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単焦点レンズで世界を変える!

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単焦点レンズで世界を変える!
公開日:2015/05/21

シグマ 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF

photo & text 赤城耕一

キヤノン EOS5D MarkIII +  シグマ 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
ボディとのマッチングがよい。ただし、超音波モーター駆動ではないから動作音がする。AFの速度はお世辞にも速いとはいえないが実用上は問題ない。現行のArtラインのレンズと比較すると野暮ったいが、許容できる範囲であろう。

不人気だがマクロ撮影が可能な大口径広角レンズ

本レンズは35mmフルサイズのイメージサークルをカバーする大口径広角レンズである。登場年から軽く10年は越すが、2014年にニコンからAF-S ニッコール20mmF1.8G が登場するまでは一眼レフ用の交換レンズとしては同スペックの製品は他には存在していなかった。したがって、製造中止になったいまでも個性があり、存在価値は十分にある。ただ、なぜか一般的には不人気らしく、中古市場でもそのタマ数は少ない。それでも廉価に販売されているから、狙い目の穴のレンズなのである。

古い光学設計だから、デジタル用と銘打っていても、そこはそれ最新のレンズには数値性能面ではかなわないというのが、まず最初の結論になる。
おそらく本レンズは、まだデジタル一眼レフのセンサーサイズがAPS-Cをベースとしていた時に企画されたものなのであろう。APS-Cサイズセンサーのカメラでは、30mmから32mm相当の画角になるから、スナップなどにはたいへん使いやすい画角になる。



メーカー
SIGMA
製品名
20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
焦点距離
20mm
レンズ構成 11群13枚
最短撮影距離
0.2m
絞り羽枚数
9枚
フィルターサイズ
82mm
マウント
シグマ、ニコン、キヤノン、ソニー、ペンタックスに対応
大きさ/重さ
φ88.6×89.5mm/520g
製造年
2001年
出会いの頻度
★★★
見せびらかし度
★★★
ポケット収まり度

ボケ度
★★★★★
キレ度
★★


絞ると画面の均質性は向上するけれど、中心部とはまだ少し差がある。画面の上部があまりよくない。歪曲収差補正は良好だ。
Canon EOS 5D Mark III + SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
F8 1/640 ISO200 -0.67EV

実写面ではどうだろう。これも結論を先にいえば、周辺までの緻密で均質な画像を求めたい人には、正直なところあまり向いてはいない。画像を仔細にみるとかなり絞り込んでも画面全体の画質が均質ではないからである。おそらく像面の平坦性があまりよくないのだ。

ところがだ、開放絞りでも中心部の描写力はかなり高く、コントラストも高い。ボケ味は広角レンズだけあって、条件によっては、いささかクセが出ることもあるが、至近距離においてはボケが大きくなることもあり、さほど感じない。周辺域の描写の低下もAPS-Cサイズのデジタルカメラならば画質が低下した部分を切り捨ててしまう理屈になるのでさほど気にならない。撮影者はこの特性をあらかじめ知っておけば欠点をカバーしたり、応用したりすることができるはずである



カメラを地面に置いて、最短撮影距離で撮影。絞りを開くとそこには肉眼では予想もつかない世界が広がる。手前のボケが想像もつかないことになっている。
Canon EOS 5D Mark III + SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
F2 1/8000 ISO400

レンズ構成は11群13枚とズームレンズなみの贅沢さ、最短撮影距離は0.2mと短い。大口径広角レンズの場合は至近距離では性能低下することが予測されるため、最短撮影距離は無理をしないというが定説だ。それでも、このレンズは実際に写真を撮っている人が設計しているのだなと思わせるスペックであり、ここは高く評価したいところである。絞り羽根は9枚だ。

開放F値の明るさを生かし、夜間や室内での微量光下条件においてのスナップ撮影にも適してはいるが、最新のデジタルカメラの高感度画質は優れているので、よほどのことがないかぎり開放で使う必然性はない。

