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アジアンMFレンズここだけの話

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アジアンMFレンズここだけの話
中国、台湾、香港などのレンズブランドが、いま実にアグレッシブだ。値段がリーズナブルというのは当然として、大口径、正統派高画質、クセ玉、付加機能重視、はたまた懐かしの名レンズを復刻したものまで現れた。さながらおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさである。レンズマニアならこの新たなカテゴリー、アジアンMFレンズを見逃す手はあるまい。そんな百花繚乱のアジアンMFレンズを数多く使い倒した澤村徹が、撮影のエピソードとレンズのフィーリングを語る。
公開日:2024/03/18

第1回 銘匠光学 Sony E mount TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH ハイスピードレンズは海鳥を追えるか

Photo & Text :澤村徹

F1.4と明るめの標準レンズだ。この個体はソニーEマウント用で、各社ミラーレス用のマウントが揃っている。距離計連動するライカMマウント用もラインアップ。
 
<スペック>
価格:41,000円(ソニーEマウント)(2024年4月現在市場価格)
フォーカス:MF
レンズ構成:8群10枚
フィルター径:49mm

何もない島だよ。

そんな軽口を叩く友人と天売島に上陸した。北海道の離島は礼文島が有名だが、それと比べて天売島は観光資源も施設も乏しい。北海道生まれ北海道育ちの友人ですら、天売島に渡るのははじめてだった。

フェリーのハッチが開き、車を出す。時刻は午後三時をとうにまわり、日が傾きかけている。あまり余裕がない。友人は何もない島というが、地図アプリで調べると、海岸に廃船が放置されていることがわかった。フェリーターミナルの目と鼻の先だ。

この日の担当は銘匠光学のTTArtisan 50mm f/1.4 ASPH。ライカMマウントもあるが、あえてソニーEマウント用を手配した。ほどよくコンパクトにまとまった標準レンズで、開放から周辺部でも結像する。ただし、開放のシャープネスはやや甘いか。そんなことを確認しながら、お目当ての廃船に向かって何枚もシャッターを切った。

胸のポケットでスマホが震える。今日泊まる民宿からだ。まず島に渡っているかと確認があった。この島に来るには一日数便のフェリーしか交通手段がない。もちろんと答える。五時から夕食だから早くチェックインしてくれ、と電話は切れた。

友人と顔を見合わす。五時からメシだって。早すぎないか? でも、ここは天売島。何もない離島だ。民宿の食事を逃すのは悪手以外の何ものでもない。

宿に着くや否や、食堂に急かされる。すでに食膳いっぱいに海の幸が並んでいた。壮観。でもまだ五時だ。宿のご主人があら汁のお椀を持って現れる。

「ゆっくり食べて。日没は七時過ぎだから」
「日没?」
「ウトウだよ。見に行くだろ?」

僕と友人は呆けた顔でご主人を見上げる。日没、ウトウ、何ですそれは? 何のことですか? そんな僕らにご主人が説明してくれた。

天売島はバードパラダイスだ。鳥好きの人たちの聖地だった。なかでもウトウの帰巣観察は人気のナイトツアーだという。天売島西端の赤岩周辺がウトウの繁殖地になっていて、夕暮れになると魚をくわえたウトウが一斉に巣に帰ってくる。これを見るために夕食が早いのだ。

そのとき、大男が食堂に入ってきた。主砲を二本、両肩から提げていた。鳥撮りの人だ。ガチ勢だ。僕と友人はうなずき合う。この島の真実を理解した。

島の突端、赤岩を目指す。時速二十キロのノロノロ運転だ。ここはバードパラダイス。人より鳥の数が多い。主導権は鳥にある。そう、車道一面鳥で埋まっていた。日中はそうでもないのだが、日が暮れると「どうせもう人間は来ないだろ」と鳥たちが車道を占有する。車を進めれば飛び立ってくれるものの、ヘッドライトのなかで無数に飛び交う鳥たちの姿は軽くトラウマになるレベルだ。

赤岩の展望台に着くと、今度はガチ勢が待ちかまえていた。主砲、巨砲、波動砲、様々な筒を提げた人たちがすでに撮影をはじめていた。講師のような人がいたので、メーカー系の撮影ワークショップだったのかもしれない。CP+のタッチ&トライコーナーよりも大変なことになっていた。しかし、上空はもっと大変だった。

