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単焦点レンズで世界を変える!

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単焦点レンズで世界を変える!
公開日:2015/11/16

タムロン SP 45mm F1.8 Di VC USD

photo & text 赤城耕一

EOS 5D MarkIIIに装着。鏡胴は太めだが、バランスはいい。仕上げも純正EFレンズに負けてはいない高品位さを感じる。フードは花形のバヨネットタイプで深く、余分な光を遮ってくれる。

前回のタムロン SP 35mmF1.8 Di VC USDに続き、今回は同時に発売された、タムロンとしてはまったくの新しい焦点距離の単焦点レンズとなるSP 45mmF1.8 Di VC USDを試してみた。

45mmという焦点距離は最近では珍しいように思うが、かつてのフィルム時代のコンパクトカメラにも搭載されていたし、ニッコールやコンタックスGシリーズにも同様の焦点距離のレンズが存在する。ほとんど50mm標準レンズと変わらない特性を持つ「準標準レンズ」という立ち位置になる。

50mmとはわずかな画角の違いにしかすぎないはずだが、時としてファインダーを覗くと独自の個性を感じることがあるのは不思議である。絞り開放像による明るいファインダー像の演出によるものかもしれない。もっとも絞り込んだ場合は被写界深度は50mmレンズよりもやや深くなるのでスナップショットには有利にはたらくはずだ。
「標準レンズ」の焦点距離はフォーマットの対角線の距離に等しいとされる。35mmフルサイズの場合はおおよそ43mmとなる計算になる。意図的なのか性能を追い込んだ末の設定なのかはわからないが、43mmに近い、45mmという値が設定されているのが興味深いところだ。



長さは、91.7mm(キヤノン用)/89.2mm(ニコン用)。
35mm F1.8 Di VC USDの長さ「80.8mm(キヤノン用)/78.3mm(ニコン用) 」 と比較するとキヤノン用、ニコン用ともに、10.9mm長い。
最大径は、45mmF1.8、35mmF1.8、どちらも直径直径80.4mmと同サイズだ。フィルター系は、どちらも67mm。


距離指標があるのは嬉しいが被写界深度指標は省略。焦点距離からすれば絞りを開いた状態で目測で撮影するのはリスキーだから実用上は問題なさそうである。

機能的には35mmF1.8VCと同様にVC(手ブレ補正)を内蔵していることに注目である。45mmレンズとしては世界初だが、大口径標準レンズに手ブレ補正を内蔵したことは意味のあるものだと考えている。さほど感度を上げずとも、微量光下でのスナップや室内でも安心して使用できるからである。

鏡胴は金属製、デザインもフォーカスリングを幅広くMF時の操作性を向上させていることが特徴。レンズ構成は8群10枚。GM、LDレンズを採用。VC内蔵、最短撮影距離は0.29メートルとかなりの近接撮影が可能だ。USD、コーティングやフローティング機構、簡易防滴機構は35ミリと同じ。重量は540グラム(キヤノン用)とスペックの割にはやや大きく重いが、バランスは悪くないので、手にしてみると不思議なことに見かけよりも軽量に感じる。大きさは性能面での余裕につながっている。

レンズ構成図をみてみると、旧来の標準レンズに多いガウスタイプではなく、広角レンズ系に多いレトロフォーカスタイプを採用している。最近のシグマ、コシナ・ツァイスのOtusなどの標準系レンズと設計のコンセプトは近く、徹底した高性能化を追求したもので、残存収差による情緒を排除したようなドライな面がある。高画素デジタルにも耐えることのできる描写を目指しているのであろう。




極端な遠近感の誇張がないため、極端な角度のアングルでもあまり不自然さを感じないのもいいところ。50mmよりも少し被写界深度が深いため、スナップにも強みを発揮する。
Canon EOS 5D MarkIII + TAMRON SP 45mm F1.8 Di VC USD
F1.8 1/8000 ISO100 -1EV

