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オールドレンズの奇跡

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オールドレンズの奇跡
ここにくるまで、どのくらいの時を刻み、幾多の国を渡ったのか…手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる"奇跡"を見せる。
さぁ、今宵もレンズが織り成す世界に興じてみようではないか。
公開日:2013/10/07

エルンスト・ライツSummaron f=3.5cm 1:3.5

photo & text 上田晃司

ライカM9-Pのシルバーボディに装着。もともとはバルナック用として製造されたレンズだが、見た目はマッチする。
Lens data
●生産国:ドイツ
●発売期間 1949〜1959年頃
●販売価格:130ユーロ(約14,000円)
●シリアル:1227182
●製造年:1954年頃
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1954年(昭和29年)頃。この年に新型のM型マウントを搭載したレンジファインダー機、ライカM3がフォトキナで発表された。そのほかには毎日新聞社から雑誌「カメラ毎日」が創刊。明治製菓が日本初の缶入りジュース「明治天然オレンジジュース」を発売した年でもある。



絞り羽根は10枚と多いが真円にはならない。絞りリングを回転させた時のフィーリングはカチッカチッと、しっかりと止まってくれる。
M3が発表された年に造られたレンズだがマウントはバルナック用のスクリューマウント。フォクトレンダー製のLM変換アダプターでM9-Pに取り付けている。
重量はマウントアダプター込みで159gと非常に軽い。レンズ径がCFカードより少し大きいくらいなので持ち運びにも便利。ミラーレス機にもよく似合いそうだ。

腐っても鯛ならぬカビてもライカ
甘めの描写にうっとりとする


以前、エルンスト・ライツ(当時)のSummarex f=8.5cm 1:1.5を紹介したが、実はこのレンズをオーストリアで購入した際、もうひとつ購入したものがある。同じくエルンスト・ライツのSummaron f=3.5cm 1:3.5だ。このレンズは製造本数が多く、“ライカレンズ”にしては手頃な価格で手に入る。さらにこの個体は「カビあり」という理由で破格の値段だったため、購入したのである。
レンズにLEDライトで光を入れてみると、中玉のレンズ中央から周辺にかけて、白いカビがびっしりと付いており、かなりの重傷…。外観は綺麗だが、製造から約60年という年月は確実にレンズを蝕んでいた。最近はジャンクレンズを手にしていないこともあり、ある意味で新鮮でもある。

購入から約半年が経ったころ、このレンズが売られていたオーストリアを越え、パリへ撮影に出かけた。購入後はメンテナンスにも出していないが、フォーカスリングは非常にスムーズでピント合わせも楽々。とても心地良い。肝心の描写は中玉のカビが効いているのだろう、ふんわりとしており、絞ってもやわらかさに殆ど変化はない。しかし、このソフトな描写が、なぜかパリの風景にマッチしていた。 以前に描写のやわらかいアンジェニューレンズを持って、パリに来た時(連載第2回)と同じような感覚だ。やはり、パリには甘めの描写が合うに違いない。特に逆光時のハイライトの粘りは筆者好み。カビが生えてももともとあったレンズの持ち味はなくならないのであろう。色みは寒色で味気ない写真になってしまう。モノクロ時代のレンズなので色乗りは悪いのかもしれない。ホワイトバランスの色温度を高めに設定することで暖かみのある写真に仕上げた方が自然だ。

購入時は、鏡胴も綺麗なのでレンズクリーニングに出そうかと考えたが、このカビが想像に反し良い味わいを出してくれる。このレンズは逆光専用としてカメラバックの片隅に入れておこう。



早朝の散歩中、教会の前に駐車するバイクに目を奪われ撮影。ピント位置を見てみるとバイクの細かなディテールまで解像している。カビがなければどれだけシャープなのだろう。(ライカM9-P  f4  1/500秒  ISO160  WB:6000K)


カフェで新聞を読む紳士を綺麗な光が照らしていた。ハイライトのふんわりとした描写が何とも言えない。(リコーGXR MOUNT A12  焦点距離52.5mm相当  f3.5  1/850秒  ISO200  WB:6500K)


看板を見ている時に、通り過ぎるカップルが見えたので、すかさずシャッターを切った。ボケは大きくないが、そのぶん街全体の雰囲気を捉えるには適している。(ライカM9-P  f3.5  1/750秒  ISO160  WB:6000K)


上田晃司のここがたまりませんっ!

GXRのMOUNT A12にもLMアダプターを使用して装着してみた。コンパクトなレンズなのでサイズ的に収まりがよく、ブラックのボディともツートンカラーで格好いい。焦点距離は35mm判換算で52.5mm相当になる。


MOOK・オールドレンズの奇跡 好評発売中!


価格:1,575円(税込)
著者:上田晃司

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「手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。
時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる“奇跡”を見せる」本書では上田晃司氏が魅了された全26種のレンズを軸に、その入手方法やカメラとの組み合わせ、レンズが描いた描写を大きく取り上げ、オールドレンズの魅力を余すところなく紹介。
上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記