20ミリで探す真実〜FíRIN〜
公開日:2017/08/31
【スペシャルレビュー】トキナー FíRIN 20mm F2 FE MF 上野由日路 編
photo & text 上野由日路
モデル:小出紗加
SONY α7R + FiRIN 20mm F2 EF MF(共通データ)
F2 1/4000秒 ISO100 WB:マニュアル RAW
フルサイズフォーマットで焦点距離20mm、絞り開放F2という異色の広角レンズ、「FíRIN(フィリン)20mm F2 FE MF」。広角にして大口径のこのレンズはいったいどんな世界を見せてくれるのだろうか。ポートレート撮影にチャレンジしてみた。 Tokina FíRIN 20mm F2 FE MF
|
セミマットブラックの鏡胴はしっかりとした作りでソニーα7シリーズとの相性もいい。ヘリコイドも非常にスムースで適度なトルクがある。ヘリコイドの回転量がたっぷりとってあるのが特徴でF2という被写界深度の浅いレンズでのシビアなピント合わせでも使いやすい。特に近接域でのフォーカシングには非常に助かる。ヘリコイドを回してもレンズの全長が変わらないインナーフォーカス式で絞りは円形に近い9枚羽。絞りは動画撮影に対応しており、切り替えスイッチによってクリックを無くすこともできる。 |
広角×低歪曲×ボケが生み出す新しいスタイルのポートレート
ポートレート撮影に使われるレンズの多くは、50mmや75mmなどの標準や中望遠のレンズである。これはポートレートでは背景をぼかすことにより被写体を引き立てるという作画が多く用いられるためである。また標準や中望遠以上のレンズでは歪曲などの収差が少なく被写体が歪まないことも人物撮影に向いている要因だ。一方広角レンズのほとんどは開放値F2.8でボケはあまり期待できない。それは広角レンズの用途の多くが風景やスナップで被写体と距離をとって撮影するため、パンフォーカスに近い描写になるからだ。そうなると開放時のボケ味は必要なくなる。
逆に広角レンズでポートレート撮影をするときにボケ味が出るくらい寄ると歪曲収差などの影響で被写体がゆがんでしまう。ポートレートにおける被写体はモデルである。顔がゆがんでしまっては使い物にならない。
しかし、FíRINは歪曲収差を低く抑えながらF2という開放値を両立している。これはポートレートに必要な要件を満たしている。これまでは技術的に両立し得なかった問題を解決したこのレンズは、広角ポートレートという新しい表現の扉を開けたのだ。 さらにα7R系などの高画素機ではAPS-Cサイズにクロップしても1600万画素クラスの十分な解像力(4800×3200pix/SONY α7Rの場合)があるため、32mm F2のレンズとして使うことも出来る。クロップするのでさらに中心部の歪曲の少ない部分でF2のボケが堪能できる。F2 1/250秒 ISO125 WB:マニュアル RAW
SONY α7R + FíRIN 20mm F2 EF MF(共通データ)
FíRINでポートレートを撮ってみて印象的だったのが被写体である人物を引き立てる能力の高さだ。このレンズの持ち味であるボケが被写体を浮き立たせ立体感を生む。風景の一部として人を描くのではなく、しっかりと人物を主題として表現できる。APS-Cモード(4800×3200pixel) F2 1/250秒 ISO125 WB:5000 RAW
APS-Cクロップ(×1.6)を使って32mm F2相当のレンズとして使ってみる。レンズの中心部を使うため歪曲収差は全く感じられないレベルになる。高画素のα7R を使っているので実用に十分なサイズの写真が撮れる。もちろんレンズの高い解像力のおかげでフルサイズ時と遜色のない写りになっている。F2 1/640秒 ISO800 WB:マニュアル RAW
