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東京ものがたり1970年代

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東京ものがたり1970年代
公開日:2019/07/31

中央区佃1丁目 1974

photo & text 丹野清志



1970年前後、私は変貌し続ける東京湾沿岸地帯や埋立地、各地の開発地などを歩きまわっていたのですが、殺伐とした風景ばかり見ているとふっと一息つきたくなるもので、何もすることがない時は、決まって東京の古い町を歩いていました。ありふれた町でふつうの人々とふつうに対話するように撮っていたい、それだけのことですから行先はどこでもよくて、落語の舞台になっている町など思いつくままにでかけていきました。



佃へ出かけたのも古今亭志ん生の落語「佃祭り」を聞いたことがきっかけでした。落語のテープを聞きながらゆるゆる散歩するなんて若いもんのやるこっちゃあない、そんなのはご隠居さんのやることだよと言う人もいましたが、私はこれでいいんです、とふらりふらりの町歩きを続けたのでした。佃祭りは現在の中央区佃1丁目の住吉神社の夏の祭礼で、噺に出てくる中央区明石町と佃を行き来していた渡船は300年以上続いたと言われ、1964年に佃大橋が完成して終わりました。船溜まりで漁師をしていたという人と世間話をしていると、「渡船があったころはよかったねぇ」という言葉が決まって出るのでした。



今もなんとなく歩きたくなって佃界隈へ足を向けるのですが、周辺には超高層マンションが立ち並び町の眺めはすっかり変わりました。どこの町もそうですが、通りがかりにカメラを構えてもふだんのままの様子を撮らせてもらうことができた“あのころ”は、遠くなりました。「お久しぶりぶりですなあ、お達者でなによりです」「いやあ、ここんとこめっきり脚腰が弱くなっちまってね」「そりゃあ、おたがいサマってもんだ。誰だってそうだよぉ」そんな会話があればスッと仲間には入ることができる年齢になったのですが、今では声を聞くことも少なくなりました。それでも、せめて古い町のにおいにふれて、カメラでのささやかな対話ができればと町歩きを続けているのです。













【使用カメラ】
カメラ:ゼンザブロニカEC ニッコール75ミリF2.8
ミノルタオートコードIII ロッコールF3.5
フィルム:トライX



丹野 清志(たんの・きよし)

1944年生まれ。東京写真短期大学卒。写真家。エッセイスト。1960年代より日本列島各地へ旅を続け、雑誌、単行本、写真集で発表している。写真展「死に絶える都市」「炭鉱(ヤマ)へのまなざし常磐炭鉱と美術」展参加「地方都市」「1963炭鉱住宅」「東京1969-1990」「1963年夏小野田炭鉱」「1983余目の四季」。

<主な写真集、著書>
「村の記憶」「ササニシキヤング」「カラシの木」「日本列島ひと紀行」(技術と人間)
「おれたちのカントリーライフ」(草風館)
「路地の向こうに」「1969-1993東京・日本」(ナツメ社)
「農村から」(創森社)
「日本列島写真旅」(ラトルズ)
「1963炭鉱住宅」「1978庄内平野」(グラフィカ)
「五感で味わう野菜」「伝統野菜で旬を食べる」(毎日新聞社)
「海風が良い野菜を育てる」(彩流社)
「海の記憶 70年代、日本の海」(緑風出版)
「リンゴを食べる教科書」(ナツメ社)など。

写真関係書
「シャッターチャンスはほろ酔い気分」「散歩写真入門」(ナツメ社)など多数。

著書(玄光社)
「町撮りアート写真ブック」
「ニッポンぶらりカメラ旅」
「お気に入りカメラで楽しむ自分流町歩き写真の方法」
「写真集のつくり方」
「写真教室では教えない“新スナップ写真”の方法」
「誰も教えなかった “自分流写真”の方法」
「[四季を味わう]ニッポンの野菜」
 
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