針で突いたようなシャープネスと豊かな階調表現


実写画像をみてみると、開放から驚きの高性能で、コントラストが高いことはもちろん合焦点は針で突いたように線が細くシャープである。ガウスタイプの標準レンズにみられるようなハロも感じない。開放時の周辺光量低下がまた品が良いのがいい。素直なボケ味とシャープネスが同居するイメージで、光線状態があまり良くない条件でも描写性能面での信頼性は高く、積み上げてゆくような豊かな階調の再現性もあって好感が持てる。


最短撮影距離が短いのは嬉しい。手持ち撮影だが、手ブレ補正の効きも良いようだ。絞り開放で撮影したら、被写界深度が浅いために浮遊しているような画になる。撮影距離による性能の変化もない。
Canon EOS 5D MarkIII + TAMRON SP 45mm F1.8 Di VC USD
F1.8 1/200 ISO400


絞りを開いて自分の“見たいものだけ”を抽出するという技が大口径レンズの使いこなしの方法論の一つであり、廉価なズームレンズではできない手法である。
Canon EOS 5D MarkIII + TAMRON SP 45mm F1.8 Di VC USD
F2.8 1/2000 ISO100

位相差AFによるフォーカスのズレに注意したい

大口径レンズは使用するカメラの相性によっては位相差AFのわずかな誤測距によるフォーカスのずれが生じることがある。絞り開放時の撮影など、ここぞというときレンズのポテンシャルをすべて引き出したい場合は、あらかじめボディ側でのフォーカスの微調整をチェックしておくことも必要である。

被写体が静物の場合は、フォーカシングの速度は遅くなるけれど、ライブビュー撮影モードに切り替え、コントラストAFを使用することを念頭に入れるか、モニター像を拡大してMFに切り替え、精度の高いフォーカシングを行うなど手間を少々かけた方が結果は間違い無く良い。条件によっては覚えておきたい撮影方法である。
 

モニュメント。絞り開放でも合焦点のシャープネスは見事。ガウスタイプの標準レンズとは異なる描写である。品の良い周辺光量落ちが画面を締める感じで効果的。
Canon EOS 5D MarkIII + TAMRON SP 45mm F1.8 Di VC USD
F1.8 1/6400 ISO100 -0.33EV



駅前にて。自然な描写力に好感が持てるが、歪曲収差が小さく、自然な描写になる。曇天の条件下だが、細部までの優れた解像力にも助けられる。
Canon EOS 5D MarkIII + TAMRON SP 45mm F1.8 Di VC USD
F5 1/2000 ISO200 -0.67EV


その昔はレトロフォーカスタイプのレンズはボケ味にクセが出るのはないかという不安もあったのだが、クセを感じさせないボケ味。ヌケも良い描写である。
Canon EOS 5D MarkIII + TAMRON SP 45mm F1.8 Di VC USD
F2 1/4000 ISO100

大口径標準レンズの必要性

ひと昔前まで、レンズメーカーが45〜50mmの標準域の単焦点レンズを発売することなどマクロレンズなど特別な物を除けば考えられなかったが、高倍率や標準ズーム全盛時代を迎えたことで、逆に大口径を前提とした標準レンズの存在が見直される傾向にあることは注目してよいだろう。明らかに標準ズームレンズとは異なる作画を行うことが可能になるのである。



<メーカーサイト>
タムロン 新SPシリーズ
https://www.tamron.co.jp/lineup/f012_f013/#/

TAMRON SP 35mm F1.8 Di VC USD
https://www.tamron.co.jp/lineup/f012_f013/#/35mm-F18

TAMRON SP 45mm F1.8 Di VC USD
https://www.tamron.co.jp/lineup/f012_f013/#/45mm-F18
 
赤城耕一
東京生まれ。出版社を経てフリー。エディトリアルやコマーシャルの撮影のかたわら、カメラ雑誌ではメカニズム記事や撮影ハウツー記事を執筆。戦前のライカから、最新のデジタルカメラまで節操なく使い続けている。

主な著書に「使うM型ライカ」(双葉社)「定番カメラの名品レンズ」(小学館)「ドイツカメラへの旅」(東京書籍)「銀塩カメラ辞典」(平凡社)

ブログ:赤城耕一写真日録
 
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