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南雲暁彦のThe Lensgraphy

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南雲暁彦のThe Lensgraphy
公開日:2024/06/27

Vol.27 FUJINON L 5cm F2.8 「東京」

南雲暁彦
FUJINON L 5cm F2.8は、 1940年から1959年にバルナック型ライカのコピーモデルとして昭和光学精機が作っていたレオタックスシリーズ用の標準レンズである。東京光学製のTopcorや小西六のHexanon、オリンパスZuikoなど、レオタックス用のレンズは色々なメーカーが作っていたのだが、そのうちの一本というわけだ。
1957年に登場したこのレンズ、特徴としては4群5枚のクセノター型光学系を採用しており、ピントが非常に鋭いということらしい。

今回の撮影に使ったわけではないが、カメラの横にフィルムをあしらって撮ってみた。レンズのロゴと相まってなかなかいい感じではないか、意気込みというやつだ。

真ん中

この連載ではFUJINONは初めてだ。僕の印象ではそもそも富士フイルムのレンズは発色が良くシャープな印象がある。大判レンズや中判カメラで使うことが多かったが、よく使ったGS645Sのレンズもすごくキレる描写だったと思い出す。

今まで使ってきた国産のオールドレンズは写りも作りもしっかりとしたものが多かったなあと思うが、FUJINONはその真打じゃないかと期待してしまう。何せ日本を代表する富士をその名に冠するメーカーだし、フィルム全盛期にはフジとコダックの看板は世界中の至る所に存在した、そんな日本を代表するブランドの一つだ。FUJINONの50mm これはつまり、真ん中だな。と思った。
まあ、モンブランの万年筆みたいなもんだろう、などとさらに妄想を膨らませて楽しむこととしよう。
とりあえずいつものようにレイクオールのL39-Mアダプターを噛ませてM10-Pに装着した。シルバーと黒のツートンカラーがちょっと新鮮で、ボディとの重量バランスも良い。

まずはちょっとした散歩に連れ出した。多摩川沿いにバイクをとめ、土手から二ヶ領上河原堰に向けてシャッターを切った。



Leica M10-P + FUJINON 5cm f2.8(以下同)
1/60秒 5.6  ISO2000


おお、中々骨太な写りだ、というのが最初の感想。決して線が太いという意味ではなく、写真らしい静けさを伴った落ち着きのある描写という事だ。コントラストも、解像度も、色のノリも、ほんとに欲しい絵に対してど真ん中な感じ、この大きさだと良くわからないかも知れないが、大きな鳥が無数に堰に止まっていて、それも一羽一羽良くわかる。

今度は画面下部に稜線をとり、繊細な表情の空に向けてシャッターを切った。



1/500秒 F5.6  ISO200

空の繊細なグラデーションを過不足なく捉えている、これは僕がみた空だ。画面下部には読売ランドの観覧車と、その背後に富士山が見える。そしてなんとゴンドラスカイシャトルまで写っていた。さすがFUJINON、こんなに古いレンズなのに相当な描写力を持っている。



1/250秒 F2.8  ISO200

手ブレを完全に殺すように速いシャッターで切ってやるとその描写力がかなり優秀なことがさらに良くわかる。鉄骨の描写は然もありなん、左下にいる帽子を被った人影が驚くほど鮮明に写っていた、開放でこれはすごい。僕が勝手に与えた「真ん中」という称号は伊達じゃない。





絞り羽は10枚、多くも少なくもない。必要にして十分といったところだろう。ちょっとオイルが滲んでいるが描写には影響ないレベルだ。開放F2.8という無理のない明るさとクセノター型光学系がこの素晴らしい描写力に効いている、撮った写真がそう言い切ってくる。



この個体はフォーカスリングにしっとりとしたトルク感とスムースさを保ち、絞りリングもかすかなクリック感が独特な操作感を醸し出していて操作に不安がない。ただしこの絞りリングはフォーカスリングと一緒に回ってしまうタイプなので、やはりその辺の使い勝手がよくないのが玉に瑕だ。それでもこの絞りリングにはフォーカスの操作で回ってしまっても見えなくならないように反対側にもF値が刻んである、さすがは日本製、世界のFUJINONなのである。

さて、日本の象徴、富士のレンズで撮るもの、これはもう真っ向勝負といこう。




希望のチカラ

ボディをSL2-Sに変えた。ちょっと本気でフレーミングしたくなったからだ、絞りによる描写の変化もしっかりとファインダーで見たい。さて、いざ東京のど真ん中へ。




Leica SL2-S Reporter + FUJINON 5cm f2.8(以下同)
1/800秒 F2.5  ISO3200


僕の中では、ここが東京のど真ん中だ。最もティピカルな東京、色も形も存在感もこれに勝る東京はないと思っている。さあ行くぞ、真ん中レンズ。



1/250秒 F11  ISO100

ど正面から見上げて構えた瞬間にベルビアなコントラストがファインダーに写っていた、ように感じた(笑)。でも本当にこのファインダー越しの絵は冗談抜きであのコッテリとしたベルビアのトーンを思い出させる濃厚でリッチな絵にそっくりで、ちょっとうるっとくる懐かしさがあった。そしてあのベルビアをライトボックスで見た時の、くーっ凄い、でも印刷だとこれが中々うまく出ないんだよなあ、というあの感覚も思い出した。(印刷会社社員の自分が言うのもなんだが)
それでも、この強烈なインパクトのあるシーンを表現するためにあのフィルムが生まれたのは確かで、メーカーもフォトグラファーもそうやって心血を注ぎオリジナルとなる写真を作ってきたのだ。作品のオリジナルクオリティーとして、それは必要な原器なのだと思う。僕のこの写真がどの程度のインパクトを持って読者に届くのか、それも中々うまくいかないのかも知れないが、この行為はやめてはいけない、そんなふうに今一度思う。