本レンズの面白いところ、使いこなしの妙味は、広い画角+浅い被写界深度という、一見すると特性的に矛盾した作画ができることだ。つまり、焦点距離が短い=被写界深度が深いというステレオタイプな理屈を大口径化によって覆しているからである。しかも最短撮影距離が短いので、いわゆる広角マクロ撮影が可能だ。

あたりまえだが焦点距離は20mmでも至近距離で絞り開放となればかなり被写界深度が浅くなる。この時の個性的な描写は、ズームレンズでは到底得られない雰囲気があってきわめて興味深いものがある。



 意図的に複雑な背景を選んで撮影してみた。まるで露光間ズーミングのようなボケ。ざわついた感じもある。玉ボケのカタチはまずまず。被写体によっては効果が出るかもしれない。
Canon EOS 5D Mark III + SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
F2 1/1600 ISO100 -0.33EV


最短撮影距離0.2mでの撮影。マクロ専用レンズではありえない世界でこれはこれで面白い。この条件ではボケは素直だ。
Canon EOS 5D Mark III + SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
F1.8 1/1000 ISO100 -0.33EV

ただし、開放時の厳密なピント合わせも撮影者には工夫が求められる。このレンズに限らず、超広角系の大口径レンズは、一眼レフボディとの相性の問題も出てくるのではないかと個人的に感じている。位相差AFでは厳しいこともあるだろう。撮影条件によっては、狙ったところに何としてもピントを合わせたいという場合は、一眼レフでもライブビューに切り替え、コントラストAFを使うか、潔くMFに切り替えて、ピントを追い込んだほうが確実になるだろう。


薄曇りの逆光時の光景。パースペクティブはさほど不自然ではなくリアリティがある。線はやや太め。階調の再現性が良好なのはカメラとレンズの力が協力したからだろうか。四隅の画質はやや落ちる。
Canon EOS 5D Mark III + SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
F5.6 1/3200 ISO400 -0.67EV


公園の遊具も広角レンズで近寄ってみると奇妙な世界を演出できる。この条件のボケは少々重たい感じだが、主要被写体と背景の距離や被写体によぅてもボケの雰囲気が変わる。
Canon EOS 5D Mark III + SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
F4 1/1600 ISO100 -0.67EV



キヤノン EOM M3 + シグマ 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF



意外と、と言っては失礼だが、実用以上の実力を発揮。AFの速度も実用上は問題ない。が、動作に俊敏さを求める人はやめたほうがいい。コントラストAFによる合焦精度の安心感は高い。ただ、これはM3側の問題だが、測距枠の大きさを変えることができればより安心感が増すと思う。


EOS M3で撮影。意外にもAF速度は文句のないレベル。32mm相当の画角になるが使いやすい。
Canon EOS M3 + マウントアダプター EF-EOS M
+ SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
F3.2 1/320 ISO200 -0.67EV

周辺描写のユルさを許容できる人へ

本レンズは数値性能にたよらない作画意識の強い人に適したものである。周辺域の微妙なユルさというのは、いまのシグマのArtラインなどのレンズでは許されないのかもしれないけれど、写真は全画面がシャープでなければ良い写真ならないというわけではない。

将来的にはおそらくArtラインから同スペックのレンズが登場してくる可能性もある、あくまでも推測だが、それはかなり高性能化され、描写性能は鉄板のものになるだろうから、逆に本レンズよりも“語る” ところが少なくなるかもしれない。
本レンズの描写は、最新の大口径広角レンズのシャープネスよりも温かみがあるように思えてくるので好ましい。
緻密な描写を求める風景写真や建築写真を撮るには向いていないが、ドキュメントやポートレート、スナップなど、ちょっとくらい周辺領域の画質が悪くても写真の内容に影響なんかしないさ、と割り切ることのできるおおらかな気持ちを持っている人にぜひ使用してもらいたいレンズなのである。



【メーカーサイト】
SIGMA 20mm F1.8 EX DG ASPHERICAL RF
http://www.sigma-photo.co.jp/lens/discontinued/20_18/



 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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