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旅するオールドレンズ

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旅するオールドレンズ
澄んだ鏡面を見ているだけで、オールドレンズは旅愁を誘う。
見知らぬ街を、このレンズはどう写すだろう。あの空、あの建物、そしてこの空気感を、どう表現してくれるだろう。4名の写真家がお気に入りのオールドレンズを携え、それぞれの旅に出た。
公開日:2013/06/05

伊東でライカ散歩  河田一規×伊東

photo & text 河田一規
ウチからだと約2時間で到着できる伊東は、気軽に旅を楽しめるお気に入りエリア。
伊東線で2駅となりの網代あたりに比べるとやや観光色が濃くなるけど、
昔に比べればずっと落ち着きを取り戻し、散歩が楽しい町になった。
よく晴れた日、お気に入りのライカと共に日帰り旅行を楽しんだ。


F2.8の描写。周辺部には甘さが残っているが、中央部分のシャープネスの立ち上がり方は絞り開放時とはまったく異なる。Leica M8 + 初代Summilux 35mmF1.4(メガネ付き) f2.8 1/2000秒 ISO160 AWB RAW

基本的に旅も日常の延長と考えているので、旅に出たからといって普段と撮り方が変わったりすることはない(・・・と思う)。予定調和的な絵面はまったく求めていないので、勘を頼りにただひたすら歩き回るというパターンに終始するのが自分のスタイル。海外だと念のためにガイドブックや地図を持っていくこともあるけれど、参考にすることはほとんどない。撮影旅行ではどこに行けば何が撮れるのか予備知識があった方が絶対いいと言う人もいるが、仕事の写真ならともかく、自分のための撮影では下手な予備知識は感動を薄めるだけだと思う。そもそも自分が求めているのはガイドブックに載っていないディテールなのだから、予習は意味がない。こういう撮影スタイルだから当然ながらムダも多くて、場合によってはほとんど撮れないこともあるが、それはそれでいいと思う。撮れない時は撮影場所に問題があるのではなく、自分の方に問題があると思わなければイケナイのだ。

目的地までの交通手段は様々。クルマを運転していくこともあるけれど、できれば体力を撮影と歩くことだけに注ぎたいので、鉄道や飛行機などの公共交通機関を利用することの方が圧倒的に多い。これなら帰りは居眠りもできるしね。今回の伊東への旅も電車を利用した。


現行のズミルックス35mmと大きく違うのはコントラストの付き方がスローなこと。Leica M8 + 初代Summilux 35mmF1.4(メガネ付き) f5.6 1/1000秒 ISO160 AWB RAW



逆光の絞り開放では画面全体がフレアっぽい描写になるが、この浮遊感のあるフレアっぽさはいかにもオールドレンズ風でたまらない。
Leica M8 + 初代Summilux 35mmF1.4(メガネ付き) f1.4 1/2000秒 ISO160 AWB RAW



ピントを合わせた部分の柔らかい結像と、クセのある背景のアウトフォーカス描写がこのレンズの真骨頂。Leica M8 + 初代Summilux 35mmF1.4(メガネ付き)f1.4 1/1000秒 ISO160 AWB RAW



F8まで絞ると、ほぼ画面全体で均質かつ線の細かい上質なシャープ感を得られる。Leica M8 + 初代Summilux 35mmF1.4(メガネ付き) f8 1/1000秒 ISO160 AWB RAW


初代ズミルックス35ミリを標準レンズで使う


メガネ付き35mmは独特のルックスもまた魅力的。M8との組み合わせでもピント精度は全く問題なく、開放でも高精度なピント合わせが可能だ。


メーカーは忘れたが、汎用のカメラ用インナーケースを入れて使用している。インナーケースのまわりにはウォレットや手帳、メガネなどを入れているが、このバッグはマチが広いので容量は意外とある。今回の伊東旅行はM8+コンデジだけで行ったが、この写真のようにM型ライカを2台入れ、さらにフィルム20本くらいは楽に入れられる。

今回の伊東行きに使ったのは日常的に使っているバッグで、イギリスのポキットというメーカーのクラシックカプセルMという製品。ゴムをサンドイッチしたコットン製なので、ある程度の耐水性がある。ストラップに装着したケースは本物のメッセンジャーバッグで有名なレジスタント製。ミリタリー規格のバックルを使用し、ワンタッチで開閉できるスグレもの。中にはキヤノンのパワーショットS100を入れている。

【使用機材リスト】
カメラ:Leica M8
(静音シャッター、バルカナイト貼り替え等のライカ純正改造したもの)
レンズ:初代Summilux 35mmF1.4(メガネ付き)

旅先ではとにかく歩き回りたいので、機材は最小限。カメラ1台にレンズ1本、それにコンデジという組み合わせが多い。レンズを2本持っていく時はボディも2台にし、基本的に旅先でレンズ交換はしない派である。今回の伊東行きではライカM8+初代ズミルックス35ミリF1.4メガネ付き+コンデジという組み合わせにした。初代ズミルックスについては今さら説明するまでもなく、絞り開放ではフレアを伴ったソフトな結像だが、絞り込むと線の細かい非常にシャープな描写を得られるのが特長だ。世の中にある大口径レンズはだいたいどれも開放では柔らかめ、絞ればシャープな描写なのだが、このレンズは開放時の描写がただ柔らかいだけでなく、すごくクセのある滲んだような独特の写りを得られるのが特長。ボディにM9ではなくM8を選んだのは、この独特の味を標準レンズの画角で使いたかったから。M9はフルサイズ機なので35ミリレンズは額面通り35ミリの画角だが、APS-Hサイズ撮像素子を搭載するM8では47ミリ相当の画角になるのだ。初代ズミルックス35ミリの、あのジキルとハイド的な性格を標準レンズとして使うのは、ちょっと贅沢な愉しみなのだ。

旅先:静岡県伊東市


伊東駅から勘を頼りにひたすら歩き回り、また駅に戻ってくるという行程。今回は日帰りなので行かなかったが、時間があるのなら遊覧船で初島へ渡っても楽しい。特にネコ好きな人に初島はお勧め。



玄光社MOOK オールドレンズ・ライフVol.2
オールドレンズを最新ベースボディで愉しむ
最新のミラーレスカメラ、オリンパスOM-D、PENをはじめ、富士フイルムX-Pro1、ニコン1、ペンタックスQ、リコーGXR MOUNT A12、ソニーNEX-7などと相性の良いオールドレンズは何かを徹底チェックします。また、オールドレンズの新カテゴリー“シネレンズ”の基礎知識とおすすめレンズ、最新アダプター、旅ギャラリーなど、オールドレンズをより実践的に楽しむためのハウツーを満載した1冊です。 監修・執筆:澤村 徹


河田一規(カワダ・カズノリ)

横浜市生まれ。10年間の会社勤めの後、写真家・齋藤康一氏に師事。4年間の助手生活を経てフリーに。最初の写真体験は小学生の時に持ち出した父親の二眼レフ。今から思えばブローニーで写真入門はなかなか贅沢なことだったかも。とはいえデジタルとフィルムの両輪生活を送れる今も贅沢か……。