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写真家が選ぶ、今使いたいフィルムカメラ5選

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写真家が選ぶ、今使いたいフィルムカメラ5選
公開日:2019/03/12

鹿野貴司が選ぶ撮って楽しいフィルムカメラたち

photo & text 鹿野貴司

平成とともに歩んできた自分の写真歴を振り返ると、さまざまなカメラが僕の手を通り過ぎていった。とくにフィルムカメラは買ったり、売ったり、また買ったり……。今もついいろいろ買ってしまうのだが、その中からこれは手放せないという愛機5台をピックアップした。(鹿野貴司)
 

マミヤ6MF


平成を代表する名機、と自分では勝手に思っている一台。平成元年に発売されたニューマミヤ6と、平成5年に発売された645と24×56mmのパノラマも撮れるマミヤ6MFがある。645といっても上下をマスキングするだけの“なんちゃって”だし、パノラマも入手困難な35mmアダプターが必要だったり、撮ったところでプリントやスキャンが大変なので、中古で買うならどちらでもいいと思う。

僕は浪人生だった19歳のとき、6MFと広角50mmF4、標準75mmF3.5、35mmアダプターのセットを10回ローンで購入。未成年の浪人生でもローンOKだなんて、バブル期は本当どうかしている。でもどうかしているおかげで最高の相棒を手にでき、大学時代これで東京のスナップを撮りまくった。その頃マミヤにオーバーホールを出したら「ここまで酷使するならもう1台買うべき」といわれ、最終的にボディ3台、レンズも望遠を含めて2セット揃えた。その頃は写真って永遠にフィルムで撮るものと信じて疑いませんでしたからねぇ。

社会人になってからもバッグには常に50mmを着けた6MFを忍ばせ、移動中や立ち寄り先でスナップ。中判とはいえ沈胴式なので携行性は本当に抜群なのだ。これを持って南アルプスの白峰三山を縦走したこともあるが、登山の相棒にも最高だと思う。50mmも75mmも絞り開放からキレキレにシャープだし、シンプルかつ丈夫なつくりゆえ衝撃や水にも結構強い。今持っている1台目はバッグに入れた状態で高い橋から川に落とし、そのまま下流へ流されたこともあるのだが、ずぶ濡れの状態で拾い上げたものの乾かしたら復活。実際に触ると贅肉を削ぎ落とした一方、ガッチリとして剛性が高いのがわかると思う。

僕自身は5〜6年ほどまったくフィルムを使わない時期があり、6MFのボディやレンズも段階的に処分したのだが、最初に買ったセットだけは気が変わって売るのをやめた。2012年頃から日本一人口の少ない町、山梨県早川町のドキュメンタリーをハッセルブラッド500C/Mとネガカラーで撮るようになったのだが、歩きながら被写体を追いかけたりフィルムを替えたりでそりゃもう大変。撮影スタイルを変えるか、さもなくばカメラを35mmに変えるか悩んでいたときに、押入れに放置していた6MFの存在を思い出した。操作がいたってシンプルな6MFは、僕にはデジタル一眼レフより軽快に写真が撮れるのだ。というわけで僕の写真集「日本一小さな町の写真館」の4割くらいはこの6MFで撮った。広角50mmで撮るスナップもそうだけど、標準75mmで撮るポートレートも実にいいのだ。中判で機動力や軽快さを生かして、エモーショナルな写真を撮りたいという人には自信を持っておすすめいたします。


 

ローライフレックス3.5E


上で熱くマミヤ6MFについて語っているが、実は2000年代あたま、さらに荷物を軽くしたくて日常カメラはライカに乗り換えた。その後やはりスクエアのフォーマットが恋しくなり、思い切って購入したのが二眼レフの王様・ローライフレックス2.8Fだった。高校生の頃から心の中で「いつかはローライフレックス」という意識があったのだ。

憧れの2.8Fはまさに一流の工芸品そのものだったが、実用品としては僕の感覚に合わなかった。カメラ自体が重たいが、それよりもシャッターボタンのストロークが深くて重たい。やがてフィルムの使用頻度が減ったこともあって手放してしまったのだが、心の中で「またいつかはローライフレックス」という意識もあった。そのときは2.8Fではなく絶対3.5Fにしようとも思っていた。