FUJINON L 5cm F2.8は僕が選んだこのシーンを本当に見事に映すことができた、決してオールドにしては、ではなくて現代のレンズと比べても高性能だと思う、これはちょっと驚くほど、嬉しい誤算だ。



1/1600秒 F8  ISO100


1/1600秒 F8  ISO100

もちろん、何も考えずにここに来たわけではない、天気を見定め、最も東京タワーにコントラストのつく時間を狙ってのことだ。普通に見ていても立派で美しい場所だがそれをそのまま撮る気はない。僕は観光客でもないし、記念写真を撮りに来たわけではない。東京の新しい原風景を作る、そんな意気込みでここに立っている。



1/400秒 F11  ISO100

日本で撮影することが増えてから、東京が持つ魅力を写真的に最大限に引き出してやろうといつも思っている。少なくともここでかっこいい写真が撮りたいと思う人が目標にするぐらいのことを成し遂げたい。
カメラやレンズメーカーもプロフェッショナルフォトグラファーもきっとそういう意気込みが必要なはずだ。それは人々の生きる希望につながるからだ。写真を見た人がいつかここに来てこの風景を見たい、この空気に触れてここで写真を撮ってみたいという気持ちが生まれたら、それは生きる希望以外の何物でもない。

さて、ちょっと頭を冷やすために、展望台に上がってみようと思う。



1/400秒 F11  ISO100

ノーファインダーでエレベーターのガラス越しに撮ったのだが、奥のビルがすごくシャープに写っていて笑った、繋ぎに必要な写真。


1/640秒 F5.6  ISO800

思いっきり斜めに光を入れてやればこういう絵も撮れる。壁に映り込んだ展望台のワンシーン。


1/2000秒 F4  ISO800

破壊と再生が常に行われている、人が生きる街というのはそういうものだという気もするし、古いものが残りづらい事が残念だと思うこともある。しかし東京はそうやって発展してきた、それは受け入れざるを得ないことなのだろう。ここはローマでもパリでもない。

そんな中、日本で生まれたこのレンズが何十年もの間とても良い状態で残っていて、こうしてまた作品作りに使えるというのは喜ばしいことだ。



1/400秒 F8  ISO800

何かちょっと都市全体が墓標のように見えてしまう瞬間があった。いや実際に東京にはそういう一面も含んでいて、それでも乗り越えるチカラをもった都市なのだ。

東京の真ん中で、真ん中のレンズがそういうことまで浮き彫りにしていく、これは日本人としてやるべき事なのかもしれないと感じた。それがたまたま僕に回ってきたのかも知れないし、ただの思い込みかも知れない。しかし、事実として目の前にはそういう東京が広がっていたのだ。
夜になり街に火が灯る直前、ほんの一瞬の風景だ。


1/2500秒 F2.8  ISO800

しかしこのレンズ、本当に良く写る。解像度もさることながら、このダイナミックレンジの広さよ、シャドーの中にトーンがしっかりと残っているし、ハイライトからの滲みもない。歪曲もほとんどない、こういうのを隠れた名玉というのではないだろうか。


日が落ちるタイミングで地上に降りた、最後にもう一枚、どうしても撮りたいカットがあるのだ。そこに向かう途中ビルの間からライトアップされた東京タワーがぬっと現れ、昼間以上の存在感を見せつける。これも好きなシーンの一つだ。


1/400秒 F3.4  ISO6400

みんなはもっと近くの全貌が望める場所から東京タワーの夜景を見ていたり、写真を撮ったりしているのだが、僕のお目当てはそれではない。ほとんど誰も気が付かない、だがもっと特別なシーンなのだ。

飯倉の交差点から国道1号を赤羽橋口方面に向かって降りていく、真っすぐ歩いていたら全く気が付かないのだが、ほんの十数メートルの間、左手にこのシーンを見ることができる。ビルの側面に映り込んだ東京タワーが作り出す風景だ。
東京タワーが写り込み始め、消えていくまでを歩数で測ってみたら50歩ほどだった。全体が見えるちょうどいい位置はほんの2mぐらいの間、その中でも僕がここだと思ったのはこの一点だけだ。ここにも写真界への扉がある。

東京タワーの色はたくさんの人の心に印象的に映る色だと思う。このレジデンスに映ったオレンジの灯はそれを象徴的に見せてくれたような風景だと思った。ここに来た人たちには色々な想いがあって、色々な想いと共にここでの思い出を持って帰る。

東京の真ん中で、富士のレンズは本当にいい仕事をしてくれた。さて、僕もこの風景を胸に家に帰るとしよう。



1/60秒 F5.6  ISO3200
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<プロフィール>


南雲 暁彦 Akihiko Nagumo
1970 年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。
日本大学芸術学部写真学科卒、TOPPAN株式会社
クリエイティブ本部 クリエイティブコーディネート企画部所属
世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。
近著「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」 APA会員 知的財産管理技能士
多摩美術大学統合デザイン学科・長岡造形大学デザイン学科非常勤講師


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<著書>


IDEA of Photography 撮影アイデアの極意



Still Life Imaging スタジオ撮影の極意
 
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