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ソニーα7 オールドレンズ・クロスレビュー

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ソニーα7 オールドレンズ・クロスレビュー
公開日:2014/01/07

萌えよホロゴン!(α7人柱編) Hologon T* 16mmF8

photo & text 澤村 徹


α7にGホロゴンは付くのか!?

昨年10月にソニーα7/7Rが発表され、ちょっとした悪巧みを思いついた。フルサイズミラーレス機なら、Gホロゴンが装着できるのではないか。しかも無改造のままで。ここで言うGホロゴンとは、コンタックスGマウントのホロゴン T* 16ミリF8のことだ。ホロゴン15ミリF8とはレンズ構成が異なるが、ドーム状の前玉が往年のウルトラワイドホロゴンを彷彿とさせる。コンタックスGレンズ唯一のドイツ製という蘊蓄も、マニア心をくすぐる要因だ。オールドレンズファンであれば、憧れレンズトップ10圏内にランクインする名レンズである。

Gホロゴンは人気の高いオールドレンズだが、デジタルカメラとの相性はお世辞にも良いとは言えない。Gホロゴンに限ったことではないが、対称型の広角レンズはバックフォーカスが短いため、デジタルカメラでは内部干渉のリスクが高いのだ。ではなぜα7/7RでGホロゴン装着を思いついたのかというと、α7/7Rがフルサイズイメージセンサーを搭載しているからだ。

Gホロゴンはバックフォーカスが短いことに加え、後玉の周囲にレンズガードがある。APS-Cセンサーのミラーレス機では、このレンズガードがイメージセンサー外周のフレーム部分と干渉した。これはGホロゴンのみならず、コンタックスGマウントのビオゴン T* 28ミリF2.8、そしてビオゴン T* 21ミリF2.8も同様だ。Gビオゴンの2本はレンズガードとフレームがかすかに触れる程度なので、自己責任で撮影するユーザーが多い。ただし、Gホロゴンは完全に干渉し、装着すらままならない状態だった。

しかし、フルサイズイメージセンサーの場合、レンズガードがフレーム部分に干渉しない。フルサイズイメージセンサーの短辺(縦方向)は23.9ミリ。Gホロゴンのレンズガード(後玉鏡胴)の直径は、ノギスを使った手動測定で23.7ミリだ。レンズガードの直径の方が短いため、フレームと干渉せず、イメージセンサーの上にスウッと下りていく。これでシャッター幕と干渉しなければ、晴れてGホロゴンを無改造のままミラーレス機で使えることになる。逆にシャッター幕とレンズガードが干渉したときは、ボディを壊すことになりかねない。試さずに妄想だけで済ますか。Gホロゴン無改造デジタルフルサイズ撮影一番乗りの称号を得て、オールドレンズ界のヒーローとなるか。世間ではこれを、人柱という。



コンタックスGマウントのHologon T* 16mmF8は、巨大なドーム状の前玉が圧巻だ。シルバーのレンズフードとフォーカシングレバーも美しい。

無改造ホロゴンでヒーローになる

その日は朝焼けがきれいだった。完徹で急ぎの原稿を書き終え、気持ちが高ぶっていた。今なら夜中に書いたラブレターでも、そのまま夜明け前に投函できる。それほど高揚していた。机の上に購入後間もないα7を置く。その横にキポン製のコンタックスGマウントアダプター、そしてGホロゴン T* 16ミリF8を並べる。今ならできる。オレはオールドレンズ界のヒーローになる。Gホロゴンにマウントアダプターを装着し、α7に取り付ける。予想通り、無干渉で装着できた。α7の電源を入れ、液晶モニターを見る。ライブビュー画面に広角16ミリの画が浮かぶ。窓を開け、朝焼けにレンズを向ける。躊躇なくシャッターボタンを押す。シャッターの金属音が心地良く脳天を貫いた。今日のブログタイトルは決まった。

「世界初、無改造ホロゴン・デジタルフルサイズ撮影に成功!」

これでいこう。カメラを上向きにしてもう一枚。目に浮かぶ、ブログのコメント欄が賞賛の声で埋まっていく様が。こりゃアクセス数うなぎ登りだな。ベランダに出て柵から身を乗り出す。カメラを下向きにして、オレンジに染まる街を液晶モニターに収める。三度目のシャッターを切ったその時だ。アルミ缶を握り潰したような音がした。

寝ていないのに、夢から醒めた瞬間だった。


醒めきった頭で状況を整理すると、カメラが水平状態および上向きでは干渉せずにシャッターが切れる。しかし、カメラを下向きにするとシャッター幕と干渉しているようだ。これは推測だが、重力、重力なのか!? 下向きにすることで重力がかかり、シャッター幕のわずかなたわみがレンズガードと干渉しているのかもしれない。また、手持ちのマウントアダプターおよびGホロゴンの組み合わせでは、無限遠が出ていなかった。Gホロゴンは絞りがF8固定なので、これ以上被写界深度を稼ぐことはできない。仮に内部干渉がなかったとしても厳しい状態だ。

