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新製品レビュー

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新製品レビュー
公開日:2021/08/20

コシナ フォクトレンダー NOKTON 35mm F1.2 Xマウント〜富士フイルム X-Pro3が欲しくなる危険なレンズ〜

Photo & Text:赤城耕一

どうみてもこのレンズは富士フイルムX-Pro3のために企画されたものだと確信します。美しく物欲をそそられるデザインです。MF時の操作感、UIも抜群です。フードからレンズが生えるとよく言われますが、NOKTONからX-Pro3が生えそうです実に危険です。

みなさんたいへんごぶさたしておりますが、連日の酷暑の中、いかがお過ごしでございましょうか。
久しぶりにこちらに登場してまいりましたアカギでございます。私ごとながらワクチンの接種は第一回をキメました。接種後は熱や痛みが出るどころか、ロクに使いもしないカメラとかレンズとか欲しくなるという「カメラ欲しいよ」副反応が出て困っています。コロナが終息したのち、今後もワクチンを打ち続けるとなれば、十分に注意する必要があるのでないでしょうか。恐ろしいことです。
さて、本日はなぜ登場してきたのかと申しますと、NOKTON 35mm F1.2 Xマウントというヤバすなレンズが登場してきたからでありまして、こういうレンズならアカギは副反応を強く起こして、面白いんじゃないかということで編集部から呼びつけられたからです。
困ります、本当に。こういうレンズを出されてしまうと。なぜ困るのか、このNOKTON35mmF1.2Xマウントは、レンズ鏡胴デザインがかっちょいいからであります。何としてもこれは入手せねばならないレンズではないかと強く思う仕上がりだからです。
ここまでヤラれると間違いなく落ちますね、沼に。ええ、編集部の思惑通り、きわめて単純な副反応をしてしまいました。責任をとってレビューを引き受け、少し気持ちを落ち着かせてみようと思いました。

ミラーレスのレンズってメーカー問わず、なんだかぜんぜん色気がないわけです。距離指標や絞りの指標がないのがごく当たり前の仕様ですし、多くのレンズの鏡胴は小学生が遠足に持ってゆく水筒みたいじゃないですか。カッコ悪いんだこれが。
これに30万円とかの対価を払うんですから、筆者に言わせれば、もう少し冷静になった方がいいんじゃないかと思うことがあります。もちろんお金に余裕のある方はどんどん購入していただき、経済を回して、あまり調子のよくないカメラ業界をとにかく盛り上げていただくことを希望します。
真面目な方々はもちろん言うでしょう。レンズを購入する時は、「鏡胴のデザインにカネを払うのではなくて写りに期待して払うのだと思いたい」いや、まったくその通りでございますね。
真のクリエイターはそうじゃなければなりません。でも不真面目なクリエイターである筆者はとても不満なわけです。本来ならば交換レンズを買うのは、これまでにない新しい世界を見ることができるのではないかと夢を持つことができ、楽しいなずなのですが、ミラーレス用の交換レンズって、どうしても仕事で必要だからと、渋々買うわけですねえ。これはいけませんねえ。
これでもいちおう筆者は職業写真家もやっていますから、設備投資の必然としてはレンズを購入するのは当たり前なんですが、できればアサインメントでしか使用しない機材はレンタルで済ませられんものかと商売的には画策したりするわけです。こういう不安定な時代ですから当たり前です。
せめて鏡胴のデザインがもう少し美しかったら、設備投資したことへの溜飲も下がるのですが。だって、いま発売されている交換レンズで、描写に不満のあるレンズって、純正やレンズメーカーなどの区分けもなく、細かいこと言わなければまずないですよ、ランク問わずですから。
で、なんだか久しぶりにこちらに来たものですから、個人的に緊張してしまい、本題になかなか入れないわ肝心なことを書くことを忘れてしまったのですが、このレンズは商品名のとおりXマウントのMF35mmレンズなのです。
富士フイルムXシリーズは、APS-Cフォーマットですから、本レンズは標準レンズの画角になります。
しかも、富士フイルムのお墨つきの電子接点を有しております。電気通信対応のボディと最新ファームウエアの組み合わせでExif情報、フォーカスチェック、撮影距離連動表示に加え、特定の機種ではボディ内手ブレ補正やパララックス補正にも対応しちゃいます。
ただし、ここ重要なんですが、本レンズはXシリーズにすべて使えますが、特定のカメラ以外ですと、少々使い勝手は悪くなります。機能的にそのパフォーマンスが生かせないわけですね。もちろん撮影は可能です。このあたりの機種別の機能対応表は、コシナのホームページにあるので、どうぞご参照ください。

 
純正のXフジノン35mmF1.4R(左)と大きさ比較ですが見ての通りですね。NOKTONはF1.2なのに小さいです。素晴らしいですね。ここにもNOKTONがMFレンズであることの意義があふれております。両者の描写は似ているところもあります。
 
専用のフードは、少々色気のない輪っかですが、X-Pro3のOVF時の表示に考慮したためなのでしょうか。これはスリット入りのフードを用意するべきではないでしょうか。少々フードで視野がケラれても文句をいう人はいないと思います。