聖戦バトルの真っ最中だ。

白い鳥と黒い鳥が大空一面に飛び交い、壮絶なバトルを繰り広げる。黒い鳥がウトウ。魚をくわえて帰巣してくる鳥だ。この地の地面に無数の穴がある。これがウトウの巣穴だ。お腹を空かしたひな鳥が巣穴で待っている。そこに日中捕まえた魚を持ち帰るのだ。

白い鳥はウミネコだ。魚を持ち帰るウトウを、巣穴の近くで待ちかまえる。魚を横取りしようというのだ。生存競争である。

着地の瞬間に隙が生まれる。ウミネコはそこを狙う。ウトウは着地してそのまま一気に巣穴に潜りたい。巣穴にダイレクト着地を狙うウトウ。インターセプトを目論むウミネコ。両者が焼けた大空で牽制し合う。

そんな白と黒の聖戦を、ガチ勢の人たちは流し撮りで捉えていく。彼らは皆AF望遠ズームだ。ギュイギュイと流し撮りをキメる。そうしたなか、僕はTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHを構える。今日のレンズはこいつと決まっているので、たとえ鳥が相手でもTTArtisan 50mm f/1.4 ASPHだ。このレンズは一応周辺が使える。崖に止まっている鳥を隅に捉え、聖戦バトルするウトウとウミネコのフレームインを待つ。開放F1.4だから夕刻でもシャッタースピードは稼げる。ボケはするけど、動きは止められるはずだ。

そのときだ。コーチが現れた。景勝地でよく遭遇するのだが、地元のベテラン勢でその地に合った撮り方をコーチしてくれる。この日のコーチはおじいちゃんだった。いいか、白い鳥を追うんだ。白い鳥は常に黒い鳥を狙っている。白い鳥を追いかけていればいずれ黒い鳥とクロスする。その瞬間、シャッターを切るんだ。

なるほど、とうっかり返事をしてしまった。

置きピンで鳥を狙う僕の横で、コーチはずっと流し撮りのレクチャーを続ける。置きピンでぴくりともレンズを動かさない僕の横で、「ほら今だ!」とシャッターチャンスを教えてくれる。日が暮れ、空から鳥が消えても尚、彼のレクチャーは終わらなかった。



α7 IV + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
絞り優先AE F1.4 1/8000秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW
画面下の柵が赤岩展望台だ。展望台の柵にピントを合わせ、ウトウとウミネコのフレームインを待つ。開放だとシャープネスがやや甘いが、こういう絵面だとほぼ気にならない。


α7 IV + TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
絞り優先AE F1.4 1/6400秒 -2EV ISO800 AWB RAW
左下のウミネコにピントを合わせる。海面と空を行く鳥はうっすらとボケる。開放F1.4でもボケ量は申し分ない。残光のグラデーションが美しい。


α7 IV+ TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
絞り優先AE F1.4 1/2000秒 ISO100 AWB RAW
宿の裏手が海になっていた。寂れた番屋が並び、西日を浴びた船が輝いて見える。陰影の描き方がいいだけに、明るい部分がより際立っている。


α7 IV+ TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
絞り優先AE F1.4 1/6400秒 ISO100 AWB RAW
近接撮影で後ボケチェック。銘匠光学は素性のいいレンズが多く、このレンズも後ボケの描き方は穏やかだ。発色やコントラストも含め、正統派の写りである。

<関連サイト>
焦点工房
銘匠光学 TTArtisan 50mm f/1.4 ASPH
https://www.stkb.jp/shopdetail/000000001639/


<関連書籍>


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<プロフィール>


澤村 徹(さわむら てつ)
1968年生まれ。法政大学経済学部卒業。オールドレンズ撮影、デジカメドレスアップ、デジタル赤外線写真など、こだわり派向けのカメラホビーを得意とする。2008年より写真家活動を開始し、デジタル赤外線写真、オールドレンズ撮影にて作品を制作。近著は玄光社「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」「オールドレンズを快適に使うためのマウントアダプター活用ガイド」、ホビージャパン「デジタル赤外線写真マスターブック」他多数。

 

<著書>


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