オールドレンズの奇跡
公開日:2013/11/25
ライカ Elmarit 28mm F2.8(1st)
photo & text 上田晃司
1stの象徴でもある鏡胴のくびれは非常に美しく、手によく馴染む。レンズの距離指標は黄色を採用している。
Lens data
●生産国:カナダ
●発売期間:1964〜1968年頃
●販売価格:1,999ユーロ(約210,000円)
●シリアル:2197872
●製造年:1966年頃
レンズが生まれた時代
このレンズの製造年は1966年(昭和41年)頃。全日空ボーイング727が羽田沖に墜落するなど大型旅客機による事故が相次ぎ、1年間で4件の大事故が発生した。人気絶頂であったザ・ビートルズが来日。日本公演の特別番組は視聴率56%を記録した。法務省の住民登録集計において、日本の総人口が1億人を突破した年でもある。
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この個体は傷が一つもない美品。レンズ面も46年前のものとは思えないほど美しい。長い間使われないまま保管されていたのだろう。レンズ構成は6群9枚。 | 後玉は大きく突き出ている。このためM9では測光部を隠してしまい、適切な露出が得られない。機種によってはセンサーとの干渉も起こるので注意したい。
| レンズにはライカM型の広角レンズ用フード12501が装着可能。装着すると、くびれた鏡胴のフォルムがさらに強調されて、その格好良さに痺れる。
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製造年の違いに夢とロマンとお金をかけてレンズ沼へ入水
すでにElmarit 28mm F2.8の2nd前期型を手にして、本連載(過去記事はこちら)でもご紹介した。その時は、2ndで満足していたつもりだったのだが、それが却って1stへの憧れを強くしてしまった。28mmの2nd前期型は外観だけを見れば鏡胴は同じものを使っているため、同じと言えば同じなのだが…そこを譲れないのが“レンズ沼”の住人なのだろう。
筆者はオーストリアのカメラ屋が3ヵ月に1度発行するメールマガジンを購読している。新規入荷のレンズリストが書いてあるのだが、そこに「Elmarit M 28mm F2.8 1st Mint(美品)」を見つけてしまったのだ。値段は1,999ユーロ(約210,000円)と非常にお高いが、日本の相場で美品クラスとなれば30万円は軽くしてしまう。そんなことを自分に言い聞かせて、2ndの前期型を下取りに出すことを前提に購入することにした。20万円超えの商品を衝動的に買ったのは人生初の出来事だ。
注文してから3日でオーストリアからレンズは届いた。オリジナルの箱も付いておりとても綺麗。鏡胴もスレなどはなくコレクターレベルだった。それに加え、レンズコーティングの美しさ、無限遠のストッパーの感触、ヘリコイドの滑らかさ、それは芸術品の域に達していた。筆者が海外から購入したレンズの中でも最も美しいレンズと言っても過言ではないだろう。すべてがパーフェクトだったのだ。
Elmarit 28mm F2.8の1stモデルは1964年から1968年の5年間だけ製造され、カナダ製とドイツ製が存在する。そしてレンズの距離指標の色には黄色と赤の2種類がある。これがまたマニア心をくすぐるのだが、最も人気のあるのはドイツ製で赤い距離指標のもの。しかし、筆者のレンズはカナダ製で指標が黄色。これだけの美品を相場より安く手に入れて、幸運としか言いようがないのに、既に気になりはじめている…。レンズ沼からは当分抜け出せそうにないのである(笑)。
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GXR MOUNT A12に装着すると42mm相当の標準域になる。f5.6まで絞るとレンズ周辺までシャープになり、現代レンズに負けないほどの解像感だ。(リコーGXR MOUNT A12 f5.6 1/2000秒 ISO200 WB: 5600 K)
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鯉魚門から霧のかかった香港島を撮影した。軟調に写るためか、夕日と霧の絶妙なトーンが表現された。しかし、画像等倍で見ると船やビルまでシャープに描写している。周辺の減光は目立つが個人的にはむしろ好みである。(ライカM9-P f4 1/250秒 ISO160 WB: 6300K)
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街灯に照らされる路面電車の広告に惹かれて撮影。絞り開放でもしっかりと描写し、ハイライトの部分はディテールがやわらかい。(ライカM9-P f2.8 1/45秒 ISO400 WB: 5000K) |
上田晃司のここがたまりませんっ!このレンズは後玉が大きく突き出ているため、一般的なミラーレス機に無理矢理装着するとセンサーなどに干渉してしまい、傷をつける恐れがある。しかし、GXR MOUNT A12であれば問題なく装着できる。レンズが軽いため、装着時のバランスも良く、見た目にもブラックボディとの相性が栄える。おすすめの組み合わせと言えるだろう
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著者:上田晃司
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「手に取れば物語を想像させるオールドレンズ。
時代によって培われてきた描写は、光学的に計算されたそれとは異なる“奇跡”を見せる」本書では上田晃司氏が魅了された全26種のレンズを軸に、その入手方法やカメラとの組み合わせ、レンズが描いた描写を大きく取り上げ、オールドレンズの魅力を余すところなく紹介。
上田晃司(うえだこうじ)
1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして 世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。
ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記 |