本レンズの機能面見てみましょう。鏡胴を細かく見ますと、フォーカスリングにはしっかりとした距離目盛りと被写界深度指標があります。何もかも懐かしいです。絞り環ももちろんあります。
フォーカスリングは適度なトルクがありまして、これは加工精度の高さと、品質の高いグリースを採用したことによります。
MFレンズ作りのうまさに関しては、コシナは他社の追従を許しませんからねえ。滑らかなフォーカスリングの操作感覚を指が覚えてしまうと、大きな声では言えませんが、X純正レンズをMFで使うのがイヤになってしまうほどです。絞り羽根は12枚ありほぼ完全な円形になります。点光源も多角形になる心配はなく丸くやわらかなボケになってくれます。

 
ミラーレス用のレンズでこのように鏡胴に距離や絞り表示のある表示のあるものは少ないわけですが、本レンズはMFであるからこそ、実現できた表示であるといえます。絞りと撮影距離による工夫で目測撮影も可能です。画角は標準ということもミソですね。


絞りはメカニカル動作で1/3クリックを採用しています。さすが細かいですね。このあたり、コシナの持つリソースが十分に応用されているように思います。最短撮影距離は0.3mなので簡易的な接写にも使うことができます。
鏡胴デザインはどこをどうみても、X-Proシリーズを意識しているのではないかと個人的に感じています。X-TとかX-Eシリーズに使うなということではないですが、本レンズのパフォーマンスはどうみてもX-Proシリーズ、中でもX-Pro3のことを見ていると思うのです。


ここで引っかかるのは、本レンズが電気通信で対応しているX-Proシリーズは唯一、X-Pro3のみであります。あー困りますねえ。なぜならX-Pro3は筆者は所有しとりません。X-Pro2がいまでも富士フイルムXシリーズの最高峰機種だと信じていることもありX-Pro3はノーマークでした。
X-Pro3は通常使用では背面LCDは収納されている状態なのがデフォルトです。「デジカメとしてありえへんやろ!」(関西の方、使い方合ってますか?)と、登場時にその特殊性から、レビューで叩いたのはこの私です。
ええ、デジカメのくせに撮影画像を即、背面LCDで確認できないなど、気が小さい私にはありえなかったからです。
 でも、どうしても本レンズの全パフォーマンスを生かしたくて、今回は編集部に無理をお願いしてX-Pro3を借りていただきました。富士フイルムさんありがとうございます。過去のことは水に流しましょう。流石に2兆円企業は太っ腹ですね。感謝しています。

X-Pro3とNOKTON 35mmF1.2の組み合わせがカッコいい

で、お借りしたX-Pro3にこのNOKTON35mmF1.2を装着して、前方の上手、やや上方位置から観察してみますと、もうね、涙が出るほどカッコいいわけです。これですね、ライカ信者が怒るかもしれませんが、ライカMシリーズに勝るとも劣らない充実感ですね。このまま抱いて寝ようと思いましたもん。
フォーカスリングを回してみますと、OVF時には明るいブライトフレームか撮影距離に合わせ自動的にパララックス補正されます。よく観察するとまるで生き物かのごとく美しくフレームが可動します。これだけでもう落涙寸前で、フォーカスリングによって動くフレームを観察しながら間違いなく3杯は呑めます。
で、X-Pro3はハイブリッドビューファインダーを内蔵していますから、OVF/EVFの切り替えはもちろんのこと、OVFのままファインダー下に小さくEVFを表示させることができます。これがフォーカスリングを回すとフォーカスチェック(自動拡大)できます。つまりOVFのまま簡単に表示画像拡大でフォーカシングできるわけですね。
EVFの時は、通常のミラーレス機と使い勝手は同じですが、フォーカスエリアの選択はさらに自由自在になりますしフォーカスリングの回転と連動するフォーカスチェックを完璧に行うことができ、ミスも少なくなるでしょう。正直、X-Pro3のハイブリッドビューファインダーのパフォーマンスを最大限に発揮できるのは本レンズのようなMFレンズではないか。しかも、マウントアダプターを介してではなく、きちんと信号のやりとりをするレンズだと思いました。

 
NOKTONをXシリーズカメラに装着すると絞りはシネマレンズ用の「T値」表示になります。スチールカメラ用レンズとして使用する場合は煩わしいですね。あらかじめメニューから「F値」表示を選んでおくと便利です。


感覚的には、ソニーのαシリーズに電子接点つき交換レンズを装着し、MFに設定してフォーカスリングを回転させた感じに酷似しています。このUIはとてもうまくいっており、本レンズがMFであることを忘れてしまうほどで、本当にストレスフリーで使うことができるのです。
また、先に述べたように、本レンズには距離指標と被写界深度指標がありますから、あらかじめ撮影距離をセットしておけばスナップでの目測撮影にはたいへん役立ちます。純正Xレンズで、これだけ細かく表示のあるレンズはありません。この場合、フォーカシング時間はゼロですから、速写性は最高です。標準画角で気軽にスナップできることもメリットになるでしょう。