そんな話を飲みながら某カメラメーカーに勤めている友人に話したら「僕の3.5F買います?」。お互いの希望金額もそれほど開きがなく、その場で交渉成立。後日また彼と約束してカメラを受け取り、喜んで帰宅したのだが……。よく見ると3.5Fではなく3.5E、あるいは3.5Cと呼ばれるモデルだった。その後に製造された3.5E2、3.5E3、3.5Fは製造元のフランケ&ハイデッケ社が自らそう呼んでいたのだが、それより前のモデルはすべてただの「3.5」。今のMacBookとかiPadみたいなもので、さしずめ「3.5/第3世代」とか「3.5/1956年モデル」と呼ぶべきものだが、後付けで「3.5E2の前だから3.5E」となったらしい(たぶん)。

EとFの大きな違いはピント調節ノブに取り付ける露出計の使いやすさ。Fは露出計が絞りやシャッター速度のダイヤルと連動している。しかしEの露出計はあくまでEV値メーター。背面の表で絞りとシャッター速度を割り出し、ダイヤルで改めて設定する必要がある。しかし経年劣化で精度が怪しい露出計を使うより、今ならスマホの露出計アプリで測る方が楽だし正確。他にもEとFの違いはあるが、3.5Fは2.8Fと並ぶローライの最高傑作とされ、中古価格もそれなりに高い。なので3.5Aや3.5Bに比べると不具合や不便も少なく、レンズもテッサーじゃなくてプラナー。それでいてお買い得な3.5Eか、あまり見かけないけれど3.5E2や3.5E3をおすすめする次第。MADE IN GERMANYが放つ“工芸品感”は3.5Eでも十分感じられる。


 

コンタックスT


この連載の初回で赤城耕一先生が「もうしばらく経つと、京セラがカメラ事業をしていたということが忘れ去られるのではないかと」と書かれておられたが、1984年その京セラが初めて製造販売したカメラがこのコンタックスTだ。ポルシェデザイン、カールツァイスレンズ、そしてコンタックスブランド。ほぼドイツ代表みたいなカメラだが、底にはしっかりと「KYOCERA JAPAN」と刻まれている。ドイツ人選手ばかり集めたJリーグのチームみたいなもんですかね。いや違うか。

Tは高価なこともあってヒットせず、売れたのはAF化した2代目のT2。これが高級コンパクトのはしりとされ、後継のT3もまた人気が高い。どちらも欲しいと思ったことはあるのだが、結局購入せず。その理由はどちらもAFだからだ。人物を写し込んだスナップを撮ることが多い僕にとって、ピントがどこに合っているのかわからないコンパクトカメラのAFはとても使い勝手が悪い。そういえば描写が気に入って3台買ったコニカヘキサーも、大事なところでピントが中抜けするので1年で3台とも売り払った。

でもT2やT3、いつか欲しいんだよなぁ……と思っていたら、レンジファインダーのTっていうのがあるじゃん! ということにある日、中古カメラ店の取材で気付いてしまった。まあ気付いてしまったら仕方ない。さんざん悩んだ末、その店を再訪したら取材時に見た黒の他にシルバーも入荷していた。店内でまた悩む。こういうのはシルバーを買えば黒が欲しくなり、黒を買えばシルバーが欲しくなる。所詮そんなものだからどっちでもいいや、と思ってシルバーを買ったら、やはり今は黒が欲しい。買わないけど。

サイズや機能がそっくりな距離計連動式コンパクトカメラとして、1979年に発売されたオリンパスXAというヒット作がある。僕はこちらも持っているが、オリンパスらしいミニマリズムが強く感じられる名機だ。そのXAや、さらにローライ35も多分に意識したと思われるTは、質感や作り込みにドイツ連合+京セラの哲学を感じさせながら、さらにミニマリズムを突き詰めた感がある。

何よりTを買ってよかったと思ったのは描写力の高さ。ネガカラーの同時プリントでも緻密さやトーンの美しさが際立っているのがわかる。自分でモノクロプリントをやらなくなって久しいが、これで撮ったネガを引き伸ばしたら、さぞかし気持ちいいだろう。思えば中学生の頃、穴が開くほど眺めていた「カメラ総合カタログ」に、Tも現行モデルとして掲載されていた。その頃はコンタックスって聞いたことないけど、なんでこんなに高けえんだよと不思議に思っていた。30年経ってその理由を綴りながら自分の買い物を正当化することになるとは。


 

オリンパスOM-2N


オリンパスがOMシステムの生産・販売を終了したのは2003年春。新宿の量販店ではレンズが投げ売りされていた記憶がある。当時は恥かしながら産みの親の米谷美久氏のことも、「宇宙からバクテリアまで」というキャッチコピーも知らなかった。僕がOMに興味を持ったのはその直後、古い友人との再会だった。多くの職業カメラマンがフィルムからデジタルに移行する直前くらいのタイミングだが、僕より早くプロカメラマンになっていた彼は、OM-4TiなどOMシステム一式で仕事をしていた。

