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単焦点レンズで世界を変える!

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単焦点レンズで世界を変える!
公開日:2015/07/17

キヤノン EF50mm F1.8 STM

text & photo 赤城耕一


EF50mm F1.8はEOS黎明期から存在する伝統的な標準レンズである。と、最初からいささか大げさに書いてはみたものの、その存在は一般的にまったく注目はされていない。AF一眼レフ時代にはすでにズームレンズのキット販売が当たり前となり、この時には50mm標準レンズは軽んじられた存在となっていたからだ。

もちろんちょっとでも写真の知識のある人ならば、F1.8という大口径であること、小型軽量で携行性がよいことなどから、ズームレンズと焦点距離が重複したとしても、浅い被写界深度を生かしたボケ効果など、独自の描写が見込めるということから、変わらぬ存在感を示している。
とくにビギナーには「50mmレンズが有用であるということ」を説得力のある言葉で説明するのは難しいものだが、開放絞り近辺で使用すると、ズームレンズでは得難い写真を制作することができるはずである。これだけでも所有の意味はあるはずだ。

男なら「I型」を手に入れるべきだった

最初期のEF50mm F1.8はマウントは金属製、フォーカスリングは鏡胴中央にあり、距離指標や被写界深度指標も残されていた。これがEF50mm F1.8 IIになるとどうだろう。鏡胴からマウントまでもがプラスチック化し、距離指標も省略してしまうというずいぶんと安っぽいものとなった。しかし、新品での実勢価格は1万円に満たないものだから呑み代程度でも購入することができ、ロングセラーレンズとなった。ただ、II型は作りこみの悪さから、個人的に使用している個体は過去2回ほどレンズのユニット部が鏡胴からすっぽりと外れるという、ありえない事故を経験している。鏡胴とレンズユニット部分のガタつきも気になるところで、男なら(もちろん女性でもいい)少々割高でも、I型を購入するのが写真趣味人の粋というものであり、私もそれを推奨していた。
EF50mm F1.8IIが「撒き餌レンズ」と呼ばれていたことは、わりと最近知ったのだけれど、なるほどズームレンズ全盛時代にあって、大口径単焦点レンズの存在を世の中に知らしめるという意味ではかなり大きな貢献をしたはずで、実際にその功績は大きいのであろう。前述のごとくの作り込みだからモノとしての存在感はないけどね。レンズ交換式カメラである限りは、なんらかの理由をつけてレンズを取り替えてみたいのが普通の人の心情というものである。


左からI型、II型、STM。大きさはさほど変化はないが、作り込みが鏡胴の仕上げが良くなったので、ミドルクラス以上のカメラに装着しても相性はよい。

そして第3世代の登場 CANON EF50mm F1.8 STM

そして、今回光学系はそのままに、AF駆動にSTMを採用したEF50mm F1.8 STMが登場した。II型からの改良点は、鏡胴の作り込みの向上、マウントの金属化、最短撮影距離が0.35mと短くなったこと、コーティングの改良、直接装着可能な新型のフードの用意などである。価格はII型の2倍強というところであろうか。

写りに関しては旧光学系の踏襲である。ものすごく良く写るのか、と問われると困るのだけど、十分によい。と、いうことははっきりといえる。このあたりは人それぞれの価値観で違う。具体的にいえば、開放絞りではEF50mmF1.4 USMよりも開放のハロの量は少ない。それにコーティグの改良からか、開放時のコントラストが向上しているように感じる。




開放絞りでの撮影。やや線が太い描写だが、ハロやフレアは感じない。毛並みをより際立たせるには、少し絞り込めば向上するはずだが、雰囲気描写としては開放のほうがいいと思う。
Canon EOS Kiss X7  EF50mm f1.8 STM F1.8 1/1600 ISO200




撮影距離3mほどと中庸な距離でも絞りを開くと独自の描写が見込める。少し絞ると整った像になる。APS-Cセンサー搭載のEOSに装着すると画角的には中望遠だが、適度な被写界深度があるので、不自然さがない。
Canon EOS Kiss X7  EF50mm f1.8 STM F2.8 1/640 ISO200



「あんかけチャーハン」をその場の明かりのみで撮影。開放絞り至近距離だけれど、合焦点のシャープネスはなかなかのもの。ボケになだらかさはないが、大口径ならではの描写である。
Canon EOS 5D Mark III EF50mm f1.8 STM f2 1/320 ISO1600 -0.33EV

すべてのEOSユーザーが所有するべき1本

最近登場したシグマやコシナ・ツァイスの50mmレンズはレトロフォーカスタイプであり、その性能に関してはズバ抜けている。“性能が高すぎる”と言い換えてもよいかしれない。価格もそれなりにするから贅沢な悪口だけどね。EF50mm F1.8 STMは伝統のガウスタイプの写りであり、描写には懐かしさや親近感すら感じるほどである。開放での合焦点の線の太さ、前背景ボケのやや雑駁な再現というのは、個人的には嫌いではない。長年見慣れたものであるからだ。ごくあたりまえの標準レンズの描写と言ってよいだろう。少し絞るときりっとした画面の均質性の高い描写になるので、緻密な再現が必要な場合でも問題はなかろう。APS-Cセンサーを搭載したEOSでは80mm相当画角になるので、ポートレートにも使いやすい。

STMの動作は無音ではないものの静粛かつ迅速で、I型、II型のようなあの耳障りな駆動音もしない。全体的に作り込みの品格が向上した感もある。ただ、距離指標を省略したのはどうかと思うけど、これもコストダウンのためなのだろうが、もう諦めるしかないんだろうなあ。とにかく、撮影対象によらず、すべてのEOSユーザーには確実に役立つレンズであり、所有する意味のある1本だと思う。



絞り込むと像は均質性が向上して画面全体が整う。やや厚ぼったいような描写だが、レトロな感じがモチーフと合致しているようだ。
Canon EOS 5D Mark III EF50mm f1.8 STM f8 1/500 ISO100 -0.33EV


歪曲収差の補正は良好だ。現時点ではDPPのデジタルレンズオプティマイザに対応していないが、対応すればカンタンに完成度の高い画像になるはず。
Canon EOS Kiss X7  EF50mm f1.8 STM F8 1/1250 ISO200 -0.33EV


合焦点は非常にシャープだが、ボケは個性があって、好みが分かれるところ。少し絞り込んだほうがボケも整う感じ。シリアスなモノクロの心象風景などに似合いそうな描写ではないかと思う。
Canon EOS 5D Mark III EF50mm f1.8 STM f2.8 1/3200 ISO100


梅雨の晴れ間の強烈な太陽を画面内に入れてみた。ゴーストは認められるが、コーティングの改良もあるのか問題にはならない程度。それよりも太陽光を入れても画質低下を感じないことを評価するべきだ。
Canon EOS 5D Mark III EF50mm f1.8 STM f8 1/800 ISO100 -1EV
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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