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写真家の視点

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写真家の視点
公開日:2020/05/15

「破れる風景/landscape fragment 」

Photo & text 中井菜央

雪があまり降らない場所で生まれ育った私にとって、こどもの頃から雪は特別なものでした。灰色の空からふわふわと綿のようなものが舞い落ちてきては地面に触れるやいなや消えてゆく。その不思議さに見とれたのです。大人になりカメラを手にするようになった私は雪をモチーフにした作品作りがしたいと思い、全国の雪が降る地域へと出かけてゆくようになりました。稚内、八甲田山、蔵王、肘折、横手、飛騨…。そして、たどり着いたのが新潟は津南町でした。2015年2月のことです。このとき私が目にしたのは、「町の中に多量の雪が降る」ではなく「雪の中に町がある」そんな光景でした。ひとひらの雪はごく小さいのに集まれば町を飲み込む堆積となるのです。うず高く積もった雪を、除雪車で割って造り出された道は巨大な迷路のようで、方向感覚も、遠近感も奪われてゆくのでした。それは子供の頃から抱き続けてきた雪の儚いイメージを一気に崩すものでしたが、この圧倒的で呆然としてしまう雪のありかたにも、私は一瞬で魅せられたのです。

津南は豪雪地としては南限にあって、そのせいで雪は湿って重く粘り気があり、独特の丸い形状に育ちます。その光景は雪に隠されたものというよりは風景自体が破れたように見えるものでした。風景の破片がなにもない雪の上にぽっかりと浮かんでいるさま。それは、広大な農地のただなかで、また、おじいさんやおばあさんが暮らす家の庭先で生まれます。雪と人が作り出した町並みによって、誰の意図でもなく生成と消滅を繰り返す束の間のビジョン。それに心を奪われた私は、その発見と記録をこの地でつとめたのでした。














使用機材について

7年前から真冬の豪雪地で撮影を続けています。ニコンは、D810のころからトラブルなしで撮影ができていました。その流れでD850の選択は、私の中で迷いのないものでした。冬季は予備バッテリーを2個持ち歩きますが、それで不便なく撮影ができます。写真家にとっての機材の安定性は優先順位の高いものです。そして、そればかりは実際に使ってみないとわからないものです。D850はその点にとても満足しています。

 

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中井菜央

1978年 滋賀県生まれ
2006年 日本写真芸術専門学校卒業
出版社写真部勤務を経て、現在フリーランス
写真集 『繡』(しゅう)【赤々舎】

 
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