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カメラアーカイブ

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カメラアーカイブ
巷に溢れる新製品情報。そんな情報の波に埋もれてしまっている魅力的なカメラたちがある。メーカー開発者たちが、心血を注いで創りだした名機の魅力を蓄積していく。
公開日:2017/04/04

伝説のカメラ オリンパス Mシステム MDN〜 開発者インタビュー

text & Interview 赤城耕一

オリンパス MDN開発者メンバーの一人で、オリンパス元顧問の下山邦夫氏
Photo:CAMERA fan編集部

MDN開発当時、米谷美久さんの部下としてMDNをはじめとするMシステムの設計開発にあたった、オリンパスの元顧問・下山邦夫さんにインタビューを行い、当時の様子を伺うことにした。


インタビュアー:赤城耕一

───最初から米谷さんと一緒だったんですか?
下山 私は58年の入社でカメラ設計部に配属されましたが、ちょうど米谷さんは諏訪の工場にいて、そこから戻ったところでした。



───米谷さんの肩書きは?
下山 肩書きはないんですよ。でも米谷さんは入社時から社内でも有名人で。

───それはなぜですか?
下山 すでに学生時代から特許を出願していたりしていたので有名人なわけです。当時のオリンパスのカメラ開発部長の桜井榮一さんにスカウトされたのです。桜井さんによれば米谷さんは「カメラを設計するために生まれてきた男」と(笑)。

───それはすごい!このMDN開発の経緯は?
下山 1969年でした。ペンを始めとするハーフサイズカメラの売れ行きに陰りが出てきたので、35mm一眼レフをやれとの営業からの強い要望に応える必要がありました。



───最初からこれだけ壮大な構想があった?
下山 米谷さんをはじめ、当時のカメラ設計チームは10人くらいだったかなあ。自分のアイディアを持ち寄ることなって。できるだけ他社とは違う構想のものを作ろうとしたけど、結局他社の一眼レフカメラと同じようなアイディアしか出てこない。最後に米谷さんが、自分の構想を開示したんですね。



───それがMDNをはじめとするMシステムという
下山 そうです。びっくりしましたね。他の会社と同じカメラを作ってどうするんだと。

───すごい構想ですね
下山 そうです。それから試作を少し作ってこれは大変なことだぞと。


瑞古洞に展示されている「Mシステム設計方針」

───設計は米谷さん一人で考えた?
下山 いや各人が手分けして。各ユニットを組み合わせた時、確実に動作するかとか、試作してもどんどん難問が出てきて。




MDNのシャッターダイヤルは、ボディマウント部にある


───小型軽量であることも目標だった?
下山 ユニットを組み合わせるという技術を使えば、各部は小さくできるのではという考え方です。MDNのシャッターダイヤルの位置はMDS(M-1の試作機)にも活かされています。



フィルムバックを開いたところ

───ユニットを組み合わせるというのはタイヘンな精度が必要となりそうです。当時のカメラだとメカニカルでしょうから、歯車が組み合わされたものだし。フィルムの給送もたいへん。そのユニットを緻密に合わせ込むわけで、素人考えでも量産できるのかしらと
下山 はい。精度を満足するのは大変ですね。フィルムの給送にしても複雑にフィルムを折り曲げなければならないので、平坦性の問題が発生しました。

───フィルム巻き戻しは自動化されていない?
下山 そうですね。ワインダーはありましたが、手巻きです。

───TTLメーターは内蔵されていない?
下山 ファインダー内に入れたものを用意しています。


MDS M-1(のちのOM-1)

───こののちのM-1になるMDSは少し異なる発想ですね
下山 最も使用頻度の高い機能を組み合わせたカメラは一台は必要だろうということで。Mシステムのはじめから米谷さんにはこの構想があったのです。

───それは素晴らしい。スタンダードモデルというか。結局は、MDS(M-1)の開発が先行されてしまいます
下山 とにかく営業の方からどうしても早く、一刻も早く35mm一眼レフが欲しいという強い要望がありました。MDNはまだまだ時間がかかりそうだったのでMDS(M-1)の開発を先行させましょうということになりました。


Photo:赤城耕一

───MDSはライカIIIfとボディの底板のサイズが同じですが、これは意図的な設計なのでしょうか?
下山 設計的にサイズを突き詰めてゆくとこのサイズになるということは最初からわかっています。
───米谷さんはたまたまそう(IIIfのサイズに)なったとおっしゃっていました。
下山 そうですね(笑)

───メーターのユニットはISO感度ダイヤルの中に置くと。このために小さくできた。AE化も視野に入れていた?
下山 絞り優先AEは最初から視野に入れていました。絞りを先に決めたAEなら大丈夫だろうと。

───同じ大きさのままOM-2が出てきたのは感動的でした。OM-1が大きな成功をおさめたことで、MDNの構想はそのまま立ち消えに。米谷さんは言わないでしょうけど、他の設計者はホッとしたとか(笑)
下山 それは米谷さんは言わないでしょうねえ。


MDN用 交換レンズ M-SYSTEM F.ZUIKO AUTO-S 50mm F1.8
M-1用のレンズと違い、マウント側の左右に着脱用ボタンがある

───OMマウントでもレンズ側に着脱ボタンがありますが、ペンF時代からの物を踏襲しています。プレビューボタンもレンズ側にある
下山 レンズのボタンを押すだけで片手で(レンズが)外れるから便利だと。ただ、ペンFの着脱ボタンとプレビューボタンの位置関係とは逆ですね。


───フォトキナで、ライツからM-1のネーミングにケチをつけられて「OM-1」に改名されます。今はもっと名前の似たカメラがあるのに(笑)
下山 その時には私もいて、ライツの人と米谷さんと一緒に話をしました。米谷さんは「それなら変えましょう」とあっさり認めて名前がOM-1になりました。

───この「M」は米谷(MAITANI)の「M」であるという都市伝説がありますが
下山 はっきりしていませんけれど。そういう人もいますね(笑)



───デジタルカメラならばフィルムの給送は必要ないし、各部は電子化されているし、EVFもあるし、一眼レフではなくミラーレスならば、MDNは当時よりも簡単にできそうです。いま米谷さんが生きていたら、デジタルカメラはどうなっていたでしょう?
下山 そうですね。聞きたいですねえ。構想を。でもね、米谷さんは自分の考えは、絶対にはぐらかすんですよ(笑)


Photo:赤城耕一
 

オリンパス 瑞古洞




オリンパス技術歴史館「瑞古洞」
住所:〒192-8507 東京都八王子市石川町2951
オリンパス株式会社技術開発センター石川内
開館時間:10:00〜17:00 (最終入館は閉館30分前まで)
休館日:土・日・祝日・年末年始および会社休日
入館料:無料
見学申込:予約制(電話:042-642-3086)
お電話にてご希望の日時をご予約ください。説明員が基本プログラムに沿って館内各ゾーンをご案内いたします。ご案内時間はおおよそ60分となりますが、調整できますので、ご予約の際にご相談ください。館内で写真撮影はできません。
ウェブサイト:
http://www.olympus.co.jp/jp/technology/zuikodo/about/index.jsp



【企画展】
『オリンパス一眼レフの夜明け前』
M-1(OM-1)の前身としてのシステムカメラ:MDNの開発・試作
会期:2017年3月1日(水)〜2017年8月31日(木)
http://www.olympus.co.jp/news/2017/an00289.html


 
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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