ちなみに、このとき使ったキポン製のコンタックスGアダプターは、Gビオゴン21ミリおよび28ミリでは問題なく無限遠が出ている。レンズ側の問題も考えられるが、実は一点、気になることがあった。それはマウントアダプターのシャフトだ。コンタックスGはAFレンジファインダーカメラゆえに、レンズにピントリングがない。マウントアダプター側に小さなシャフトが飛び出していて、これがレンズ側の受け軸を回転させてピント調整している。しかしながら、GホロゴンはコンタックスGレンズ唯一のMFレンズであり、レンズ底面にピント調整用の受け軸がない。そのためマウントアダプターのシャフトがレンズ底面に当たってしまうのだ。

幸い、キポン製コンタックスGアダプターのシャフトはスプリングが組み込まれ、指で押す程度で上下に可動する。そのためGホロゴンの装着自体は可能だ。ただし、このシャフトを押さえ込んでいる以上、いくばくかのテンションがかかり、フランジバックに影響を及ぼしている可能性も捨てきれない。こうした考察は推測の域を出ないものの、下向きでのシャッター幕干渉、そして無限遠が出ないという状況には変わりない。Gホロゴン無改造フルサイズ撮影で、オールドレンズ界のヒーローになる夢は潰えたのだった。





Biogon T* 28mmF2.8にコンタックスGマウントアダプターを付けた状態。レンズガードと後玉がかすかに飛び出している。NEX時代はこのわずかな飛び出しが干渉の原因になっていた。
Hologon T* 16mmF8にコンタックスGマウントアダプターを付けると、明らかにレンズガードと後玉が飛び出している。まっとうな神経の持ち主なら、この状態でα7/7Rに付けようなどとは思わない。
キポン製のコンタックスGマウントアダプターはピント調整用のシャフトが飛び出している。このシャフトはスプリングが組み込まれ、指で押す程度で上下に動く。
AF仕様のコンタックスGマウントレンズは、マウント面にシャフトの受け軸がある。ここにマウントアダプターのシャフトがはまり、ピントを調整する。


GホロゴンはMFレンズなので受け軸がない。そのためマウントアダプターのシャフトをレンズのマウント面で押さえ込むことになる。テンションがかかり、フランジバックに若干の影響があるかもしれない。



Mマウント改造でリベンジなるか!?


Gホロゴン T* 16ミリF8は、16万円後半が最近の相場だ。α7本体も合わせると、30万円程度の買い物になる。これだけの大金をかけ、「ハイ、撮れませんでした」では終われない。虎穴に入らずんば虎児を得ず、と言うではないか。禁断のマウント改造に手を付けることにした。まず、Mマウント改造を施し、確実に無限遠撮影できる状態にする。その上でレンズガードを削り、シャッター幕との干渉を回避しようという作戦だ。今回、これらの作業をMSオプティカルに依頼した。

実のところ、GホロゴンのMマウント化はポピュラーな改造で、特にライカファンの間では有名だ。デジタルM型ライカでは周辺部にマゼンタかぶりが発生するものの、撮影自体に何ら支障はない。問題はレンズガードを削ってα7で使うという点がリスキーであり、相も変わらず人柱なチャレンジなのだ。

今回、レンズガードを1.2ミリ削ることにした。レンズガードをたくさん削ればシャッター幕と干渉せずに済む。ただし、Gホロゴンはピントリングを無限遠方向に回すと後玉が後方に移動する。つまり、削りすぎると無限遠近辺で後玉がレンズガードから飛び出してしまうのだ。これは干渉が発生した際、後玉とシャッター幕が直接ぶつかることを意味する。この事態は極力避けたいところだ。実のところ、1.2ミリ削った状態でも無限遠位置では後玉がレンズガードからわずかに飛び出してしまう。幸い、GホロゴンはF8固定で被写界深度が深いので、ピントリングを1メートルにセットすれば、0.5メートル程度から無限遠までピントが合う。ピント位置が1メートルならレンズガードの内側に後玉があり、干渉しても後玉直撃は避けられる計算だ。

改造GホロゴンにライカMマウントアダプターを取り付ける。マウントアダプターの底面からレンズガード先端までをノギスで測定すると、その長さは10.6ミリだ。α7のマウント面からシャッター幕までの長さが10.6ミリ以上なら、干渉せずにシャッターが切れる。10.6ミリ未満だと……いや、先のことは考えまい。

