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新製品レビュー

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新製品レビュー
公開日:2023/03/27

RICOH GR IIIx - Pencil of RICOH -

南雲暁彦


「GR」といえばフィルムの時代から独自の路線と立ち位置を持ったコンパクトカメラの雄である。シンプルで小型なボディにちょっと驚くぐらいの高性能レンズが搭載された通好みのカメラ、というのが共通認識ではないだろうか。35mmフィルムカメラの初代GR1が1996年に登場し、このGR IIIxの登場が2021年なのでもう27年も経つのだが、そういうシンプルで本質をついたコンセプトから生まれた物だからこそコンパクトカメラ受難の時代にも生き抜いているのだと思う。存在にブレがない。
デザインに目を向けると初代からのテイストをキープしつつ光学ファインダーやフラッシュなどがなくなったスペースをレンズの鏡筒が埋め尽くしている。GR(2013年)でセンサーがAPS-Cになってからはそれが顕著で、まあシンプルでいいのかもしれないけれど、レンズは小さいのに鏡筒ばかりが大きく、そのスペースに間延びを感じた。個人的にはGR DIGITAL III(2009年)のデザインはその辺のバランスが取れていて良かったなあと思う。

さて、GR IIIxの気に入った部分としてはロゴからファンクションの表示ダイヤルやボタン表示に至るまで徹底的にモノトーンで構成されていること。これでボディ全体に大人っぽさを纏わせることに成功していて素晴らしい。 あとは底蓋に貼ってあるシリアルナンバー入りのシールを剥がしてしまえば完璧だ(笑)。細かいところではモードダイヤルの表示だけ明るいシルバー調になっていてわかりやすく、一番目立つ前面のGRロゴはグレーに落としてある。こういう芸の細かさは洗練さに繋がっていくので大事なことだ。
そして何より、このGR IIIxは40mm(35mm判換算)のレンズを搭載している。これが最大の特徴であり、私が最もグッときたポイントだ。フィルム時代にGR21という21mmレンズを搭載したモデルがあったが、やはりあれもグッとくるモデルだった。28mmというGRのド真ん中を外してフォトグラファーに変化球を投げてくる。それは攻略する面白さと、それを選ぶ自分の立ち位置を味わえる。28mmは決して悪くないが、ちょっと難しいレンズの方が燃えるのだ、使いこなし上等である。普通の1.5mm芯のシャーペンやボールペンではない、細芯や万年筆の筆跡。そこに自分の腕で光画を描く面白さがある。





RICOH  GR IIIx (以下同)
1/1600秒 F2.8 ISO200



1/1000秒 F2.8 ISO200


1/800秒 F3.5 ISO200

HDR調
イメージコントロール機能でその場のイメージを強調する、リアルタイムで感性についてこさせることも出来るわけだ。
1/125秒 F3.5 ISO200



ハイコントラスト白黒
1/100秒 F3.5 ISO200



1秒 F9 ISO200

40mm相当でF2.8、しかもマクロ機能で寄れるので空気感を作り出すのも得意だ。



ネガフィルム調
1/125秒 F2.8 ISO1600



ポジフィルム調
1/100秒 F2.8 ISO1600



ネガフィルム調
1/50秒 F2.8 ISO1600



ネガフィルム調
1/25秒 F2.8 ISO1600



イメージコントロールメニュー



ちょっと気に入ったブリーチバイパス
1/125秒 F2.8 ISO1600


ブリーチバイパス
3/5秒 F2.8 ISO100



ブリーチバイパス
1/6秒 F2.8 ISO100



ブリーチバイパス
1/60秒 F2.8 ISO1600



ブリーチバイパス
1/6秒 F2.8 ISO100




ブリーチバイパス
1/320秒 F3.2 ISO1600


いつもは金属とガラスの塊のような重めのカメラを持ち歩いているので、このGR IIIxは持っていないに等しいぐらいに軽く感じた。その反面、写りには軽薄なところはなく、「コンデジだからね」って諦めるような残念な写真になることがなかったのは、特筆すべき点だ。レンズも良いしAPS-Cセンサーに2424万画素という設定は適正で、ダイナミックレンジと解像度のバランスに優れる。大好きな夜景スナップまでしっかりと僕についくる。イメージコントロールでの大胆な絵作りも元の画質が高いからこそで、写真テイストをしっかり持っている。スマホとは空間再現性が全然違うというわけだ。
また、ここまで骨太な骨格とコンセプトを持ったカメラなのだから自信を持って「もっとシンプルにしてしまえば良いのに」と思うところもあり。写真をやっていない人にも勧めたいカメラなのだが、メニューを開くとやはりかなりの呪文が階層をなしている。色々と設定できるのは当たり前になっているのはわかるが、進化していない証にも感じる。
スイッチ系のレイアウトにも少し違和感があり、電源ボタンの位置がシャッターと近くて何度か間違えて電源を落としてしまった。親指の位置にあるダイヤルのフリをした回らないが押し込める「ADJ/露出補正レバー」は、グニュっとした操作感がブラインド操作に不安を与えてしまう。
徹底的に映像エンジンを磨いてスイッチとモードを減らし、被写体を見つめて絞りを決めたらシャッターを押す、それだけで「これがGRの写りだ」という写真が撮れる自信満々の個性を持ったエボリューションモデルが欲しくなった。
そんなことを思わせるのも、このGR IIIxに写真機としての一本筋の通ったフィロソフィーを感じたからだろう。


ハイコントラスト白黒
1/8秒 F2.8 ISO100
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中古
リコー GRIIIx
リコー
コンパクト
¥164,800
カメラのナニワ

<プロフィール>


南雲 暁彦 Akihiko Nagumo
1970 年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。
日本大学芸術学部写真学科卒、TOPPAN株式会社
クリエイティブ本部 クリエイティブコーディネート企画部所属
世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。
近著「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」 APA会員 知的財産管理技能士
多摩美術大学統合デザイン学科・長岡造形大学デザイン学科非常勤講師


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note

 

<著書>


IDEA of Photography 撮影アイデアの極意



Still Life Imaging スタジオ撮影の極意
 
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