。」

text & photo 南雲暁彦


プロローグ

僕が初めてレンズの焦点距離を意識したのはやはり一眼レフを手にしたときだった。オリンパスOM-2N、それには当たり前のようにZuiko50mmF1.4が装着されていて、僕の写真人生はこのレンズから始まったといってもいい。

50mm。画角47度の標準レンズ。もうそれは決まっていたことで、このレンズ一本で様々な表現をすることが日芸の写真学科で最初に出された課題だった。標準と言われても普段の目の感覚より少し狭く感じ、目では不可能な大きなボケを作り出し、自然なようで、不自然なようで、使いこんでいけば広角のようにも望遠のようにも撮れる。明るく、シャープで、懐の深いレンズだったと思う。

なんにせよ僕はこの標準レンズで写真を学んだ、これは良いことだったと思う。
一つの焦点距離を徹底的に使い込んだことで自分に基準ができて他のレンズの特性をよく理解することができたし、開放F値1.4はその後の標準ズームではなし得ないことだった。

僕にとって写真はそのままを記録するという事ではない。そこには個性的なレンズが介在し、自らの想いとともに目の前の事象を表現に変えていく。
The LensGraphyではそんなレンズ達を通して感じた表現の話をして行きたいと思う。

 

Vol.1   Leica SUMMICRON-M F2/50「そして写真に帰る。」




散々兵器のような最新鋭機で仕事をしまくり、ふと愛機が欲しくなって手に入れたライカM10-Pの最初の相棒として選んだのがこのLeica SUMMICRON-M F2/50である。

50mmを選んだのはやはり基本だと思っているからだが、このレンズ選びで決め手になったのは現行のズミクロンの中で唯一ASPHでは無い(非球面レンズを使っていない)という事だ。紐解いてみると基本設計が1979年から変わっていないとんでもなくロングライフなレンズなのである。ライカを手に入れるにあたって、こう言うレンズで何かライカがライカ然としている理由を味わえるのでは無いかという期待が大きかった。そして新品でそれが手に入るなら先ずはこれだと思ったわけだ。

さてその描写は、レンジファインダーで二重像を合致させ上品なシャッター音を奏でる。背面の液晶で初めて見たその画像は腰を抜かすほど滑らかで美しく、しっかりとその目の前の空間を写真として表現していた。

墨田区がパリになったかと思ってしまった。
思い出した、これは写真を始めたときに感じたあの感覚だ。

 

Leica M10-P + SUMMICRON-M F2/50



Leica M10-P + SUMMICRON-M F2/50(以下、同)
1/2000秒 F2 ISO100 -0.33EV



1/180秒 F2 ISO100 

1979年から基本設計が変わらないということはその時点で高い完成度を持っていたと言う事だろう。またボディ側がレンズに合わせてしっかりとセンサーをチューニングしていると言うことの合わせ技でこの描写を生み出しているのだ。

それにしても、デジタルカメラだと言うことを忘れてしまうこの描写はなんだ? 一枚の絵としてとてつもない一体感がある。古い設計だからピントが甘いなどと言うことは微塵もなく、開放から素晴らしい描写を見せる。また結像部分からアウトフォーカスへのなだらかな繋がりは特筆物だ。「シャープネスが」とか「ボケ味が」という画面を区切って考えるような言い方はしたくなくなる画力を持っている。
ASPH化をせずとも周辺までしっかり描写し、そのせいもあってか「逆にとんでもなく自然だ」と言うのが特徴だろう。ほとんど開放でしか使わないのだが、このなだらかで美しい周辺減光も見て欲しい。

そう、僕が見て、シャッターを切ったのはこの雰囲気を撮りたかったから、これを伝えたかったからだ。そんなふうに感じた。


1/250秒 F2 ISO200 +0.67EV 
 

開放から最高の描写力を発揮する

以前、ライカのレンズ開発責任者のピーター・カルベ氏と対談した時に、彼がこんな事を行っていた。

「ライカのレンズは開放から最高の描写力を発揮するように作ってある、だから絞っても解像力が上がることはないし、被写界深度が欲しい時だけ絞れば良い」

目から鱗が落ちた。

特にこのF2のズミクロンやSLシリーズに用意されたアポズミクロンは開放F値に無理がないので、強烈に大きなボケは生まないが、その分主要被写体とその周辺の空気や背景との繋がりが素直なので、掴めそうな分厚い空気感をごっそり取り込むような描写をする。
写真によっては開放で撮影したことを信じてもらえないこともあるぐらいだが、これがズミクロン開放の描写なのだ。


1/30秒 F2 ISO6400 +0.33EV


1/30秒 F2 ISO6400 +1.67EV

改めて言うがこのSUMMICRON-M F2/50は現行のレンズである。もはや2000万画素超が当たり前になった35mmフルサイズの中で、オールドレンズとして味を楽しむ類のものではない。どんな時でも使えると言う自信の中でラインナップされていると言う事だと思っている。


1/60秒 F2 ISO640 -0.001EV

M型のライカを使っていて思うことがある。「それは人生を突きつけられる感覚がある」と言うことだ。ご存知の通りM型のライカは寄ったり引いたりが苦手だ。一眼レフでの撮影ならばつまらない被写体を前にしてもマクロレンズで寄ったり、スーパーワイドや超望遠レンズで無理やり一見面白く見えるような写真を撮ることが可能だ、だがそれは今になって思うとつまらない人生を加飾しているようにも感じてしまう。M型のライカで、しかも人の視角に近い50mmをつけて撮っていると自分の人生そのものがどう言う物なのかを強く感じてしまうことがあるのだ。

しっかり生きているのか、目の前の人生は魅力的で、写真家として写す意味があるのか。
そうならばそれは昇華され、そうでなければ人生を問う時間に当てたほうがいい。
撮ってみてそれを教わるのである。


1/15秒 F2 ISO6400 -0.67EV


1/15秒 F/2 ISO6400 


1/30秒 F2 ISO6400 -0.67EV


1/15秒 F2 ISO6400 -0.001EV

これまで散々フォトグラファーとして世界中を撮りまくり、スタジオでフィールドで経験を積んできたつもりだったが、今になってそんな感覚を呼び起こさせる。SUMMICRON-M F2/50は僕にとってそんなレンズだ。

しっかり生きていればどんな時も裏切らない、完璧に寄り添ってくれるオールマイティーさを持つ。自分の人生の合わせ鏡のような、もはや手放せない一本である。

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<プロフィール>


南雲 暁彦(なぐも あきひこ)
1970年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷株式会社、ビジュアルクリエイティブ部所属 チーフフォトグラファー。世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。近著「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意(玄光社刊)」。APA会員。長岡造形大学、多摩美術大学非常勤講師。コマーシャル・フォト「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」を連載中
 

<著書>


Still Life Imaging スタジオ撮影の極意