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2025年11月6日、キヤノンからフルサイズミラーレスの新機種・EOS R6 Mark IIIが発表された。キヤノンマーケティングジャパン本社で行われた発表会で実機に触れることができたので、その印象などをレポートする。ちなみに発売は11月21日で、オープン価格だがキヤノンオンラインショップでの想定販売価格は42万9,000円(RF24-105mmF4 L IS USMレンズキットは58万3,000円)となっている。
初代EOS R6は2020年7月、兄貴分のEOS R5と同時に発表された。2,010万画素で最高約20コマ/秒の高速連写を実現。ミドルクラスとはいえ、十分すぎるスペックを誇っていた。Mark IIは2022年11月に発売。AF性能を向上させ、2420万画素、最高約40コマ/秒とさらなる性能向上を実現させている。そこからちょうど3年でのモデルチェンジとなる。
パッと見た印象は、てっぺんの部分がR1やR5 Mark IIによく似ている。前面は「Canon」のロゴ部分から両肩へなだらかな面が続き、キヤノンの顔はこれです、というデザインポリシーを感じる。一方でおやっ?と思ったのが塗装。EOSの上位〜中級機はグレーがかっているのが特徴だが、本機はシックで引き締まったマットブラック。実際には写真で伝わるかどうか微妙な差だが、高級感があって個人的には好みだ。右手側にモードダイヤルを配した操作系は前モデルと大きく変わらず、EOS R6や同Mark IIから買い替えても戸惑うことは少ないと思う。
左がEOS R6 Mark III、右がEOS R6 Mark II。ボディ色の違いがわかるだろうか
左肩のRATEボタンの下に、COLORという表示が。撮影時にはここでカラーモードを呼び出すことができる。背面液晶は初代・先代と同様、バリアングルを採用している
ちなみに外装の素材はポリカーボネート樹脂で、シャーシにはマグネシウム合金を採用。防塵防滴構造のほか、動画撮影のために放熱性も高めている。手にした印象では剛性が高いのはもちろん、ダイヤルやスイッチの感触も上々だ。ファインダーは0.5型有機ELの369万ドットでMark IIと変わらず。ここはEOS R5 Mark IIと同じ576万ドットを採用してほしかったが、それが価格差ぶんの違いということか。
中身を見ると、イメージセンサーが2420万画素から3250万画素にアップ。最高常用感度こそISO64000とMark IIより一段下がったものの、それ以外のスペックは据え置き、もしくは向上している。連写速度は最高約40コマ/秒で変わらないがバッファを強化。連続撮影枚数はたとえばRAW+JPEGで前モデルが約75枚だったところ、約150枚とおよそ倍に増えている。
ボディー内5軸手ブレ補正も進化。手ブレ補正内蔵レンズとの協調制御はもちろん、微小ブレや広角で起こりやすい周辺ブレにも対応し、最大で中心8.5段、周辺7.5段の効果がある(ちなみに前モデルは8.0段)。
グリップを握って構えたときの安定感・安心感の高さはEOSシリーズならでは
AFアルゴリズムも前モデルから改善し、動体のトラッキング性能が向上したという。とりわけ注目はEOS R1やEOS R5 Mark IIなどに搭載されている「登録人物優先機能」だ。文字通りカメラに顔を登録することで、AFの優先対象にできるというもの。サッカーや大人数でのダンスなど、人物が交錯する状況で役立つ。ちなみにカメラ内には10名まで登録できる。また人物撮影という点では、EOSシリーズのフルサイズ機では初めて「静止画美肌モード」を搭載している。僕は私物のEOS R50でこの機能を使ったことがあるが、肌の部分のみ何か処理をしているのが明白。少なくとも写真を仕事や趣味にする人は使わないな……と思っていたが、本機では自然な仕上がりを実現したという。ちょっと気になるところだ。
