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写真家が選ぶ、今使いたいフィルムカメラ5選

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写真家が選ぶ、今使いたいフィルムカメラ5選
公開日:2019/01/22

赤城耕一が推す5つのフィルムカメラはブラックボディ尽くし!

photo & text 赤城耕一

フィルムカメラの趣味は、新しい時代に入りました。
それは、デジタルカメラと比較する時代は終わって、フィルムならではの表現を追求したり、機械としてのカメラの魅力を楽しむ時代です。販売されているフィルムが豊富にある今、もっとフィルムカメラを使った撮影を楽しみませんか?
この連載では、“作品制作にフィルムカメラを使っている写真家”がオススメする機種をご紹介します。


 

キヤノンFTb

 FTbブラックボディは、F-1の「虎屋の羊羹」的な厚みがあって良いですなあ。布幕横走りのフォーカルプレーンシャッターの動作音は小さくはないが、耳への響きがいい。中古市場では全く人気がないので廉価だけど、若い人にはぜひFDレンズの描写を味わってほしいものだ。

キヤノンFTbは機種名からみれば、前機種FTの後継機という立ち位置だけれど、FTの時代のキヤノンにはフラッグシップ機な役割を担うカメラは存在しなかったので、FTが事実上のキヤノン一眼レフの代表格だったわけね。

FTbは絞り込み測光から開放測光へ舵を切ったフラッグシップのキヤノンF-1の弟分にあたる。いまふうにいえばミドルクラスということになるのだろうか。
FTbはフルメカニカルのカメラだし、TTL部分測光を採用しているし、姿カタチはフラッグシップ機のキヤノンF-1とは異なるけれど、スペック的には「F-1ジュニア」と名乗っても良さそうなスペックであることはたしかなんだよね。あ、モードラつかないとジュニアと名乗るのはダメですかね。

ボディカバーは真鍮製だしそれなりに重たいけれど、作り込みは立派なものだ。布幕横走りのフォーカルプレーンシャッターもそれなりの音を響かせて走行します。ただ、ミドルクラスでもコンパクトなサイズとは言い難い。
キヤノン独自のQL(クイックローディング)機能を採用し、ビギナーでもフィルム装填を失敗しないように工夫されている(往時のカメラで一番むずかしいのはフィルム装填かもしれんのだ)けど、フィルムの種類によっては先端部が強くカーリングしていることがあり、ここをQL部分に置いて、そのまま裏蓋を閉めるって結構難儀することがあるんですぜ。
TTL部分測光はファインダー中央の暗く陰りのある箇所を測光するわけだけど、Cdsのまったりとした反応速度なこと、追針式の連動のために私的にはなんだか使いづらい。だから例のごとくでバッテリーは抜いて、メーターなしのカメラとして使っている。

まったくの記憶だけが頼りで書いてしまうけどキヤノンFTbは「若者の一眼レフ」みたいな売り方をしていたような気がする、実際に販売当時は中学生だった私はこういうキャッチフレーズに逆に反発して、「プロの手に」という思想のはっきりしたキヤノンF-1に惹かれてましたね。なんせブラックボディだけだしさ。だからFTbの立ち位置はプロがサブカメラとして使わない下層部に位置していたのかもしれん。実際にはどうだったかは知らないが、プロのサブ機として活躍しました。って話も聞こえてこなかった。たとえばF-1を手にしたカメラマンが、広角レンズを装着したFTbをサブ機として、首からぶら下げていた、なんていう写真は見たことがない。

同時代のニコンのニコマートFTNなんかはベトナム戦争の従軍カメラマンがサブカメラとして使っていたのにね。
不遇のカメラというわけでないのに、あまり伝説が聞こえてこないというのは損をしているけど、どうなんだろう。もっともこれからのFTbユーザーが伝説を作ってもいいんですぜ。
FTbはのちに部分改良され、シャッター速度がファインダー内で見えるようになったり、セルフタイマーレバーが細身のものになって、New FTbに進化するけど、まあ大した違いはない。


