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南雲暁彦のThe Lensgraphy

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南雲暁彦のThe Lensgraphy
公開日:2022/01/31

Vol.3 Leica SUMMICRON-M 1:2 / 35(第4世代)「母国語を話すが如く」

南雲暁彦


 僕はレンズを選択するときにある種の覚悟みたいなものを持つことが多い。表現のIDEAが頭を駆け巡るときに「今回はこのレンズの言語を使いこなしてこう撮る」という意識が働く。特殊なレンズになればなるほどそうで、それはちょっと外国語で頑張って話をする様な感覚に近い。標準に近いレンズだとまあ方言ぐらいで済むのだが超望遠などは「ちょっと練習しないとかな」という気持ちになる。
そういう意味で35mmF2というスペックは、良くも悪くもそういう力が入らない。まさに母国語のように、付いていることすら忘れるぐらい自然な存在だ。

だがしかし、それは逆に最も激戦区だということを意識しなくてはならないという事だ。これは個人的な撮影や写真に対する意識にもよるが、僕はどんなレンズだろうと写真にする意味が欲しいし、魅せる写真が撮りたい。母国語はみんなが話せるわけだから、話せるだけではあまりにも普通で、このレンズは気を抜いてかかると本当に気の抜けた、後で見るのも辛くなる写真を撮ってしまいそうなのだ。
という事で、「いつもより言葉巧みに」という意識を意地で固めて挑んでみた。


ズミクロン35mmF2の性能は散々語られ尽くしていて僕がどうこう言うまでもないが、完璧なまでに普通だ。どんな時でも極端にならず、淡々と映る。M10-Pのレンジファインダーを埋め尽くす光と最も近い描写だと思った。

さて、僕としてはあくまでカッコよく。このズミクロンで東京を切り取っていくだけだ。


Leica SUMMICRON-M 1:2 / 35(以下、同)
1/60秒 F2 ISO640



1/90秒 F2 ISO200

写真はレンズで決まるとは言うが、露出だって、切り取る瞬間だって、要素は他にもあるのだ。「自然に、素直に」が売りの35mmかもしれないが、出したいのはレンズらしさではなくて自分の視点と表現だ。癖のないレンズに自分の癖を思いっきりかぶせて撮る。そう言う使い方も面白いと思うし、それができるのがこのレンズの魅力だとも言える。

ミッドタウン日比谷を自分の露出とアングルで描く、この素直なレンズの白いキャンパスの上に、パステル画の様に、蛍光ペンの落書きの様に、鮮やかで明るい僕が見せたい世界を作っていく。


露出やアングルでその場の雰囲気を変えてしまえるのも写真の面白み。
1/30秒 F2 ISO2500



光を帆に当てて進んでいく船の様に、夜になると見えてくる風景。
1/30秒 F2 ISO1600



この場所のデザインをどう意受け止めるか、それも写真だ。
1/45秒 F2 ISO5000


これはこれでよし。一人で寒い中で写真を撮っていても、見せて魅せたい写真が撮れれば満足なのがフォトグラファーの性。どこにいてもそんなものだ。

ちょっとハードのことを書くと・・・
今回のレンズは1997年に発売された第4世代のズミクロン35mmで、このモデルから非球面レンズが採用された、絞り羽根は8枚(現行モデルは11枚)。歪みはM10-Pのレンズ検出を入れてしまえば周辺減光と共に補正されるが、そのままでもあまり変わらない印象、何のレンズで撮影したかデータを残したい場合以外は必要ないと思う。ボケや口径食は分かり易い写真を載せているのでご覧になって欲しいが。そもそもそういうところで勝負するレンズではない。
このレンズのピントノブ、ライカ然としたかっこいい部分だが横位置での快適な操作性と引き換えに縦位置がちょっと使い辛い。ここ以外にはローレットも刻んでいないのでレンズをつかんで回すのも困難でちょっと困った。この角度で距離を覚えて速写する、という使い方に特化した仕様だと思う。



街中の夜景で使った後にリアルで大きい光に満たされた空が見たくなったので、東京ゲートブリッジを望む場所にきた。ここも東京の新しい原風景を作るのに欠かせない場所だと思っている。
しかし、M10-Pとこのズミクロン35mmF2のセット、本当にコンパクトだ。こんなに小さくてフルサイズでファインダーも付いていて、レンズも付いていて(笑)すこぶる高画質で持っていて満足感の高いカメラはない。
ゲートブリッジは橋の左側から撮ろうとするとゴツゴツした岩場を登って行かないとアングルが取れないのでこの機動力の高さはとても助かった。


夕日が鉄橋をもう一つの光源に変える瞬間を狙う。
1/500秒 F2 ISO200



この上下の空間が必要なのだ。35mmが必要なのだ。
1/4000秒 F2 ISO200



ゲートブリッジの下を大きな船が通り過ぎていく、日が沈む様に、ゆっくりと、雄大に。
1/3000秒 F2 ISO200



1/1000秒 F2 ISO200 


1/45秒 F2 ISO200

リアルな光はあくまでリアルに捉える。それも良い。光の時間軸が地球のエッジを赤く染め、落ちていく。


1/30秒 F2 ISO3200 

母国語はその国の人が一番うまく使える。言いたいことがあればあるほど、伝えたい瞬間があればそれだけ、雄弁に語ることができる。

35mmを使いこなして初めてフォトグラファーになったと言えるのかもしれないな、と、そんな気持ちになった。
帰ろうと思い車に乗り込んだバックミラーに、白く浮かび上がるゲートブリッジが見えた。すごく大きく見えた様な気がしてまたカメラを持って橋の下に戻ったが、やはり同じ距離にそれは浮いていて、ズミクロンはそれを素直に捉える。

幻想などないと、しっかりとした言葉で僕は話す。



1/45秒 F2 ISO5000 


今度こそ帰ろうとして、それでももう一度振り向こうとした途中の視線に自転車があって、その後ろに夜景が地平線を作る、真ん中に東京タワーが見えた。なんて完成された視界なんだ、あのタワーの向こうに自分の街がある。刹那、帰ろうと思う意識が固定された。


これがそのまま。その視界をとらえた写真だ。このシャッターを切ってそのまま振り向かず帰路についた。
1/30秒 F2 ISO3200 




南雲暁彦
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<プロフィール>


南雲 暁彦(なぐも あきひこ)
1970年 神奈川県出身 幼少期をブラジル・サンパウロで育つ。日本大学芸術学部写真学科卒業。凸版印刷株式会社、ビジュアルクリエイティブ部所属 チーフフォトグラファー。世界中300を超える都市での撮影実績を持ち、風景から人物、スチルライフとフィールドは選ばない。近著「Still Life Imaging スタジオ撮影の極意(玄光社刊)」。APA会員。長岡造形大学、多摩美術大学非常勤講師。コマーシャル・フォト「IDEA of Photography 撮影アイデアの極意」を連載中
 

<著書>


Still Life Imaging スタジオ撮影の極意