付属バッテリーはMark IIの「LP-E6NH」から、EOS R5 Mark IIと同じ「LP-E6P」に変更。撮影可能枚数は省電力優先で約620枚とまずまずの数値だ。ちなみに互換性があるので「LP-E6NH」も使用できる。バッテリーグリップの「BG-R20」「BG-R20EP」はMark IIと同じで、このあたりのアクセサリーが引き続き使えるのはありがたい……と思っていたら、メディアスロットがSDのデュアルから、CFexpress Type B/SDのデュアルに変わっていた。CFexpress Type Bのカードもだいぶ手頃になってきたし、これは致し方ないところか。
CFexpress Type Bを採用した背景には、動画機能の拡充がある。EOS R6/R6 Mark IIはもちろん動画撮影は可能ではあるものの、スチール向けカメラというイメージが強かった。それが本機ではミラーレスEOSで初めてオープンゲート(センサー全体で捉えた映像をRAWで内部記録)に対応。キヤノンとしても2025年9月に発表されたシネマカメラ・EOS C50に続く2機目で、7Kで記録した映像をあらゆるフォーマットへ切り出すことができる。
またCinema EOSシリーズと共通のカラープリセット「カスタムピクチャー」や、手動のような滑らかなピント移動を再現する「フォーカス加減速アルゴリズム」を搭載。さらにHDMI端子を従来のType-Dから抜けにくく汎用性も高いType-Aに変更したり、モードダイヤルに「スロー&ファストモーション」を加えるなど、使い勝手もしっかりと改良している。小型軽量な点も合わせて、本格的な映像制作にも使えそうだ。
またEOS R6 Mark IIと同時に、新しい交換レンズ・RF45mm F1.2 STMも発表された。こちらは11月下旬発売予定で、何より驚かされたのがキヤノンオンラインショップでの価格が税込6万6,000円とビックリ特価なこと。そのぶんレンズフードもレンズポーチも別売りという割り切りっぷりだが(まあレンズポーチは他のレンズもそうしてほしいと思う)、より安くという狙いが垣間見える。
キヤノンはEF50mmF1.8 II(1990年12月発売)を長らく実売価格1万円ほどで売っていた。光学系はそのままでSTMモーターにスペックアップしたEF50mmF1.8 STM(2015年5月発売)は現行品だが、こちらもキヤノンオンラインショップの価格で1万8,232円(2025年11月現在)と安い。僕も仕事でずいぶん重宝したが、壊れても修理するより買い直したほうが安いので、合計で3〜4本は買ったと思う。とにかく軽くてよく写り、その利点は価格は上がったもののRF50mmF1.8 STMにも継承されている。F1.8の標準レンズを安価で供給する背景には、単焦点レンズの良さを知ってほしい、俗な言い方をすればレンズ沼へ誘いたいという、キヤノンの戦略的意図が感じられる。
最短撮影距離で、設計のモデルとなったEF50mmF1.2L USM、そして“撒き餌”の先輩であるRF50mmF1.8 STMを撮ってみた。ピントが合った部分からのボケ足はちょっとオールドレンズっぽさも感じる
しかしインパクトでいえば、本レンズはそれ以上かもしれない。同じF1.2でもRF50mmF1.2 L USMは重さ約950g。それに対し本レンズはわずか約346gで、実際に手にするとモックアップかと思うほど軽い。カメラ側での補正を前提に、光学設計を効率化。さらにプラスチックモールド非球面レンズを採用し、軽量化と低価格(RF50mmF1.2 L USMの約1/6)を実現させた。
開発にあたっては好みがはっきりと分かれ、名玉とも迷玉とも称されるEF50mmF1.2L USMがモデルになっており、解像度や描写傾向も似ているという。僕は絞りで描写が変化するようなレンズが好きで、EF50mmF1.2L USMも気に入って愛用していた。限られた状況でしか試すことはできなかったが、本レンズも絞りを開ければ優しく、絞るとキレ味が増していくように感じた。キレキレなものが多いRFレンズの中では異色といえる。
絞り羽根は円形の9枚
