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ミラーレス機で紡ぐオールドレンズ・ストーリー

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ミラーレス機で紡ぐオールドレンズ・ストーリー
なぜ、オールドレンズに惹かれるのだろう。
描写性能を求めるのであれば、先進技術を駆使した現行レンズに勝るものはない。そうとわかっていても、オールドレンズに魅せられてしまう。レトロに撮れるから。古今東西の名レンズがそろっているから。
どれだけ理由を並べても、その魅力の核心にはたどり着けない。
なぜならオールドレンズは、主観抜きに語れないからだ。
ファーストショットの感動、フィルムカメラへの思い、傑作をものにした感触。
そのレンズと時間をともにした者だけが抱く、思い入れの数々。
それこそが、いまあえてオールドレンズを使う真の理由を物語る。
写真家5名が紡ぐ、オールドレンズ・ストーリーをご覧あれ。
公開日:2012/09/12

光が見えるレンズ Olympus PEN E-P1 + Canon 25mm F3.5

photo & text 河田一規

迷い出た階段室にて。見上げた窓から差し込む光の強さに、遠い夏の陽を思い出す。
Olympus PEN E-P1+Canon 25mmF3.5 絞り優先AE f11 ISO6400 RAW

拡大フォーカスに感じる違和感

オールドレンズを始めとする各種マニュアルフォーカスレンズをミラーレス一眼で使う場合、液晶モニターもしくはEVF上でピント合わせを行うことになる。その際、ミラーレス一眼ではピントを合わせたい部分を拡大表示できるので、正確なフォーカシングができてすごく便利である。が、個人的には、この拡大表示のピント合わせというのがどうも納得できない。というか、生理的に受け入れがたいというか。
考えてみればバルナック型ライカでも拡大表示のピント合わせ用距離計を覗いたあとにフレーミング用ファインダーに目を移すわけで、その意味ではバルナック型もミラーレス一眼+MFレンズも似たようなピント合わせ方法といえる。しかし、バルナック型のピント合わせプロセスは全然イヤだと思わないのに、ミラーレス一眼の拡大表示ピント合わせは何か馴染めないのだ。バルナック型の場合は純粋にフィジカルな行動なのに対し、ミラーレス一眼のそれはアンフィジカルというか、一連の撮影動作の中でその部分だけ異質な操作に感じてしまうからだろうか。
もちろん、望遠レンズやマクロ、大口径レンズを絞り開放で使う時は他に方法がないので有り難く拡大ピント合わせを使うわけだが、それ以外の広角とか標準レンズの時は、もっぱら目測ピント合わせと外付け光学ファインダーの組み合わせで撮影することが多い。この方法だと、ミラーレス一眼独特のちょっとサイバーチックな雰囲気をすべてキャンセルして、野生の勘でバシバシ撮れるのが最高!……と思っている。I型系のバルナックライカやMD系のM型ライカなど、ファインダーや距離計の付いてないライカを愛用している人にはお馴染みの撮影スタイルである。



丘の上に建つ古い洋館。動脈のように行き交う頭上の配管に物静かな息吹を感じる。
Olympus PEN E-P1+Canon 25mmF3.5 
絞り優先AE f11 ISO6400 RAW

標準レンズ画角を目測で楽しむ

個人的に一番好きなのは標準レンズの画角。そう、35ミリ判でいうところの50ミリレンズの画角である。マイクロフォーサーズ規格のミラーレス一眼の場合、センサーサイズの違いによる画角換算を勘案すると、標準レンズは25ミリあたりになるわけだが、ちょうど25ミリの焦点距離を持つオールドレンズというのは意外に少ない。別に24ミリでも全然いいのだが、24ミリは一眼レフ用が多く、それだとマイクロフォーサーズで常用するにはチト大きい。
というわけで、大きさ的にマイクロフォーサーズ、特に愛用のペンE-P1とバランスがよいサイズの標準レンズとして、キヤノンの25ミリF3.5を個人的に多用している。25ミリというのはマイクロフォーサーズフォーマットでは50ミリ相当の標準画角だけど、実焦点距離はあくまでも25ミリなわけで、35ミリ判なら立派な広角レンズ。普通の撮影は目測でも充分イケるのだ。さらにこのレンズの場合、絞り開放付近のデリケートな描写が云々というキャラクターでもないため、絞って使うことが多く、なおさら目測撮影向き。ピントリングの距離目盛りと被写界深度表示も充実しており、安心して目測撮影を楽しめる。



古い建物に入った時に感じるヒヤっとした空気は、古いレンズを手にした時の感触に似ている。
Olympus PEN E-P1+Canon  25mmF3.5 
絞り優先AE f11 ISO6400 RAW

オールドレンズらしさを裏切らない写り

オールドレンズに「何を求めるか」は人それぞれだと思うが、自分的には近代レンズにない味わい深い描写が欲しい。「味」は濃ければ濃いほどよく、場合によっては暴れ気味の描写になっても全然かまわない。
その点、このキヤノン25ミリF3.5の描写は期待を裏切らない。逆光気味では光源のニジミがすごいし、強いサイドライトでは光がシャワーのようになって画面内に降り注ぐのだ。どちらも近代レンズではありえない効果というか欠点だが、本来は見えないはずの「光」をニジミやゴースト、フレアなどで可視化してしまうのは痛快ともいえる。
キヤノン25ミリF3.5の登場は今から55年前の1956年。キヤノンのサイトには「当時このレンズは25ミリの焦点距離レンズでは世界最高の明るさであった」とある。トポゴンタイプというかなり特殊な光学系でありながら明るさも追った結果、全方位的に性能のいいレンズにはなっていないと想像できるが、だからこその個性的な描写が今となってはウレシイのだ。

洋館の外に出ると、木漏れ日が光のシャワーとなって降り注いでいた。
Olympus PEN E-P1+Canon 25mmF3.5 絞り優先AE f11 ISO5000 RAW

目測撮影のちょっとした注意点


マウントはφ39mmのスクリュー、いわゆるライカLマウントなので、ミラーレス機への装着には当然マウントアダプターが必要。ここでひとつ注意しなければならないのは、マウントアダプターの中には無限遠を微妙に浮かせた、いわゆるオーバーインフになっているものがあるということ。マウントアダプターをキッチリと無限遠に合わせてしまうと、レンズの個体差によっては無限遠が出なくなってしまうことへの配慮だと思われるが、その場合、レンズ側フォーカスリングの距離表示と実際の合焦位置が微妙にズレるため、目測撮影がかなりやりにくくなってしまう。目測撮影を行うのであれば、レンズのフォーカスリングを無限遠にしたときにちゃんと無限遠が出るマウントアダプターを使いたい。


Olympus PEN E-P1 + Canon 25mm F3.5
PENデジタルは全部試したけど、やっぱり初代E-P1が一番好き。特にホワイトボディは手にした時の感触がよく、撮る気にさせてくれる。ファインダーはフォクトレンダーの50mm用を装着。


「キヤノン Lマウント マニュアルフォーカスレンズをCAMERA fan内で探してみる!



河田一規(カワダ・カズノリ)

横浜市生まれ。10年間の会社勤めの後、写真家・齋藤康一氏に師事。4年間の助手生活を経てフリーに。最初の写真体験は小学生の時に持ち出した父親の二眼レフ。今から思えばブローニーで写真入門はなかなか贅沢なことだったかも。とはいえデジタルとフィルムの両輪生活を送れる今も贅沢か……。