 

ニコン S3 2000

S3ミレニアムのブラックボディ。オリジナルのS3ブラックは1965年に発売されているが、シャッター幕がチタン製になっているなど仕様が異なる。オリジナルのS3ブラックは価格が下がったとはいえ、まだまだ使うのに躊躇する価格なので、実用派はミレニアムを選択したほうが幸せになりそうである。

ニコンがS型ニコンを復刻するというにわかに信じがたい話が聞こえてきたのは、1999年あたりだったかその前か。この年には地球は滅亡するはずだったのに、ニコンはD1を出して、デジタル一眼レフの先駆的なメーカーとなった。

1958年に登場したニコンS3の復刻が現実のものとなったのは2000年か。通称ミレニアムS3である。当時「アサヒカメラ」の取材でニコン水戸工場に組み立ての様子を取材に行ったんだけど、ニコンの古いカタログに載っているような組み立て工程が本当に行われていることにけっこう驚いた記憶がある。シャッターも自家製造だったからだ。組み立てにあたっては、古い設計図面を元にして、一から部品を製造するというすごいプロジェクトだったわけだけど、ニコンの話では技術継承みたいな意味もあったと思う。なんせ、ニコンを退職したOBまで手伝いに来てたしね。

出来上がったS3に対しては往時のオリジナルモデルと比較されていろいろと気の毒な感じがした。やれメッキが白すぎだとか、「Nikon」の文字の位置が上すぎるとか、巻き上げレバーのデザインがS3オリンピックのものだとか、なんだか面倒くさい。私などは「購入して調整不要で、そのまま実用に使えるS型ニコン」という認識をもって、このミレニアムS3をみてましたね。
中古市場ではこのミレニアムS3の評価って悲しいくらい低い。ついでに用意されたガウスタイプの標準レンズのニッコール50mmF1.4も評価が低い。このレンズはS3の通称オリンピックと呼ばれるブラックボディに装着されるのが時代的に正しいということらしいのである。なんだか面倒くさいよね。

早い話がコレクションと実用のはざまに置かれたS3ミレニアムはなんだかかわいそうでしたが、私などはコレクションとかには無縁だから手に入れてからガシガシ撮影しました。それまで所有していたボロニコンSPとか、S2よりも信頼度が高い動作をしたからである。のちにこのミレニアムモデルにもブラックボディが発売され、ミレニアムでもなんでもないのに、ニコンSPまで復刻されてしまう。しかもブラックとゆー。あのさ、水戸ニコンで当時、「S3ができるなら、SPだってすぐに復刻できるんじゃねえの?」という私の質問を当時のニコンの担当は一蹴しました。「あのファインダーは作れません」と。なんだよ、結局SPも復刻しちまったじゃねえかよ。あれれ、記念もクソもないのに復刻するって思想の揺らぎぢゃねえのか?

ちなみに2005年に登場する復刻SPはブラックボディのみで、S3ミレニアムもブラックのものが登場するのだが、シルバーのS3ミレニアム、クロームメッキが白すぎちゃうので、今から購入するならブラックの方がいいですぜ、間違いなく。



ペンタックス SL

メーター内蔵のカメラはクラシックカメラの場合は人気がないことが多い。メーターが動かないと、いらないものを背負わされている気分になるからだろうか。ちなみにSLの場合はSPと比較して人気が高いということはない。元々は大衆機というイメージがあるので、コレクションとしては珍重されていないということなのだろう。

ペンタックスSLはSPからメーターを省略したモデル。普及機ともいえるけど、あのSPの使いづらい絞り込み測光のTTLを本気で使っている人ってどのくらいいるのかなあ。絞り込み測光とか、スイッチ入れるとファインダー暗くなるのとかイヤじゃない?最も私はプレビューのためにこのスイッチを使っているだけですねえ。