AFはギアタイプのSTMモーターを採用。7群9枚のレンズのうち、フォーカシングでは最後端の1枚以外が前後する。RFマウントの標準レンズを比較すると、VCMモーター+インナーフォーカスを採用しているRF50mmF1.4 L VCMがとにかく爆速で、RF50mmF1.2 L USMも重さのわりにスムーズ。それらに比べるとRF50mmF1.8 STMと同様、いささかのんびりはしているが、ストレスを感じるほどでもない。
残念なのが最短撮影距離が45cmと長く(この点でRF50mmF1.8 STMの30cmは大きな魅力)、あまり寄れないこと。一方で焦点距離はフルサイズセンサーの対角線長43mmに近く、それゆえ50mmよりも視界をストレートに切り取る感覚がある。あれこれ試してみないと断言はできないが、絞りはF2あたりをベースにして、背景や場面に合わせて開けたり絞ったりするのがおいしい使い方ではないだろうか。
個人的には最近EOS R5 Mark IIとRF24-105mmF4 L USMを購入し、次に買う標準レンズはどれにしようか迷っていたが、おそらくこれを買うと思う。予約開始は11月11日の午前10時。すぐに供給不足がアナウンスされそうな気がしないでもないが、それはともかく性能とは別軸で魅力ある製品を投入し、ユーザーの裾野や選択肢を広げようとするキヤノンの姿勢は好感が持てる。
「EOS R6 Mark III」
型式:デジタル一眼ノンレフレックスAF・AEカメラ
記録媒体:カード1:CFexpressメモリーカード、カード2:SD/SDHC/SDXCメモリーカード(UHS-II対応)
材質:ポリカーボネイト(外装)、マグネシウム合金(シャーシ・リアパネル)
レンズマウント:キヤノンRFマウント
寸法:約138.4(幅)×98.4(高さ)×88.4(奥行)mm
質量:約699g(バッテリー、CFexpressカードを含む)/約609g(本体のみ)
撮像素子:35mmフルサイズCMOSセンサー
総画素数:約3,420万画素
記録形式:静止画:JPEG(.JPG)、HEIF(.HIF)、RAW(.CR3)、C-RAW(.CR3)、DPRAW
動画:RAW(.CRM)、XF-HEVC S YCC422 10bit(.MP4)、XF-HEVC S YCC420 10bit(.MP4)、XF-AVC S YCC422 10bit(.MP4)、XF-AVC S YCC420 8bit(.MP4)、News Metadata(.XML)
画面サイズ:3.0型(画面比率3:2)
アスペクト比:3:2 ドット数:約369万ドット
シャッター方式:メカシャッター、電子先幕、電子シャッター
シャッタースピード:[静止画]メカシャッター/電子幕 1/8000〜30秒、電子シャッター1/16000〜30秒、[動画]動画Tv/Mモード時:1/8000〜1/8秒、その他:1/8000〜1/25秒
フラッシュ同調速度:1/200〜1/320秒
ノイズ低減機能搭載(高感度撮影、長時間露光時)
ISO感度:[静止画]ISO100〜64000、[動画]ISO100〜25600
電源:対応バッテリーパック:LP-E6P、USB給電・充電、AC電源対応
「RF45mm F1.2 STM」
画角(水平・垂直・対角線):43°35'・29°50'・51°20'
レンズ構成:7群9枚
絞り羽根枚数:9枚
最小絞り:16
最短撮影距離:0.45m
最大撮影倍率:0.13倍
フィルター径:Φ67m
最大径×長さ:Φ約78×75mm
質量:約346g
![]() | 鹿野貴司(しかの たかし) 1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるほか、ドキュメンタリー作品を制作している。写真集『日本一小さな町の写真館 山梨県早川町』(平凡社)ほか。著書「いい写真を撮る100の方法(玄光社)」 ウェブサイト:http://www.tokyo-03.jp/ Twitter:@ShikanoTakashi |
