アジアンMFレンズここだけの話
公開日:2024/08/19
第12回 TTArtisan 50mm f/2 あの羊たちはどこへ行くのか
Photo & Text :澤村徹
薄型のコンパクトな標準レンズだ。カラーはシルバーとブラックの2色展開。主要なミラーレスのマウントに対応する。「安くて良く写るレンズ」をそのまま体現したような製品だ。
<スペック>
価格:12,800円
ブランド:銘匠光学
マウント:ソニーEマウント
フォーカス:MF
レンズ構成:5群6枚
フィルター径:43mm
フォーマット:フルサイズ
友人と二人、朝イチのカーフェリーで焼尻島に向かう。文字通り朝イチだ。前日の晩にコンビニで食料を買い込み、フェリーの甲板にしゃがみ込んで朝食をとる。モソモソした菓子パンをペットボトルのコーヒーで流し込む。ロケ中の粗食はめずらしくない。別に不満もない。ただ、今回は少々事情が異なる。
昼も粗食になりかねない。
焼尻島の滞在時間は6時間ほど。撮るべきものを撮りつつ、昼食もとりたい。しかし、焼尻島にコンビニはない。食堂はいくつかあるが、営業しているか定かではない。ランチ難民の予感しかしない。念のためランチ用の食料も買い込んでフェリーに乗った。できれば焼尻島の食堂で温かいごはんを食べたいのだが。
この日のレンズは銘匠光学のTTArtisan 50mm f/2だ。いわゆる「安くて良く写る」タイプの標準レンズ。どんなシーンでも撮れるし、何もない状況でも何とかしてくれる。このレンズを選んだしかるべき理由があるのだ。
焼尻島は撮るものがない。羊ぐらいしか。
北海道の離島は礼文島が有名だが、ああした島と比べて焼尻島は観光資源が乏しい。事前にいろいろと調べたのだが、フォトジェニックな被写体にどれだけ出会えるか、かなり怪しい感じだ。正直なところ、めん羊牧場の羊ぐらいではなかろうか。そんな状況でも、手堅い標準レンズならどうにかなる。気負わずに使えるレンズはこういうときに頼もしい。
焼尻島に上陸し、友人にクルマを運転してもらい早速撮影をスタートする。いわゆる景勝地が少ないので、目に付いたものはできるだけ押さえていく。めん羊牧場に向かい、たっぷりと羊を撮る。このときのカットは「アジアンMFレンズ・ベストセレクション」の作例になった。
昼飯時には島の突端、島の栄えたエリアからもっとも遠い場所にいた。時間が惜しいので、クルマの中で買っておいた食料で昼食を済ます。朝も昼も菓子パンだ。ひもじくなんかない。
「ここのめん羊牧場、今年で閉鎖されるって」
友人はペットボトルのお茶を飲みながらそう言った。フェリーの中で耳にした話だという。羊は観光資源ではないものの、焼尻島の数少ないフォトジェニックな被写体だ。それが撮り納めというのは何とも寂しい。そういうことならばと、昼食後も引き続き羊を片っ端から撮ってまわる。焼尻島の羊を撮るラストチャンスだ。
このあと、事件が起きた。
がんばった甲斐あって撮れ高十分。予定より早めにフェリーターミナルに向かう。昼食が軽かったので、ふたりとも腹が減っていた。焼尻島に着いたとき、フェリーターミナルの食堂が営業中だったことを確認している。急げば何か食べられるのではないか。そんな期待を胸に、フェリーターミナルへ急ぐ。
朝昼ともにパンではさすがに侘しい。
乗船の待機列にクルマを停め、ふたりでフェリーターミナルの建物に向かう。友人が駆け出す。おい、そんなに腹減ってたのかよ。いや、たしかに空腹だ。なりふり構っていられない。友人を追いかける。彼は食堂から少し離れたところで突如足を止めた。不審に思い、彼の視線の先を見る。
ジンギスカン定食、とメニューに書いてあった。
さっきまで懸命にファインダーで追いかけたつぶらな瞳の羊たち。あれをおいしくいただけるメンタルは持ち合わせていなかった。α7 IV + TTArtisan 50mm f/2
絞り優先AE F2 1/6400秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW
焼尻島灯台は深い草に覆われ、アクセスするのが大変。さすが北海道の離島、草の生きがいい。開放だと周辺減光がかなりきつい。
α7 IV + TTArtisan 50mm f/2
絞り優先AE F2 1/2500秒 -1.3EV ISO100 AWB RAW
開放から中心部のシャープネスはかなりいい。くたびれた木材の木目がしっかりと見える。コントラストの付き方もいい。
α7 IV + TTArtisan 50mm f/2
絞り優先AE F2 1/2000秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW
こうした羊の写真をさんざん撮った後、ジンギスカンは無理だ。ちなみに、ピント位置はまつげ。女性ポートレートばりのアプローチだ。
α7 IV + TTArtisan 50mm f/2
絞り優先AE F2 1/5000秒 ISO100 AWB RAW
入り江でもないのに、波ひとつなく水面が輝く。点在する黒い岩と対照的な姿だ。開放で前ボケを作り、この違和感を強調してみた。
<関連サイト>
銘匠光学
TTArtisan 50mm f/2
https://www.stkb.jp/shopdetail/000000001757/
<関連書籍>
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