うちにも何台かSPがあるが、たまにバッテリー入れて指針の動き具合を見たりはするけど、普段はバッテリーは抜いて使っていますね。漏液とかするとがっかりするし。
先に結論をいうなら、どうせTTLメーターなんか使わねえんだからSLでいいんじゃねえの。という話をしたいわけです。でもね、SPのタマ数に比較してSLは少なめですね。SPのTTLメーター内蔵でエラかったんでしょうねえ往時は。ちなみにSLに外部装着のメーターとかつけるとSPよりも割高になったんじゃないのかなあ。

少し少ないとはいえ、中古市場で売られている金額は安いです、SLは。最近程度の良いものが少なくなってきたのは気になりますが。とくにブラックは少ない感じしますね。
往時のカメラ雑誌をみると、広告や年度の違いとか、その時々でSLのブラックの価格表示があったり、なかったりするのですが、これはブラックの生産を気まぐれにやっていたからなんでしょうかねえ。テキトーだなー。

SPやSLって、カメラ修理の新人のために使われるカメラだと聞いたことがあります。本当かどうかは知らないけど、でもきちんと調整されたSLは巻き上げレバーとか感動的に軽いですよ。シャッター音も軽やかなんだよね。ジャンクコーナーで、汚いSPを千円で買ったあなたには信じられないでしょうけれど、びっくりです。
あ、そうだ。SLにはあたりまえだけど、メータースイッチがないので、プレビューするにはレンズ側の自動/手動の絞り切り替えを行うA-M切り替えレバーを使うしかない。これがすげー使いづらい。

しかもペンタックスのタクマー以外のM42マウントレンズにはA-Mレバーのないものがあるので、それらのレンズを使う場合にはプレビューすることができませんなあ。これがSLの欠点かな。
ま、そんなにプレビューなんかしないよね。ファインダースクリーンに投影される像って実際の被写界深度と違うからそんなに厳密に観察しないでしょ?するの?



 

ミノルタ SRT101

SRT101は人気のない一眼レフなので、赤ちょうちんで一杯くらいの価格で購入できたりする。重たいし、シャッター音はでかいけど、かなり頑丈なカメラで、のちのミノルタ一眼レフの軟弱な作りから見ると褒めてあげたい存在。ガシガシ使いましょう。

ユージン・スミスさんをご存知ですか?第二次大戦中から活躍した偉大な報道写真家ですが、この度映画化されて、主演はジョニー・デップだそうです。すげー。
ユージンは、来日した際に持参したライカ一式を盗まれてしまいます。治安悪いぞニッポン。ま、ユージンは怒らない人だったそうなんだけど、カメラがねえと写真撮れないじゃないすか?で、そこに手を差し伸べたのはミノルタですよ。粋だぜ。で、自社の一眼レフを用意したわけですね。その代表格カメラはミノルタSRT101とか上級機のSRTスーパーだったわけです。

SRT101の特徴は世界初の分割測光を装備していたこと。大胆にも2分割だぜ。なんで2分割といえば、空からの影響を受けづらいからだと。じゃあ、空を画面内に入れないフレーミングをしたらどうなるのか、縦位置に構えるとどうなるのさという疑問も出てきますねえ。知らんよ、メーターの精度とかアテにしてないし。
あ、SRT101にも電池入れるの稀ですね。あの電池の底蓋とか開けたり、ダイヤル式のスイッチを入れたり切ったりするのが面倒ですしね。

で、SRT101のシャッター音はデカいですね。これは覚悟が必要で、スナップなんかでは注意せねばなりませんが、撮った気にさせる満足感あります。ホントか?
あとね、ファインダーは少し暗くて、マット面のピントの山が見づらい。このあたりにケチつけられたからミノルタはのちにアキュートマットを開発しちゃうんですかねえ。
SRT101用に用意されたMCロッコールは個人的に入れ込んだ想いのあるレンズ群でどれも好きです。コーティングの色を称して「緑のロッコール」とか呼ばれカラーの再現性が良いとかなんとか言われましたが、私が試した限りでは、そこに特別の意味はないですね。
と、色々と悪口は出てくるのですが、実は好きなわけですSRT101。照れ臭いので褒めづらいわけです。身内みたいな感じですな。