レンズ構成は、6群8枚ダブルガウス型

描写性能はどうでしょうか。レンズ構成は、トラディショナルな6群8枚のダブルガウス型を採用。レンズ構成図はとてもシンプルで綺麗です。異常部分分散ガラスを採用して、色収差の低減を行っています。絞り位置を中心として綺麗な対称型なので、歪曲収差も小さいようです。
それにしてもこの“8枚玉”のスタイルのまま、F1.2の大口径を実現しています。驚きですねえ。このためF1.2級の35mmレンズとしてたいへんにコンパクトで重量も196gしかありません。APS-C専用交換レンズとしてのパフォーマンスが最大限に生かされているとみるべきでしょう。

絞りと距離で描写が変化する面白味のあるレンズ

描写を細かくみてみますと絞りと撮影距離で画質がわずかに変化します。これは現代レンズのように、開放でも絞っても被写界深度以外はあまり変化がない性能が高すぎる現代レンズと比較して使いこなす楽しみがあります。
懐かしいというか、私のようなジジイにはわかりやすい描写性能ですね、優しい描写です。このため好みや被写体によって絞り設定を考えて撮影する楽しみがあります。
至近距離ではわずかにハイライトが滲みますが、少し絞り込むとこれが解消され、少しずつじわじわとコントラストも向上、全体の描写が締まりますね。もちろんそこは現代レンズだけあり、実用面からみても開放絞りから十分な性能があります。
しかしですね、コシナもエラいレンズを開発したものです。本当に困っています。本レンズを購入すると、X-Pro3購入はマストになってしまうのではないかといまたいへん危惧しております。そんなことしたら、私が優柔不断なヤツであることがバレてしまうではないですか!
ちなみにすでにX-Pro3を所有している人は、NOKTON3mmF1.2を導入せねばならないことが先日閣議決定されてましたのでご注意ください。筆者もX-Pro3導入をいつまで我慢することができるのか自信がなくなってまいりました。
 ちなみに、本稿執筆時点で、本レンズの発売が8月から9月に変更になりました。予想よりも多く注文があったからだそうですが、これを機会にどこかの量販店でX-Pro3とNOKTON35mmF1.2をキットとして、廉価に発売してくれないでしょうかねえ。そういう粋なことをされたら、私はもう完璧に沼に落ちます。

 
1/8000 秒 F/2.0 ISO200 -1EV
恐ろしく暑い日でした。日差しが強く、コントラストの高い夏の日中晴天下。階調のつなぎ方が見事です。顔全体がシャープにみえるようF2に絞りましたが、フォーカスの合った面とボケ味のバランスをみると最高画質画像っぽいです。
 
1/210 秒 F/5.6 ISO400 -1EV
古い薬局。画像の均質性の良さという意味では最高ですね。周辺まで仔細に観察して意地悪のひとつでも言おうかと思ったのですが、日陰の低い条件でもツッコミどころがなく。
 
1/1700 秒 F/1.4 ISO400 -1.33EV
明暗差が大きい条件ですが、シャドーの描写が湧き上がる感じなのがいいです。画面右のタイルとかをみると歪曲収差もしっかりと補正されており、自然な雰囲気をみせています。さすがです。
 
1/750 秒 F/2.8 ISO400 -0.67EV
至近距離描写でもしっかりした像で決めてれます。撮影距離の違いによる性能変化は小さいと思います。周辺にも欠点は見られませんね。優秀ですねえ。
 
1/16000 秒 F/1.2 ISO160 -1.33EV
背景の建物の色が目立つのでフィルムシュミレーションをアクロスにしてモノトーンにしてみました。開放絞りでも合焦点はピシッとしています。順光条件だとコントラスト高すぎるくらい優秀です。光線状態の違いによって描写の雰囲気が変わります。
 
1/16000 秒 F/1.2 ISO200 -0.33EV
斜光線の条件です。絞り開放で主にボケの再現を見てみましたが、軟らかさの中にも芯がある再現と言いますか、ハイライトがうまく滲んでくれました。こういうところにレンズの品格が出ますね。
 
1/1000 秒 F/5.6 ISO200 0EV
瞬時に撮影できるように1.5-3mくらいにあらかじめフォーカスをセットしておき街を歩くことが多くなります。途中松の木に気配を感じてレンズを向けたらカラスが飛び立ったので脊髄反射的にシャッターを切りました。
 
1/2000 秒 F/1.2 ISO200 -0.67EV
とくに前ボケの再現をみるため、手前に葉を多く取り入れてフレーミングしてみました。重くなることなく、自然にボケてくれます。開放絞りの画像は、Exifをみないとレンズの焦点距離がわかりません。個性あります。
 
1/1100 秒 F/8.0 ISO200 -1.33EV
アクロスで撮影した都市風景。撮影者は肉眼で被写体を観察しているはずですがモノクロに置き換えてみるとまた異なる世界をみせてくれます。質感、ディテール再現も優秀なレンズです。




メーカーサイト:
コシナ フォクトレンダー NOKTON 35mm F1.2 Xマウント
http://www.cosina.co.jp/seihin/voigtlander/x-mount/x-35mm1_2/index.html
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赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

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