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旅するオールドレンズ

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旅するオールドレンズ
澄んだ鏡面を見ているだけで、オールドレンズは旅愁を誘う。
見知らぬ街を、このレンズはどう写すだろう。あの空、あの建物、そしてこの空気感を、どう表現してくれるだろう。4名の写真家がお気に入りのオールドレンズを携え、それぞれの旅に出た。
公開日:2013/07/01

軟調レンズの似合う街 上田晃司×香港

photo & text 上田晃司

アジアを代表する大都市「香港」

貿易、金融、観光に加え、近代的な超高層ビル群が建ち並ぶ人口約700万人の大都会。しかし、いったん路地に入ると、昔のままの人々の生活や古いビルなどが残っている。

鯉魚門の漁港から香港島を撮影した。日没前の繊細な光と霧の微妙なトーンをエルマリート28mm1stのお陰で写すことができた。
Leica M9-P + Leica Elmarit 28mmF2.8 1st f4 1/350秒 ISO160 AWB RAW 画像補正あり

アジアを代表する世界都市「香港」、札幌市ほどの小さな面積に人口700万人が住む大都市だ。狭い土地に多くの人が住むために、超高層ビルが建ち並んでいるがビルとビルの間や少し駅から離れれば香港の人々の生活にふれることができるのも香港の魅力だろう。
香港は1997年までイギリスの植民地下にあったため中国とイギリスの文化が残っている。1997年以降は、中華人民共和国香港特別行政区となりイギリスと中国、香港の文化を肌で感じることができる 。
街中には、イギリスの2階建てバスを想像させる香港名物のトラムや2階建てバスが沢山走っている。狭い土地でできるだけ多くの人を一度に運ぶには、2階建ての乗り物は合理的だ。トラムに乗ればゆっくりと香港の街を見ることができる。トラムの窓から香港の街並みを見ていると近代都市香港と下町の香港を見ることができるためタイムスリップしたような印象を受けることだろう。
また、海に面していることもあり漁港や貿易の桟橋なども多く賑わっている。筆者の香港の楽しみと言えば美味しい中華料理などもあるが、賑わっている市場や商店街を散策することだ。様々な食材や料理の香りや湿度や街の熱気を肌で感じることができるからだ。この街を歩いていると無性に軟調のオールドレンズで撮りたくなってしまう。


上環駅のトラムステーションを撮影。昼間は次々とトラムが行き来する忙しい駅も、夜になればトラムの本数も減り静かになる。
Leica M9-P + Summarex 85mmF1.5 f2.8 1/60秒 ISO800 AWB RAW 画像補正あり



夜の街をゆっくり進むトラムの中から見ると、タイムスリップしたような感覚に陥る。軟調なエルマリート28mmで撮影すれば街灯などの光が滲むため美しい。
Leica M9-P + Leica Elmarit 28mmF2.8 1st f2.8 1/25秒 ISO800 AWB RAW 画像補正あり



金鐘駅付近はビジネス街で近代的なオフィスビルが建ち並ぶ。太陽が沈み始めると湿度と排気ガスでモヤがかり黄金色に輝き美しい。
Leica M9-P + Leica Elmarit 28mmF2.8 1st f4 1/500秒 ISO160 AWB RAW 画像補正あり



夕暮れ時の街は活気があり、商店には多くの人が集まる。裸電球と鮮やかな看板が香港らしい。
Leica M9-P + Summicron 50mmF2.0
f2 1/250秒 ISO320 AWB RAW
画像補正あり


アジア特有の湿度や空気感には軟調レンズが合う


カメラは愛用のLeica M9-Pを選択。フルサイズセンサーによりオールドレンズの味をレンズ中心から周辺まで存分に味わうことができる。写真はLeica Elmarit28mmF2.8 1stを装着した状態だ。Elmarit28mmの初期型はブライトフレームが出ないため外部ファインダーが必要だ。


レンズ保護と保存、移動にはペリカン1200ケースを使っている。衝撃に強く、高温多湿の香港でも安心してデリケートなオールドレンズを保管することができる。ウレタンはレンズの大きさに合わせてカットできる。

今回の旅には、軟調レンズ4本をチョイス。 Leica Elmarit28mmF2.8
1st、Summarex85mmF1.5、Summicron
50mmF2.0、Summarit5cmF1.5の4本だ。香港の湿度とネオンや街灯の滲みを考えて軟調レンズを選んでいる。

【使用機材リスト】
カメラ:Leica M9-P
レンズ:Leica Elmarit28mmF2.8 1st/Summarex85mmF1.5/
Summicron 50mmF2.0/Summarit5cmF1.5


香港の独特な空気感やネオンや街灯を撮影するには、軟調レンズが最適。今回の旅には、光源の滲みが美しいライカのズマリット50ミリF1.5とエルマリート28ミリF2.81st、ズマレックス85ミリF1.5を選択し撮影した。いずれも50年以上前に作られた名作レンズだ。
香港の夜は暗いため開放F値が明るいことも重要だ。レンズ性能は現代レンズに比べ性能は劣るため、光の滲みやフレアが発生するが、逆にその粗を味として使うことができた。また、階調が豊かなため筆者の表現したかった香港のしっとりとした空気感を細部まで表現できた。
エルマリート28ミリF2.81stで霧の香港島を撮影した際には、風景を際立たせる美しい周辺減光と霧の微妙な階調表現など、これほど上品に描写するレンズがあるのかと驚かされたほどだ。
50ミリレンズも2本を使用した。昼間にはコントラストの高いズミクロン、夜は柔らかい描写のズマリット。同じ50ミリでも全く違った描写を堪能できるので被写体に合わせてレンズを交換した。現代レンズとは違い、撮影者のイメージや被写体の雰囲気に合わせてレンズを選べるのもオールドレンズならではの楽しみと言えるだろう。


旅先:香港


香港へは日本から飛行機で約4時間。香港島での移動は、トラム、地下鉄、バスで簡単に移動できる。九龍ではバスと地下鉄がメインになるが基本は歩きが良いだろう。市場や屋台は九龍エリアの方が活気がある。また、トラムは上環から北角の区間が賑わっているのでオススメだ。



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上田晃司(うえだこうじ)

1982年広島県呉市生まれ。米国サンフランシスコに留学し、写真と映像の勉強しながらテレビ番組、CM、ショートフィルムなどを制作。帰国後、写真家塙真一氏のアシスタントを経て、フリーランスのフォトグラファーとして活動開始。人物を中心に撮影し、ライフワークとして
世界中の街や風景を撮影している。趣味は、オールドレンズ収集。

ブログ:「フォトグラファー上田晃司の日記