ちなみにうちにあるSRT101のうち一台は巨匠 大倉舜二先生の形見カメラなのです。大事です。お亡くなりになる前年でしたか、先生から電話かかってきて、「キミはミノルタ好きだったよな?」と言われて、もちろん嫌いだとか興味ないとか返事できるわけもなく、気づいたら私の手にMCロッコール58mmF1.2つきのSRT101はありました。お礼の電話をすると「その58mmってのが良いんだよ?キミならわかるよな?」と言われました。もちろん「はい。良いと思います思います。」と返事をしました。
SRT101はSR101にSRスーパーはSR505というのにのちに改良されますけど、基本的には似たようなものです。SR101にはホットシューついたんでしたっけか。男なら(女性でも)元祖SRT101を使いましょう。



 

ヤシカ FX-3 スーパー2000

最近はコンタックス一眼レフ全般は人気がなく、中古市場でも廉価なので、本機の存在感が逆に薄れてしまった。もっとも価格的なアドバンテージというよりも、ヤシカコンタックスマウントを装備したフルメカニカル一眼レフという考え方をしたほうがいいかもしれない。小型軽量で使いやすいし。

もうしばらく経つと、京セラがカメラ事業をしていたということが忘れ去られるのではないかと。ちなみにヤシカというカメラメーカーが新しい「コンタックス」ブランドの一眼レフシステムを作ったのだけど、ヤシカは京セラに吸収合併されちゃうわけ。で、京セラものちにカメラ事業を辞めてしまうんだけど。

「ヤシカ」「YASHICA」はブランドとして京セラ時代にも使われていて、コンタックスと互換性のあるシステムとして構築されていたわけ。なんかレンズとか焦点距離が重複するのにムダな感じがするけど、世界規模で考えるとツァイスは高すぎだぜ、って意見も多くて、地域によっては、ヤシカは有名だったという話も聞きました。
で、このヤシカFX-3 スーパー2000だけど、おそらくベース機はコシナCT-1ですね。となると、OEMだろうけど、もちろん京セラも、コシナも認めるわけもないけれど。

仕様としては、その名の通り最高速シャッターは2000分の1秒まであるというのがウリだったのかしら。珍しくもなんともないけど。外装はエンジニアリングプラスチックですね。高級感は乏しいし、シャッター音も大きい。ワインダーなどのアクセサリーもない。でもなんか憎めず。フルメカニカルしかも小型軽量でいいよね。感覚的にはシャッターダイヤルの位置がコンタックスと異なり、「いつもの場所」にある。これも安心感がある。
私なんぞはコンタックスで撮ってもヤシカFX-3スーパー2000で撮っても同じ写真ができるなら後者を選びますけどねえ。しかもFX-3 スーパーはちゃんと「しゃくりあげ方式」のミラー駆動だったりします。このため長焦点レンズを使う場合でも、ミラー切れが出てこないわけ。

もちろんヤシカコンタックスマウントだから、高価なツァイスレンズも使うことができます。ヤシカブランドのレンズは「ヤシカML」レンズでした。
ツァイスのレンズのほとんどは富岡光学(現京セラオプティクス)製で、主要なヤシカMLレンズもそう。だから日本製のツァイスブランドレンズとヤシカMLレンズは、設計が違えど出自は似ているんじゃねえのと思われるかもしれないよね。でもツァイス信者ってそういうのを認めたくないから面倒くさいよね。

欠点としては本機もまたコンタックスに共通する「ミラー垂れ」と呼ばれる、経年変化でミラーが下がる現象がある。どうも本機のミラーの固定方式はテープによるものなのか、それとも接着剤かはわからないけど、市中のカメラ修理業者さんでは対応してくれるはず。あまり神経質にならずに使ったほうがいいですぜ。



 
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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