銀塩手帖
公開日:2017/04/24
ニコンミュージアム「創立100周年記念企画展 第2回カメラ試作機〜開発者たちの思い」
photo & text 中村文夫
ニコンの歴史と共に門外不出の試作機が展示
2017年4月4日より品川のニコンミュージアムにて、創立100周年記念企画展 第2回「カメラ試作機〜開発者たちの思い」がスタートした。本来、試作機は製品が完成されると破棄される運命にあり、現存することは極めて少ない。さらに試作品はそのメーカーの開発手法を示すヒントになるので「マル秘」扱いされることも。いわば試作品は「門外不出」が原則で、一般の目に触れることは、ほとんどない。
今回の企画展では1940年代から80年代にかけて製作された試作機約40台を展示。ニコンファンだけでなく多くのカメラファンにとって千載一遇のチャンスと言えるだろう。数あるカメラメーカーの中でも、ニコンは自社の歴史を大切にすることで知られているが、これだけ多くの試作機が保存されていたとは!! まさにニコンならではの企画展である。
年代別の試作機と未発売の試作機が並ぶ二部構成の企画展会場
ミュージアム入口近くに設けられた企画展会場は、ニコンSシリーズからF4までの試作機を年代順に並べたコーナーと16ミリフィルムを使うミニカメラや中判カメラなど発売に至らなかった試作機を中心に展示するコーナーの二部構成。なかでも文献などでは存在が知られているにも関わらず実物の姿が謎とされてきた本邦初公開の製品や、これまで写真でしか見る機会がなかった製品の実物が見られるなど、今回を逃すといつ見られるか分からない貴重な製品のオンパレードだ。
1948年から1988年に製造された試作カメラを展示するコーナー。展示品はショーケースの中に入っていないので、ガラス越しではなく直に見ることが可能。写真撮影もOKなので、この機会に私的アーカイブを作るのも良いだろう。
ニコンの歴史を刻む年代別の試作機
S型ライカマウント試作機(1950年頃)
ニコンSボディにライカスクリューマウントを搭載。当時のレンジファインダー機市場はライカスクリューマウント機が大きなシェアを持っていたので拡販の目的で試作された。1950年はライフ誌のカメラマンD・D・ダンカンがニコン神話を作った年。氏が初めて使用したニッコールレンズがライカスクリューだったことが関係したのかも? また当時ニコンはキヤノンにスクリューマウントレンズを供給しており、競合を避ける意味で発売しなかったという説もある。
ニコンSPX開発試作機(1962年)
ニコンSPにTTL方式の露出計とバヨネットマウントを搭載。露出計受光部を先端に取り付けたアームをボディ底部に備え、これが出入りして露出を測る。マウントは独自の規格で、レンズの大口径化に対応するためライカMマウントより口径が大きくなっている。
ニコンFハーフサイズ開発試作機(1960年)
ニコンFの画面サイズを半分にしたハーフサイズカメラ。通常のフィルムの2倍のコマ数が撮れるのでフィルム交換時のタイムロスを防ぐことができる。またモータードライブ使用時にも有利なことから、報道分野向けを意識したものと考えられる。
ニコンF2フォトミックS試作機(1971年)
露出計を内蔵したフォトミックファインダーDP-2と、これと組み合わせてシャッタースピード優先AEを可能にするEEコントロールユニットの試作機。F2発売時のカタログに掲載された製品の実物だ。
ニコンF3開発試作機初期試作機(1975年)
ニコンF3開発試作機後期試作機(1977年)
F3はF1桁シリーズとして初めて本格的な電子化を採用した絞り優先AE機。初期試作機はペンタプリズム部にニコンFMを思わせる山型フォルムを採用しているが、後期試作機はイタリアの工業デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロのデザインにより台形に変更。赤のストライプとグリップも加えられた。
ニコンF4開発試作機(1985年)
F3同様、ジョルジェット・ジウジアーロがデザインを担当。ボディ正面Nikonのロゴは最初は緑色で指定されていたが、後に黒に変更された。そのためこの試作機に後から黒く塗った跡が残る。またボディカラーもグレーだった。
発売に至らなかった試作機
ニコンF4の試作機のほか、発売に至らなかった製品を並べたコーナー
今回紹介する製品以外にも、ニコンF用防音ケース、ワーキングディスタンスを一定に保ったまま撮影倍率が変更できる拡大撮影装置、ワイヤレスマイクに対応したサウンド8ミリムービーカメラやカートリッジ式フィルム装填を採用したレギュラー8ミリムービーカメラなど、非常に珍しい試作機がズラリと並ぶ。
16mm判カメラ開発試作機(1957年)
マミヤ16、ミノルタ16などが牽引した豆カメラブームに向けて開発。距離計連動式ファインダーなど高級機に引けを取らない機能を装備。開発中にブームが終わり発売されなかった。
ハーフサイズカメラ開発試作機(1961年)
オリンパスペンが巻き起こしたハーフサイズカメラブームに合わせて開発。縦型ボディデザインを採用し、カメラをふつうに構えたとき画面が横型になる。
中判カメラ開発試作機(1966年)
6×7判の画面サイズを採用したフォーカルプレーンシャッター式一眼レフ。このフォーマットでは1969年発売のペンタックス6×7が有名だが、これより早く試作が行われていた。当時ニコンはゼンザブロニカにニッコールレンズを供給しており、その影響があったらしい。フィルムバックとファインダーは交換式で、交換レンズも試作されていた。
手書きのアイソメ図
カメラの内部構造を関係者に理解してもらうための図面。英語表記だとisometric Illustrationとなることから、ニコン社内ではアイソメ図と呼ばれていた。平面図から立体的な図を描くには専門的な技術が要求されるが、当時は設計者自ら描いていた。コンピュータによる設計が主流の現在、失われつつある技術であるという。
今回の企画展に展示された資料は約40点だが、ニコンは、このほかにも多くの資料を所蔵しているという。なかでもニッコールレンズ関係に多くの試作品が存在するとのこと。今回に続き、第二弾、第三弾の企画展開催を期待したい。
<展示情報>
ニコンミュージアム
創立100周年記念企画展
第2回「カメラ試作機〜開発者たちの思い」
展示期間:2017年4月4日(火)〜7月1日(土)
開館時間:10:00〜18:00(最終入館は17:30まで)
休館日:日曜日、祝日、および当館の定める日
※土曜日が祝日の場合は休館
◯2017年ゴールデンウィークの休館日:
2017年4月29日(土)〜5月7日(日)
入館料:無料
所在地:〒108-6290 東京都港区港南2-15-3 品川インターシティC棟2F
TEL: 03-6433-3900
http://www.nikon.co.jp/corporate/museum/events/
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| 中村 文夫(なかむら ふみお)
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーとして独立。カメラ専門誌のハウツーやメカニズム記事の執筆を中心に、写真教室など、幅広い分野で活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深く、所有するカメラは300台を超える。日本カメラ博物館、日本の歴史的カメラ審査委員。 |