α7にマウントアダプター付きのGホロゴンを装着する。フォーカシングレバーに指を添え、ピント位置を1メートルにセット。α7の電源を入れ、ライブビューで無限遠をチェックする。今度はちゃんと無限遠にピントが合う。カメラを水平にかまえ、シャッターを切る。上向きにしてもう一度シャッターを切る。ここまでは問題ない。カメラを下向きにする。シャッターボタンに指を添える。大きく息を吸い、鼻からゆっくりとはく。あのアルミ缶を握りつぶしたような音が脳裏に甦る。シャッターボタンを押し込む勇気がわいてこない。指先がかすかに震える。α7のシャッターは思いのほかセンシティブだ。意を決する間もなく、金属音が響く。情けないことに、指先の震えでシャッターが切れていた。


そう、シャッターが切れた。

カメラを下向きにした状態でシャッターが切れていた。Gホロゴン付きα7をまじまじと見る。Mマウント化、レンズガード加工という非可逆改造を経て、ついにα7とGホロゴンの組み合わせでシャッターが切れた。近所を撮り歩き、帰宅してすぐさま画像をチェックする。マゼンタかぶりと周辺減光がきつい。しかし、ちゃんと無限遠にピントがきている。オールドレンズ界のヒーローには慣れなかったが、オールドレンズ番長ぐらいには昇格しただろうか。任務完了。α7のレンズ着脱ボタンを押し、マウントアダプターごとレンズを反時計回りにまわす。ボディからGホロゴンを取り外したとき、衝撃的な事実が待ち構えていた。

レンズガードの先端から、地金がのぞいている。

レンズガードを削ったあと内面反射防止のために黒く塗装してあったのだが、その塗装が剥がれ、地金が生々しく輝いていた。これが意味することは、シャッター幕の干渉だ。干渉しているにも関わらず、ばしばしシャッターを切っていたことになる。知らぬがホトケ。意識がお花畑を浮遊する。途切れそうな正気をつなぎ止め、その原因を考える。干渉しながらも撮影できていたということは、おそらくゼロコンマ数ミリの差でシャッター幕がレンズガードをかすっているのだろう(誰かスケルトンのα7を作って確かめてくれ!)。もう少しだけレンズガードを削れば、干渉を回避できるかもしれない。しかし、これ以上レンズガードを削ると、ピント位置1メートルでも後玉が露出する可能性がある。シャッター幕が後玉をかすめる様子を思い浮かべる。天使の瞳のようなあの美しい球面を、シャッター幕という名の死神の大鎌が、黒い風とともにかすめる様を。無理だ、これ以上の危険は犯せない。ここで心が折れた。

非オリジナルボディはリスクをともなう


ミラーレス機の登場で、様々なマウントのオールドレンズがデジタル環境で息を吹き返した。しかしながら、対称型を採用したバックフォーカスの短いレンズ(ホロゴン、ビオゴン、スーパーアンギュロンなど)は、内部干渉の可能性が高く、運用に細心の注意が必要だ。製造年代による微妙な差異、レンズコンディションによる個体差。それらを無視して装着事例を鵜呑みにすることはできない。非オリジナルボディでのオールドレンズ撮影は、多かれ少なかれリスクをともなうのだ。そしてそのリスクが、甘美な匂いを醸しているのもひとつの事実なのだが。

前人未踏の栄誉か、人柱としての死か。この世にカメラが誕生して以来、どれほどの人柱が大地を埋めたことだろう。ここに一体、新たな屍を捧ぐ。




F8固定のレンズなので、1メートル程度にピントを合わせると、無限遠から近接まで被写界深度内に入る。レンズガードを削った際は、後玉先端が飛び出さないようにピント位置に気を配りたい。
黒く塗ったはずのレンズガード先端から、地金の色が見え隠れする。内部干渉の動かぬ証拠と言えるだろう。シャッターが切れたからといって過信は禁物だ。


未練がましくα7にGホロゴンを装着して製品撮影してみる。本来はこの姿で使いたかった。ライブビュー表示は可能なので、動画専用で使うという手が残されている。



α7 + Hologon T* 16mmF8(Mマウント改造)
絞り優先AE F8 1/320秒 ISO100 AWB JPEG
シャッター幕をぶつけながら撮った貴重なGホロゴンの作例だ。中央部のシャープネスは驚くほど鋭いが、周辺減光とマゼンタかぶりはかなり顕著だ。



Mマウント改造したGホロゴンは、現在ライカMタイプ240で愛用中。周辺部にマゼンタかぶりが発生するものの、歪曲の少ないシャープな画が撮れる。

※以上の記事は澤村徹が所有するレンズおよびマウントアダプターでの装着事例です。レンズおよびマウントアダプターの個体差などにより、結果が異なる場合があります。

<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


アジアンMFレンズ・ベストセレクション



オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド



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