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ショップヒストリー

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ショップヒストリー
〜店にカメラあり、人に歴史あり〜
中古カメラショップは、ショップによって特色があり、個性的なお店が多く存在します。新品のみを扱うチェーン店と違い、創業時から家族で経営されていたり、長年に渡って働くスタッフがいることが理由かもしれません。
ここでは、ショップの経営者やスタッフに過去のお店にまつわる様々なエピソードを聞いて、ショップが辿ってきた道と、そこで働く人にスポットを当ててみます。お店にはカメラという商品だけではなく、人の歴史があるはずです。
公開日:2014/11/26

千曲商会

photo & text 大浦タケシ
千曲商会の木鋪社長(右)と村山さん(左)

創業は横須賀、進駐軍相手に商売をはじめた

東京都台東区東上野に店舗を構える千曲商会。都内デバートを中心に開催される中古カメラ市でその名を知る読者もいることだろう。創業は1946年(昭和21年)。終戦直後の横須賀市である。今回、お話を伺った同社社長・木鋪(きしく)俊一氏の父親である木鋪勲氏が開業した。横須賀に店舗を構えたのはいうまでもなく進駐軍を相手にしてのこと。戦時中、旧日本海軍の写真班に配属されていた経験を活かしての開業であった。


お話を伺った千曲商会 代表 木鋪俊一氏

「当時扱っていたカメラは主に国産スプリングカメラでした。ただ、どちらかといえばお店はDPE(現像・焼き付け・引き伸ばし)がメイン。フィルム現像と紙焼きなどの作業は、お店から一段上がった畳の部屋で行っていましたが、よく進駐軍がクツを履いたまま上がりこむことがあったようです」と木鋪氏は笑う。


終戦直後、横須賀で開いた店舗の写真。ショーケースのなかにはスプリングカメラのほか二眼レフや三脚なども見える。お店のイスに座りこちらを見ているのは現社長。

開業当時の写真を見せてもらったが、木造店舗のショーウインドウにはスプリングカメラなどが並び賑やか。店頭に止めてあるラビット(スクーター)の後には幼き頃の木鋪氏の姿も見受けられる。
1953年(昭和28年)、東京都台東区御徒町に店舗は移転する。同時に輸入カメラ専門店として「千曲商会」の名で営業を始める。取り扱うカメラはカール・ツァイス、ライカ、ローライなどいわゆる舶来高級ブランドである。当時まだ一般的でなかったハッセルがないことを除けば、すでにこの時代から千曲商会の取り扱うカメラは変わっていないと言ってよいだろう。特にカール・ツァイスについては先代のお気に入りであったため、ヤシカがコンタックスブランドを発売する際はメーカーから直接仕入れできるように特約店契約を締結するなど、京セラが販売を終了するまで特に力を入れて扱うことになる。



中学時代にはすでにライカM3を愛用していた木鋪さん。上野・浅草・秋葉原界隈のみならず、中古カメラ業界全体の発展を願っている。

ライカ M3を持って修学旅行へ

木鋪氏が幼いころから舶来カメラに慣れ親しんでいることを表すエピソードがある。中学時代、修学旅行をきっかけに先代より沈胴ズミクロンを付けたライカM3を与えられたのだ。
「父は私に、カメラのことは理屈でなく、体感して慣れてほしいという願いがあったんでしょう」と木鋪氏は話すが、何と羨ましい環境だろうか。

1972年(昭和47年)輸入規制の緩和により、以前に増してさらに率先して海外よりカメラ、交換レンズを仕入れるようになる。同時に、都内のカメラ店数社とともに発起人となり加盟店を募り、I.C.S輸入カメラ協会を設立。以後、現在まで続く中古カメラ市などを開催するようになる。



現在の千曲商会の取扱商品。ライカのほかハッセル、コンタレックス、ローライ、京セラコンテックスなど充実。先代の社長時代は特にカールツァイスレンズの使えるカメラに力を入れていたという。

年貢の納め時〜千曲商会を継ぐ

ちょうどその頃、木鋪氏は横浜市にある東京総合写真専門学校を卒業し、映画関連の仕事に従事する。ちなみに現在、千曲商会ではアリフレックスやボレックスなどムービーカメラも扱うが、これは現社長が映画制作に携わってきた経験からである。「当時のカメラ店の息子が家業を継ぐパターンとしては、関東の店の息子は関西の店に、関西の店の息子は関東の店に就職させるのが一般的であったので異例でした」という。

そして1977年(昭和53年)、「年貢の収め時」と感じ、家業を継ぐため千曲商会に入社する。最初は未熟さえゆえの失敗もあったという。あるときお店で撮影旅行を催したのだが、お客にタバコの火を付けてあげようとライターを差し出したところ、「100円のライターでお客の火を点ける奴がどこにいるか!」と怒られてしまったのである。「当時のお店に集う客層をよく理解していなかったのです」と笑う。


2000年頃。丸井上野店の近くにあった店舗。

1997年(平成9年)、店舗を上野駅前に移転。そして2003年(平成15年)現在の場所に店舗を構え現在に至る。横須賀時代を含めると今年は創業から何と68年目となる。ちなみに同ショップでこれまでで、もっとも売れたカメラは「ライカ M6」。露出計を内蔵し、長年に渡り製造されてきたことが理由だという。


地域のカメラ店のために〜
下町カメラ店D・T・C(Down Town Camera-shopmap)


ところで、上野・浅草・秋葉原界隈のカメラショップが記された手書きの地図をご存知だろうか。「下町カメラ店D・T・C(Down Town Camera-shop)マップ」と称するマップは、木鋪氏が書き起こしたもの。そこには客との繋がりをカメラショップ全体として大事にしていきたいという思いとともに、他のカメラショップを商売敵と見るのではなく、互いにコミュニケーションを図り、この業界が発展していければという思いが込められたものである。

2012年スカイツリー開業の年に作成されたD.T.Cマップ


木鋪氏手書きの周辺のカメラ店を記した地図「下町カメラ店D・T・C(Down Town Camera-shop)マップ 」
これを複写したものを掲載店舗に配った。*写真の地図は撮影当時のもので、現在閉店済みのお店もある。

「当店のみならず、この地図に掲載する他のショップに置いてある場合もありますので、手に取って近辺のお店を回遊してもらいたい」と木鋪氏は話す。

「間口は狭いが、誇れるカメラを取り扱う」という先代の言葉を引き継ぎ現在に至る千曲商会。舶来カメラに興味ある写真愛好家はぜひ一度お店に足を運んでみるとよいだろう。



現在の千曲商会の店内

ショーケースの中にところ狭しとぎっしりと並ぶ“舶来カメラ”。国産のフィルムカメラも扱っているが、千曲商会ではマイノリティの商品である。



【ショップ情報】

千曲商会
〒110-0015 東京都台東区東上野3-19-15
TEL:03-3833-1037
営業時間:平日10:00〜18:30
月末の日曜日のみ 10:00〜17:00
定休日 :月末を除く 日曜日(年内12/30まで無休)

ショップ情報:
http://camerafan.jp/chikuma/

千曲商会の掲載商品:
http://camerafan.jp/chikuma/itemlist.php

ショップサイト:
http://www.chikuma-camera.jp/
 著者プロフィール
  大浦タケシ(おおうら・たけし)

宮崎県都城市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。紆余曲折した後、フリーカメラマンとなり、カメラ誌、Webマガジン等でカメラおよび写真に関する記事を執筆する。中古カメラ店巡りは大切な日課となっており、”一期一会”と称して衝動買いした中古カメラは数知れず。この企画を機に、さらに拍車がかかる模様。2006年よりカメラグランプリ選考委員。