プロが仕事で使うカメラはキヤノンかニコンというのが相場であり、オリンパスOMシステムは廉価でアマチュア向け、というのが当時の僕の認識だった。ただしオリンパスのシルバーボディは金属の質が高そうで、ブラックボディも塗装がいい……というのはなんとなく感じていた。明らかに他社の金属製カメラと色が違うのだ。OMユーザーの友人にそれを話すと、立て板に水のごとくOMシリーズの特徴を説明してくれた挙げ句、OM関連の書籍をどっさりと貸し与えてきた。僕はすっかり洗脳され、中古市場で安かったこともあり、1年足らずでカメラとレンズが相当揃ってしまった。

僕はその頃写真の仕事を始めるのだが、すでにデジタルで撮影するのが当たり前になっていて、OMはもっぱら私事カメラ。しかし当時は地方取材が多く、前泊や居残りをしてOM-4TiかOM-2Nを1台、レンズも24mmと35mmの2本くらいで知らない街をぶらぶら撮り歩くのが楽しみだった。やがて仕事に必要な機材を買うため、2〜3台あったOM-4Tiは売却。最後まで残ったのが、最初に買ったOM-2Nだった。手放しても大した金額にならないこともあるが、OMシリーズの中でもっともデザインが気に入っているのがOM-2Nなのだ。

中古市場では修理しやすいメカニカルシャッターで、数々の伝説を持つOM-1が人気のようだが、絞り優先オートが付いて撮影が楽なOM-2/OM-2Nを個人的には勧めたい。今となってはOM-1でも壊れたら修理に出すより別の個体を買い直す方が安いし。ちなみにOM-2とOM-2Nの違いは純正フラッシュが使いやすくなったとか、オート露出時のシャッター速度が最長60秒から120秒まで伸びたとかなので、気にする必要はほとんどないかと。


 

写ルンです シンプルエース


この企画で取り上げるカメラは中古に限定しているわけじゃないとのことなので、最近もっともよく使うフィルムカメラ、写ルンですをピックアップしてみた(本当にいいんですかね?)。今ではローファイなトイカメラとして女子に人気だが、一方で修学旅行で生徒に卒業アルバム用の写真を撮らせるアイテムとして現役。失敗が少ないし、落としても壊れないし、万が一なくしても経済的損失が少ないからだそうだ。そういえばエベレストや北極・南極などエクストリームな環境に行く人も、記録用の最終手段として写ルンですを持っていくそうな。警察の鑑識カメラマンが予備で携行しているなんて話も聞いたことがある。

というわけで昨年(2018年)秋、初めての子供が産まれたときのファーストショットは、何を隠そう写ルンですで撮った。もちろん最新のデジタル一眼レフとハイスペックなレンズも持っていったのだが、もっとも確実な方法で記録しておきたいと考えた結果、前々から用意したのが写ルンですだったのだ。古いフィルムカメラなんかで撮ると、現像したら何も写っていなかったという可能性もあるわけじゃないですか。

で結果どうだったかというと、見事一枚もまともに撮れなかった。病室は窓際だったが、新生児を守るため厚いカーテンで覆われ、フラッシュも禁止。それでも写るだろうと思って撮ったのだが、ISO400・1/140秒・F10ではさすがに露出アンダーもいいところ。ネガはほぼ素抜けで、現像に出したショップの店員さんから「お撮りになったのは病室ですかね。フラッシュをお使いになれなかったんですよね」と同情される始末。もっとも数枚のプリントはかろうじて陰影があり、おまけのデジタルデータをPhotoshopでいじると、おぼろげに様子が見えてきた。妻に呆れられたのはいうまでもない。

もちろん光がある場面ではきれいに写るし、暗い場所で内蔵フラッシュを使えば、フィルムカメラらしい生っぽさも表現できる。メカをいじる楽しみとか、意思や意図が反映できる要素はないかもしれないが、「シンプルエース」という商品名の通り、世界でもっともシンプルなカメラ。ときどき使ってみると、写真に対する考えを深める機会になると思う。


 
鹿野貴司(しかの たかし)

1974年東京都生まれ。多摩美術大学映像コース卒業。さまざまな職業を経て、フリーの写真家に。広告や雑誌の撮影を手掛けるほか、ドキュメンタリー作品を制作している。写真集『日本一小さな町の写真館 山梨県早川町』(平凡社)ほか。著書「いい写真を撮る100の方法(玄光社)」

ウェブサイト:http://www.tokyo-03.jp/
Twitter:@ShikanoTakashi

<著書>

いい写真を撮る100の方法