自然と被写体の表情に目がいく。ポートレート撮影ではそれは重要なことであるが、多くの広角レンズでは困難な作業だ。このレンズの持つ立体感が自然と被写体を絵の主人公として浮き立たせているのだ。 開放絞りF2が生み出す圧倒的に美しい前ボケで華やかさを出す
F2 1/250秒 ISO320 WB:5000 RAW
このレンズのもうひとつの特徴が美しい前ボケだ。前ボケは映画などでも多用される定番のテクニックだ。美しい前ボケで画面が一気に華やかになっている。F2 1/250秒 ISO400 WB 5000 RAW
幅広い階調もこのレンズの大きな特徴だ。特にダイナミックレンジが広いソニーα7Rとの組み合わせでは、シャドウ部からハイライト部まで豊かに表現することができた。奥に見える海まで見事に再現している。F2 1/250秒 ISO400 WB:マニュアル RAW
FíRINは、ソニーEマウントのデジタルカメラのMFアシスト機能に対応するマニュアルフォーカスレンズだ。20mmでありながらF2という開放値を持ったこのレンズではパンフォーカス領域が少なく背景がぼけやすいので正確なピントあわせが必要になる。しかし、20mmという画角になると被写体が小さくなってしまうこともあるのでかえってマニュアルフォーカスのほうが正確にピントを合わせることが出来る。慣れればストレスも感じない。F2 1/250秒 ISO100 WB:マニュアル RAW
当日はうす曇で前半戦かなり苦戦した。広角レンズという性格上ダイナミックな背景が必須なのであるが、太陽に見放されドラマチックな瞬間に出会えなかったからだ。モデルの表情を丁寧に追いながら突破口を見出そうと試行錯誤しながらうろうろと散策する。こういうときはどんなに小さい事でもいいから突破口につながる糸口を粘り強く探す。しかしモデルさんに負担をかけるといい表情を逃してしまうので引き際も肝心だ。そんな緊張感を内に秘めつつ、それを悟られないように撮影を進めていく。そんな時に ふとこれまで入ったことのない小路が目に入った。直感的に何かあるかもしれないと小路に入っていく。民家を通り過ぎ階段を下りたところで突然目の前が開ける。見渡す限りの水平線が広がっていた。F2 1/4000秒 ISO100 WB:マニュアル RAW
そのときこれまで曇っていた雲の隙間から夕方の光が差し込んだ。鈍色の海は瞬時にきらめく海に変わった。FíRINはその瞬間の撮影者の感動も、目の前の空間も見事に切り取ってくれた。F2 1/4000秒 ISO320 WB:マニュアル RAW
夢中になってシャッターを切る。ポートレートレンズとしてのFíRINの本領発揮だ。
目の前のドラマチックな風景を情景に昇華させるレンズ
FíRINを使ってみて実感したのはそのバランスのよさだ。背景の風景をしっかりと写しこみつつ、さりげなく被写体を引き立てる。これは標準レンズや中望遠レンズには出来ない表現だ。広角でありながら大口径レンズであるFíRINだから写しえる写真といえる。目の前のドラマチックな風景、被写体が一瞬垣間見せるきらめき、それらを空間ごと切り取り情景に昇華する。それがFíRINが表現する「真実」だと感じた。ソニー α7Rに装着したときの見た目のバランスは見事で、撮影者に素晴らしい写りを期待させてくれる。いいレンズはオーラがあると常日頃思っているのだが、このレンズにはそれがあると言ったら言い過ぎだろうか。しかし、写真の仕上がりを見てそれが本当だと感じた。
写真表現の歴史の裏には必ず写真技術の進化がある。20mmF2という新しい表現領域で写真表現がどういう進化を遂げるのか、楽しみである。モデル:小出紗加(BOX CORPORATION)<メーカーサイト>
トキナー 「FíRIN(フィリン) 20mm F2 FE MF」
http://www.tokina.co.jp/camera-lenses/wide-lenses/firin-20mm-f2-fe-mf.html
協力:ケンコー・トキナー<バックナンバー>